裏切り
メリッサはリータを抱きしめながら、白い息を吐いて監獄の中でずっと閉じ込められていた。まったく外界の様子もわからないため、どれくらい日数がたったのかメリッサにもわからなかった。
監獄の中は、通常チャット以外の全てのチャットが強制的に使えなくなる。誰かに連絡を取ることも、誰かから連絡を受け取ることもできない。
音のない、孤独な牢獄で、メリッサは耐えた。あの男に一言「許してください。」と言えば、すぐにでも開放してくれるのは分かっていた。
けれども、メリッサはどうしてもあの男に許しを乞うつもりはなかった。それはメリッサの意地でもあり、子供たちへの贖罪でもあった。
ふと、考えにふけるメリッサの服を、リータが弱々しく掴んだ。どうやら目が覚めたようだった。
しかし、リータはもう話せなくなっていた。口をパクパクと必死で動かすが、その口から言葉は出ない。
リータはショックのあまり再び幼児のように泣きじゃくり始めた。
そんなリータの背中をメリッサはさする。
「大丈夫よ。私に触れればリータちゃんの言葉が聞こえるわ。」
メリッサの言葉に、リータは必死でしがみついてメリッサに伝えようとする。
『コ・コ・ハ・ド・コ?』
電子音のような声がメリッサの頭の中に伝わってくる。恐らくリータが現実の世界で使っていた、自分の声の代わりのPCの音声が影響しているのだろう。
「ごめんなさい、リータちゃん。私がリータちゃんを助けるために、ジオサイドくんを元の世界に無断で戻して怒られて、今牢屋に閉じ込められているの。」
『モ・ト・ノ・セ・カ・イ?』
「いいのよ、思い出さなくて。とにかく、リータちゃんを助けてもらいたくて、ジオサイドくんに別の世界へ行ってもらっているの。」
『ジ・オ・サ・イ・ド・・・。ヒ・ト・リ・デ、ダ・イ・ジ・ヨ・ウ・ブ・カ・ナ?』
自分のことより、ジオサイドのことを心配する思いやりのあるリータを強く優しく抱きしめ、なおさらにメリッサは自分の身勝手さを強く感じて辛かった。
『メ・リ・ツ・サ、ナ・カ・ナ・イ・デ。』
いつの間にかメリッサは涙を流しており、リータはその手でメリッサの頬を優しく拭った。
「ありがとう、リータちゃん・・・。」
その時、メリッサにはリータがまるで希望の光のように見えた。そして、リータを見て、メリッサは決意する。
―絶対に、希望の光を絶やしては駄目!どうか、神様・・・どんな罰でも受けますから、私に力を貸してください。
メリッサは初めて神に祈った。自分の頑なな心を溶かしてくれたあの男ではなく、男の敵である神にひたすら祈った。
「絶対に、絶対に、希望を見失わないで。きっと、ジオサイドくんが助けてくれる。」
メリッサは自分に言い聞かせるようにリータに言う。リータは不思議そうな顔でメリッサの顔を覗きこむ。
「リータちゃんは、自分で思うより、ずっと、ずっと強い子よ。そう、私よりも・・・。」
メリッサはリータの頭を優しく抱きかかえて、その髪に頬ずりする。
その時、急にメリッサの全てのチャットが機能した。なぜそうなったのかわからなかった。男の気まぐれなのか、それとも・・・。
メリッサは意を決し、自分の身の危険を覚悟でGM専用チャットで発言する。
『先程、あの方から言伝がありました。これから、全ての子供たちを元の世界へ急いで戻しなさい。ここでの子供たちの記憶は全て消去すること。』
GM達はその発言に動揺し、本当にそんなことをして大丈夫なのかとメリッサに尋ねてくる。
『安心して。あの方がもっと効率のよい方法を考えてらっしゃるの。その新しい世界の準備に早く取り掛かりたいから、速やかに全ての子供たちのここの記憶を消して、元の世界へ処分しなさい。』
メリッサは自分の発言の信用性を利用して、一か八かの賭けに出た。
多少の反発はあったものの、あの方からの伝言ならば、と、GM達は渋々従った。
―もう後悔なんてないわ・・・。
メリッサは全てをやり遂げたかのような達成感に満ちた表情で、石造りの冷たい壁に背中を預けた。
―私ひとりの命で子供たちが救えるのなら、それで構わない・・・。
メリッサは煌々と燃える高炉を見つめながら、優しくリータの髪をその手で梳いた。
その広場の片隅で、傍観する者が居ることにメリッサは全く気がついていなかった。
メリッサ決死の特攻。どうなるメリッサ?!
そしてなんか居る!




