投獄
アジトの地下で、しばしすやすやと寝息を立てるリータを抱きしめながら、メリッサは
リータの心を少しでも癒そうとしている。しかし、リータの心から流れてくるあまりにも凄惨な記憶がメリッサの集中力を奪い、うまく力を発揮させられなかった。
―ひどい、ひどすぎる・・・!
メリッサはリータのために涙を流す。そして、メリッサは彼女があの辛い現実の中でもなお必死に生きていたことに強い敬意の念を覚えた。
リータを助けるために本当の自分を受け入れ現実へ戻ったジオサイド、そして苦しみの中をもがきながらも生きていたリータ、この二人に比べて、自分はなんと弱い者なのだろうとメリッサは思った。
メリッサは幻の世界で生きたいがために、男の甘い誘惑に乗ってしまい、数々の子供たちの命を自分たちの理想の世界のために利用してきた。
―これじゃ・・・私も汚い大人達と変わりないじゃない・・・。
ジオサイドとリータの心に触れて、彼らの純粋な心と強い意志への尊敬と自分への劣等感をひどくメリッサは感じていた。
―この世界にいなければ何もできない、子供たちの魂がなければ何もできない、あの人が居なければ何もできない・・・。
メリッサは改めて自分の非力さ、無力さを感じた。
そのとき、メリッサがふと気配を感じて顔を上げると、男がそこには立っていた。いつもの穏やかな笑みを絶やさずメリッサを見下ろしている。
メリッサの体から血の気が引く。
「メリッサ、ジオサイドを戻すのはちょっと早かったんじゃないのかい?」
男の優しく甘い声が、メリッサには今日に限って恐ろしかった。
「言っただろ?俺が指示してから、全ての記憶を消して、元の世界に戻せと・・・。」
男はそう言いながらしゃがみこみ、メリッサの目を冷たい眼差しで覗きこむ。
「昔、お前に話したよな。『聡い女は好きだが、イタズラのすぎる狡猾な女は嫌いだ』と。まさか、賢いお前がそれを忘れた訳はないはずなんだがな・・・。」
メリッサは男の言いつけを破り、自分のため、リータのために、男の許可なく無断でジオサイドに全てを語って元の世界へ戻してしまった。
メリッサは恐怖のあまり、男に見つめられながらリータを強く抱きしめて目を大きく見開きながらガタガタと体を震わせる。
「まさか、ここらへんをうろつく汚いハエの仲間になったのか?」
男は急に怒りを露わにして、目を釣り上げてメリッサをじっと見つめる。
「いえ、けして、そんなことはありません!あの時一度、見たっきりです。私は、あなたに忠誠を誓っております。」
『ここらへんをうろつく汚いハエ』と男が言ったのは、以前マユを元の世界へ戻したあの片腕だけのゴツい人物のことをいっているのだろう。だがメリッサ自体、それ以来その人物と会ったことも話したこともなかった。
メリッサはそういった事は断じてないと、男に必死に訴えかける。
「だが、現に、俺に無断で逃したな・・・。」
「それは・・・。」
男に核心を突かれ、メリッサは言葉に詰まった。
その時、男は再び穏やかな笑みでメリッサの頭を優しく撫でる。いつもは心地よく感じるこの手が、今はひどく恐ろしい。
「お前がこの子に同情する気持ちは分からくもない。けれど、俺の言いつけを守らなかった事は事実だ。」
男はそう言い終えて、メリッサから手を離す。そして、指をパチンと鳴らした。
すると、メリッサとリータはジメジメとした光のまったく当たらない石造りの暗く冷たい広間の中の、牢屋の一つに閉じ込められていた。メリッサには見覚えのある場所であり、男と共に作り上げた場所の一つだ。そして男とメリッサ以外、この場所を知る者は誰もいない。
広間の中央には、巨大な高炉があり、高炉の小さな窓からは赤々と炎が渦巻いている。
しかし、その高炉があるにも関わらず、この広間は息が白く凍りそうなほどに寒い。
メリッサはリータに寒い思いはさせまいと、懸命に抱きしめてなんとか温めようとする。
そこへ、広間全体に男の声が響き渡る。しかし姿はない。
「他の者なら即その高炉に入れるつもりだったが、これは温情だ。そこでしばらく頭を冷やしておけ。」
メリッサはリータを抱きしめながら、親指の爪を噛み、鉄格子を睨みつける。
今、メリッサ達が投獄されているのは、『愚か者達』に『罰』を与えるタルタロスの地下だった。
怪しい男の言いつけを破ってしまったメリッサ。
メリッサは罰を受けるはめになりました。
どうなるメリッサ、どうなるリータ?




