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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/三沢裕也

 僕はなぜかそれから個室に移された。

 しばらくして母さんが息を切らして涙目で僕の居る個室へやってきた。

 母さんの姿を見て、嬉しくて申し訳なくて涙が溢れる。母さんも泣きながら僕のベッドへ駆け寄り、細く枯れたような僕の手を握った。その手の暖かさはいつかあの世界に居た時に何度か感じた暖かさだった。すごく懐かしいあの暖かさが、僕の手を再び包む。


 「ごめんなさいね・・・。裕也が学校でイジメにあってるなんて知らなくて・・・。本当に、母さん、裕也になんて言って謝っていいかもう分からない・・・。ごめんなさい・・・、ごめんなさい・・・。」


 母さんは僕の手に額を当てて大声で泣いた。近くでよく見ると、随分と頬がこけて、目にひどいクマができている。


 どうやら、僕が入院してしばらくして、クラスの同級生から匿名で電話があったらしい。

 そして母さんはひとり、僕の居た教室に無断で入って怒り散らしたらしい。最初は教師たちから、子供がPUCSになったのを学校のせいにして当たり散らしているモンスターペアレントとして見られていたようだった。

 けれど、母さんは仕事と看病の合間を縫って孤軍奮闘し、保護者仲間と連携して、とうとう僕がイジメられていた証拠を掴んで学校やイジメた奴らに認めさせたらしい。

 たぶん、元々母さんに電話をかけてきたのは、誰かまではわからないけど、おそらく僕の次にイジメのターゲットになった奴だろうと思った。


―さすが、ブロンズゴーレムらしいや。


 僕は母さんの話を聞いて、あの世界で見たブロンズゴーレムのイメージそのままだった事に少しおかしくて思わず笑いそうになってしまった。でも、僕のイジメられてた写メを見られたと思うと笑う気が一気に無くなってしまった。

 ブロンズゴーレムは、体は一つなのに、いくつも手や目があって、なんでもこなす沢山の手、ちょっと悪いことをしただけでもすぐに見つける沢山の目。

 そして、母さんはあの世界で僕を探してくれていたんだと思うと、僕も涙が溢れてとまらなかった。

 もっと早くに、僕がちゃんと話していたなら、母さんにこんなに辛い思いをさせずに済んだのに、と、僕は今更になって後悔した。


 「母さん、いっぱい心配かけてごめんね。」


 僕の弱々しい声に母さんは顔を上げて、僕に向かって首を振って否定する。


 「そんなことないわよ。ちゃんと気がついて、話を聞こうとしなかった母さんが・・・。」

 「僕・・・母さんに迷惑かけたくなかったし、いろんな写メ取られて恥ずかしくて嫌で、黙ってようって思ってただけなんだ。母さんは悪くないよ。」


 僕がそう言うと、母さんは顔をハンカチで覆って個室中に響く声で泣いていた。

 僕は母さんに会えて一安心したのか、少し体から力が抜けた気がした。

 その時、部屋をノックする音が聞こえて、お医者さんが沢山入ってきた。

 メガネをかけたおじいさんっぽいお医者さんを筆頭に、何人かのお医者さんが続々入ってくる。その中には、あの時目を覚ました時に居た豊平先生という人も居た。

 母さんは座っていた椅子から立ち上がろうとしたが、メガネをかけたおじいさん先生が

そのままで、というような仕草をして、母さんは椅子に座り直した。

 そして、メガネをかけたおじいさん先生が僕に微笑んでいろいろと僕の調子を聞いてくる。

 僕もそのおじいさん先生の質問に答える。そしてそれから、おじいさん先生から説明が始まった。


 「君は、初めてちゃんとした意識を持って自分で目を覚ました患者さん第一号なんですよ。」


 そう言われても、僕はあまり驚かなかった。僕は、僕の力だけで目を覚ました訳じゃないから・・・。

 そう思ってぼんやりしている僕をおじいさん先生は見てニコニコとする。


 「うん、そう言われても実感がわかないよね。とりあえず君は、しばらくこの個室で様子を見ることになったから、気兼ねなくゆっくり過ごしなさい。」

 「でも、個室ってお金が掛かるんじゃ・・・?」


 おじいさん先生の言葉に、思わず僕は母さんの方を見る。母さんは目と鼻を真っ赤にしながらも微笑んでいる。


 「真駒先生のご好意で、個室代は病院で負担していただけるの。真駒先生、本当にありがとうございます。」


 母さんは立ち上がり、そして泣きながら頭を下げた。真駒先生と呼ばれたおじいさん先生は、まぁまぁといいながら母さんを落ち着かせる。

 そして母さんが椅子に座ると、今度は真駒先生からいろんな先生の紹介があった。

 内科の先生、神経内科の先生、精神科の先生、外科の先生。神経内科の先生は案の定、あの豊平先生だった。だけど今日は豊平先生じゃなくて、紹介された内科の先生から説明が始まった。


 「まずは、その胃に付いてるチューブから栄養を流しながら、三沢君自信も流動食を少しの量から食べて、体力がついてきたら、外科の先生にその胃のチュー ブを外してもらいます。それから、流動食の量を徐々に増やして、最後はちゃんとした食事を摂れるくらいに元気になったらリハビリをします。それから、その 間に精神科の先生といろいろお話します。」

 「お話・・・。」


 僕は内科の先生にそう言われながら、目の前に居る島松先生という精神科の先生の笑顔がちょっと不気味で怖かった。ちょうど真駒先生と同じ年くらいのおじ いちゃん先生だけど、この人はあからさまに子供嫌いって感じがした。この人に全部話しても、絶対に信じてくれなさそうな気がして先が不安だった。

 その時、息を切らしながら、手に耳で計る体温計を持った、背が高くて細身のおじさんが入ってきた。

 すると、真駒先生はおじさん先生の方を見て、一瞬、眉根をよせて嫌そうな顔をした。


 「おや、岩見先生、今日は52度の熱でお休みだったのでは?」


 一瞬、先生たちの間で場の空気が凍ったのがひしひしと伝わってきた。


 「いやぁーすいません、うちの体温計が壊れてたみたいで、今急いでナースセンターから患者さん用の体温計借りて来ました。」


 岩見と呼ばれた人は、息を切らしながらこめかみに銃をあてがうような真剣な表情で、耳で計る体温計を耳に刺した。すぐに電子音が鳴って、岩見先生は内科の先生に体温計を見せる。


 「37度5分・・・。急いでいたせいもあるでしょうから、平熱ですね。」


 そう言って、そっけなく岩見先生に体温計を返した。岩見先生は、いやいやご迷惑をおかけしてすいませんでしたね、などと言いながら無邪気な笑みで体温計を受け取った。

 それからすぐに、髪の毛が半分ボサボサの女の人が入ってきた。


 「あら、イトマキ先生!大丈夫ですか?」


 真駒先生より早く、母さんは椅子から立ち上がってその女の人に声をかけた。


 「あの・・・こんなところでなんですが、ご迷惑おかけしてすいませんでした。」


 まるで風呂あがりに髪を乾かさずにそのまま来ました、というような感じの女の先生は真駒先生達に向かって深々と頭を下げた。

 真駒先生はニコニコしながら、一旦岩見先生とイトマキ先生と呼ばれる女の人達と一緒に部屋から出て行った。その姿を、豊平先生がソワソワしながら見ている。

 それからしばらくして真駒先生達が戻って来た。


 「紹介が遅れましたけど、今回三沢くんの外科の手術を直接担当してくれるのがこの岩見先生という人です。実は君が入院してきた時も彼が君のお腹の手術をしてくれたんだ。」


 真駒先生の紹介で、背の高くて細い先生はぶっきらぼうに挨拶した。


 「そして、こちらに居る女性の先生が、島松先生と同じ精神科医の伊東先生です。」

 「初めまして、三沢くん。島松先生と一緒に三沢くんのお話を聞く、伊東真木子と言います。これからよろしくね。」


 小柄でボサボサの髪のその伊東先生の笑顔は優しくて暖かかった。さっきまで島松先生っておじいちゃん先生と話さないといけないのかと思って不安だったけど、この伊東先生という人はなんだか信頼できそうだった。

 だって母さんが椅子から飛び跳ねるように立って挨拶するくらいのすごい人みたいだから、きっと大丈夫な気がしてきた。


内科の先生「やっと出番!てか出番すくなっ!名前もない!」

外科の先生「俺なんて置物・・・。岩見ェ・・・」




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