43/reboot
僕は眩しくてたまらくて目をしかめた。
するとどこからか大勢で走ってくる足音が聞こえた。
僕の目が光に慣れる前に、大勢の足音が僕を取り囲んだ。
「君、僕らの声が聞こえるかい?ここは京帝大学病院と言うところで、君は今ここで入院しています。」
僕の右側から男の人の声が聞こえた。ようやく光になれてぼんやりとした視界の中から、丸くてぽっちゃりした白衣を着た人が僕に呼びかけている。
「彼にメガネを。」
どうやらお医者さんらしく、その男の人は看護師の人に言って、看護師さんは僕に装着型のPCメガネをかけた。
するとメガネから見える視界が真っ白になり、あいうえお表と数字の表が出てきた。
「これから僕が質問するから、その表を目で追ってくれないかな?」
僕は眼球を動かして言葉を選ぶ。
『は・い』
PCメガネの表から選んだ文字が音声として出力されている。周りの人達は一斉にどよめいて喜んでいた。
「君の名前は?」
『み・さ・わ・ゆ・う・や』
「年は?」
『1・4・歳』
僕の選ぶ言葉の一つ一つにみんなが喜びでざわめいている。
「今、気分はどんな感じ?」
『す・こ・し・あ・た・ま・が・ぼ・ん・や・り・し・て・る』
僕は朝目が覚めて寝ぼけたような気分だった。PCメガネで字を選びながら話すのがまどろっこしい。
『ぼ・く・し・や・べ・れ・ま・す・か?』
「声出せる?」
そう言われて声を出してみようとすると、喉がひどくカラカラで痛くて苦しかった。
お医者さんは僕の喉の事にきがついたのか、看護師さんに水を頼んだ。
「これからお水で少し喉を湿らせるから、少し酸素マスクを外すね。」
そう言ってお医者さんが酸素マスクを外す。すると、余計に喉と肺が痛くて苦しかった。
「大丈夫?落ち着いて。今からお水飲んでみよう。」
お医者さんがそう言うと、看護師さんが水差しで少し水を飲ませてくれた。その瞬間、さらさらの砂場に水が染み渡っていくような感覚が体全体に行き渡っていくのを感じた。
―生きてる・・・。
僕は水を飲んだだけで感動してしまい、涙を流した。
「もう少し飲んでみる?」
僕は無言で頷いて、もう少しだけ水を貰った。そして、すぐに酸素マスクをつけてもらった。
「どう?話せそう?」
「は゛い゛」
息は苦しいし、喉もいたくて、まるで風邪のときのような声が出た。声が出たことで、PCメガネは外された。
よく周りを見渡して見れば、看護師さんと大勢のお医者さんに囲まれてびっくりした。そして、僕の腕は骨と皮だけになっていて、その皮にはいろんな線やチューブが繋がっていた。太って膨れていたお腹も、布団の上からでもわかるくらいに、ぺたんこになっている。
そして、お医者さんの質問を受けながら、時々酸素マスクを外しては水を貰い、除々に喉が少し楽になってきた。胃が水でひんやりとして、体が感動で震える。
「寒い?」
「大丈夫です・・・。なんだか嬉しくて・・・。」
「僕らも、嬉しいよ・・・。」
お医者さんのつぶらな瞳から今にも涙がこぼれそうなほど潤んで赤くなっていた。
「母さんは・・・?」
「君のお母さんには伝えているよ。もう少し君の体調が安定したら会えるよ。」
「よかった・・・。」
僕はまた嬉しくて涙を流す。気がつくと周りの看護師さんたちももらい泣きしている。
ふと、ベッドの横の右側を見ると、僕が買ってまだ使っていなかったオンラインゲームのキングダム戦記の特典本が置いてあった。
そして、僕の中で急にいろいろなことが蘇る。
「あの・・・と、とよひら先生?」
僕はお医者さんの胸元についている名札の名前を読んでみた。
「どうしたの?」
「この病院に、4312号室ってありますか?」
その言葉に皆が驚いてざわつきはじめた。
「三沢君・・・、どうしてそのことを知ってるのかい?」
「じゃあ中島遥香さんって人は?!」
僕は矢継ぎ早に質問する。そうすると更に周りはざわざわと騒がしくなった。
「それは、患者さんの保守義務で・・・」
「中島遥香さんって人が危ないんだ!その人、お父さんにいじめられてる!」
僕が興奮してそう言うと、豊平というお医者さんは困った顔をしていた。そしてみんなもさらに驚いている。
「ちょっとまって、落ち着こう。今、目が覚めたばかりだから、いろいろ記憶が混乱してるのかもしれない、ね。だから、ちょっと落ち着こう。」
皆がヒソヒソと話し始めた。不穏な空気を感じる。
―どうしよう、早くしないと・・・。
そう焦っても衰弱して弱った僕の体は動かない。僕の気持ちだけが焦るばかりだ。
その時、豊平先生が思い出したように僕に言った。
「ちょっと待っててね。」
そう言って他のお医者さん達の中を抜けてどこかへ行った。しばらくして豊平先生は息を切らして戻ってきた。
「今日、精神科のカウンセリングの先生が来るから、それまで少し気持ちを落ち着けて、言いたいことを整理しておいてくれないかな?」
豊平先生の、そのつぶらで可愛らしい瞳で僕を見る目が真剣なのが分かった。
―もしかして、メリッサが言ってた大人たちってこの人たちのことなのかな?
僕はそう思い、母さんに会いたい気持ちと、まだ見たことも会ったこともない中島遥香さんを助けたい思いで心は焦るばかりだった。
ふと僕は、左側のベッドを間仕切っているカーテンを見て、自分の左手を見た。
左手には紙を握っていた。
ようやくタイトルと43/のネタバレ回が来ました。
reboot=再起動
43(4=よ・3=み)→黄泉
つまり「黄泉からの再起動」→「黄泉がえり・蘇り」という意味です。
43/ザクロの実(http://ncode.syosetu.com/n5410bn/27/)でも「黄泉平坂」と何気にネタバレしてました。




