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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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ログアウト

 メリッサはひとまずアジトの地下で話しましょうと言って、リータを連れてアジトへ戻った。

 俺も後を追って帰還アイテムでアジトへ戻る。

 アジトの扉を開くと、リータの泣く声が響いている。俺はまた心がひどく痛くなって目も開けられないほど辛い気持ちになった。

 そしてアジトの地下へ向かうと、メリッサが壁に背を預けながら、リータをずっと抱きしめている。

 メリッサは目をつぶって静かに涙を流し、悔しそうに唇を噛んでいる。

 やがて地下に降りてきた俺に気がついたのか、メリッサは顔を上げて俺を見る。メリッサの顔色は悪く、幾分頬がげっそりしているように見える。

 そして何よりだんだんとリータの言葉が不明瞭になっている。外国語とかではない。だんだんと言葉がうまく発音できなくなっているようだ。

 俺は異様な光景に背筋に汗が伝い、固唾を飲む。


 「さっきリータを助けたけど・・・、どうしてまたリータを、MOBもボスもいないのにどうやって助けるの?どこかで何か薬を取ってくるとか?」


 俺にはそれくらいしか思いつかなかった。メリッサはバツが悪そうにしばらく黙って何かを考えているようだった。

 そしてメリッサは意を決して顔を上げて言った。


 「ジオサイドくん、いえ、三沢裕也くん、今のあなたにしか頼めないの・・・。お願い、この子・・・中島遥香ちゃんを助けて・・・。」

 「え?何言ってんの?俺、ジオサイドだよ。三沢裕也なんて・・・。」


 メリッサの言った言葉を最初信じられずに居たけれど、自分で自分の名前を呼んだ途端、俺の頭の中で本当の自分の名前が自分の声で生々しく響く。

 頭がクラクラする。受け入れたくない。

 その瞬間、頭の中に僕の記憶がフラッシュバックする。


 母さんが父の女癖の悪さで離婚したこと、母さんが女手一つで僕を育ててくれているから迷惑かけられないと思って、学校で今ひどいいじめにあっているのを言えなかった。その日はすごく辛くて、でも何も言えなくて、僕は母さんを無視してそのまま布団の中に入って泣いていたんだ。そうしたら、僕は・・・僕は・・・。


 俺は呆然として視点が定まらなかった。天井がぐるぐる回る。また倒れそうだ。俺は両膝と両手をついて倒れそうになる体を支えた。


 「本当は、あなたの記憶を幾つか消して、中島遥香ちゃんだけの記憶を残してログアウトさせるつもりだったけど、今はこの子の心の傷を癒すので精一杯なの・・・!お願い・・・あなたには辛い思いをさせるけど、どうか、彼女を助けて。」


 メリッサの必死な呼びかけで俺は目が覚めて、ゆっくり上半身を上げた。まだ俺の呼吸は荒くて苦しい。


 「メリッサはどうしてそんなに必死なの?メリッサが助けにいけないの・・・?」


 どうしてここまで事情が分かっているのに自分から行動しないメリッサが不思議でしょうがなかった。それなら何もかも分かっているメリッサが行くべきなんじゃないかと思って言ってしまった。

 メリッサは俺の言葉にうなだれた。


 「私じゃダメなの・・・。私は、ここからも、どこからも出られないの。」

 「どういうこと?正直、俺、納得できないよ。」


 自分じゃ助けにいけないというメリッサの言葉にさらに分からなくなる。

 すると、メリッサの目が急に鋭くなる。


 「本当の事を言わないと、信じてくれないのね・・・。」


 怒りにも、諦めにも似た言葉が俺に返ってくる。


 「私は、元・PUCS患者で、精神病院に入院しているの。私は電気治療で目覚めたから、現実と幻が曖昧になってしまって、誰も私の言うことを信じてくれないの。」

 「PUCSってあの、PUCS・・・?」


 メリッサは頷き、悔しそうにしている。そして俺はメリッサの言ってることが信じられなかった。こんなにしっかりしているメリッサがなぜ・・・?


 「そしてあなたも、彼女も、ギルド長以外は全員PUCSの患者なの。」


 メリッサは苦しそうに声を振り絞りながら語り続ける。


 「俺も・・・PUCS?」

 「そう・・・。あなたはいずれここの記憶を消されてログアウトするはずだったけど、今は時間がないの。」

 「マユやペンデュラムや、先にログアウトした奴らは?」


 俺の問いかけに、メリッサが戸惑った。


 「みんな・・・死んでるわ。」

 「死んでるって、この世界のどこかで?」

 「いえ・・・現実の世界で、死んでしまっているの。永遠に、生き返ることはないの。マユだけは・・・これからの実験のために生きてログアウトはしているけど・・・。」


 俺の体から一気に血の気が引く。切断したり、ログアウトした奴らはみんな、本当に現実で死んでしまった・・・?


 「ごめんなさい・・・。私が、私達が悪いの!」


 メリッサは泣きながら絶叫する。


 「この世界は幻の世界。あなた達PUCSの子供たちの魂を集めて、タルタロス44階から49階のサーバールームで運営して、その魂でこの世界を維持しているの。そして魂の灯火が消えたら、現実の世界の肉体も魂も死んでしまうの・・・。」

 「そんな・・・どうして・・・?」


 メリッサはひたすら泣きながら謝る。


 「私達ギルド長達は、皆PUCSになって、電気治療で目を覚ましたの。だけど、現実を受け入れられなくて、幻の世界へ、自分にとって都合のいい世界に戻りたかったの・・・。それで、ある人から、幻の世界へ行き来できるようにしてもらう代わりに、私たちはギルド長兼GMとしてあなたたちを監視する役目をもらったの・・・。」


 俺はそんな恐ろしい世界に居ることもつゆ知らず、メリッサの語る真実で、だんだんこの世界自体が恐ろしくなってしまった。体が恐怖でガクガクと震えて体温が一気に下がって寒くなる。


 「ブロンズゴーレムのこと・・・覚えている?」


 ふいにメリッサに言われて、あのいつか出会ったタルタロス1階のボスのことを思い出した。


 「あれは、あなたのお母さん。そして、みんなが出会うボスは、父親だったり母親だったりするの。あななたちPUCSの患者のお見舞いに来た親達への憎しみや恨みを利用して、その怒りをこの世界の原動力にしているの。」

 「じゃあ、ブロンズゴーレムがいなくなったのは・・・?」

 「あなたが自分の母親に恨みを持っていないことがわかったから、もう出なくなったの・・・。」

 「じゃあ、あの時、俺は母さんと会ってたのか?」


 メリッサは無言で頷く。


 「あなたのお母さんは他の誰よりもあなたに対して献身的で、あなたの無意識にもその気持が届いていたの。だからあなたはブロンズゴーレムを倒せなかった・・・。」

 「そうだったんだ・・・。だから俺、あんなにブロンズゴーレムに会いたかったんだ・・・。」


 そう言葉にした時、ふと疑問が湧いた。


 「じゃあ、リータが当てたダークゼウスは?」


 メリッサにそう言うと、苦い顔をして苦しそうにしている。


 「コンキスタドールというのは、もともと古代の征服軍のことで、女性に酷いことをした連中たちなの。そして、さらに、ゼウスという神話の神様は全ての父親であり、女にだらしがないの。あの地は、父親に恨みや憎しみを持つ男の子向けの場所なんだけど、まれに、父親に酷いことをされた女の子が父親への恨みを晴らすために行くことがあるの。」

 「リータは・・・父親がそんなに憎かったんだ・・・。」

 「憎かったってものじゃないわ!」


 まるでメリッサがリータの言葉を代弁するように強い語気で言った。そして、メリッサは幼児のように泣き続けるリータを強く抱きしめた。


 「私も、彼女と同じように父親にひどい目にあわされたの・・・・。だから、リータちゃんの気持ちがすごく分かるの。いえ、むしろ私より酷いことをされているっ。」


 メリッサは急に強く目を閉じて頭が痛そうにしている。


 「酷い・・・酷すぎる・・・。こんな酷い仕打ちを・・・。」


 メリッサは唇を真っ青にしながら戦慄いている。そして、メリッサはしばらく自分の気持ちを抑えるように深呼吸を何度も繰り返す。


 「三沢くん・・・、よく聞いて。4312号室の中島遥香さんは、父親からセクハラよりひどいことをされている。彼女が言葉を話せない、叫べないことをいいことに、本当に酷いことを・・・。そして、彼女のお母さんもそのことを知ってるけど、父親からいじめられていて遥香さんを助けられずにいるの。」

 「なんだって?」

 「だからお願い、リータちゃんだけは、中島遥香ちゃんだけは助けてあげて!」


 リータのことは助けたかった。だけど、現実へ立ち向かうことへの恐怖心が俺の中で再び蘇る。


 「大丈夫、三沢くん、あなたの言葉を理解してくれる大人達がいるわ。きっと大丈夫。」


 そう励ますメリッサの言葉に、確信があるのだろうと思った。

 そして、こんなにリータのことを心配して助けて欲しいと懇願するメリッサのお願いを聞かないわけにか行かない。

 俺は決意を固めた。


 「・・・わかった。行くよ。」

 「ありがとう・・・。」


 メリッサは両手で顔を覆って泣いていた。


 「それで、どうやって戻ったらいいの?」


 俺の言葉にメリッサは顔を上げて申し訳なさそうにしている。


 「本当は私の力であなたを元の世界へ帰せるのだけど、今はリータちゃんのことで精一杯なの。だけど、もう1つだけ方法があるの。試したことはないけど『もし帰りたくなったら、現実の自分を思い出して倒せばいい。』と言われたことがあるの。」

 「現実の自分・・・。現実の自分を倒したら帰れるんだよね?」


 俺は意を決して立ち上がった。


 「壁に向かって、自分を思い出して。」


 メリッサにそう言われて、俺は自分を思い出す。

 ひ弱で、いじめられっ子で、チビデブで、誰のことも、自分の事も救えない情けない僕・・・。

 すると、俺の壁の前に詰襟の制服を着た、等身大の自分が現れた。俺は僕を見下ろすような形になっている。

 僕の顔はとても悲しげで、全てを諦めてしまってるような情けない負け犬の顔をしている。


 「俺は・・・ジオサイドはこんなんじゃない・・・。」


 俺は背中の剣に手を掛け、目の前に居る僕を斬ろうとした。しかし、ふと、あの時のことを思い出して、俺は剣を抜くのをやめた。


 「どうしたの?!」


 メリッサは俺が剣を抜かないことに驚いている。そして俺が両膝をついて、穏やかな顔で僕の両手を優しく包み込むように握って微笑んでいることにも驚いていた。


 「ダークゼウスからリータを助けた時のことを思い出したんだ。あの時リータを助けられたのは、俺だけじゃなくて、僕が力を貸してくれたからなんだ。そんな恩人を倒せる訳ないだろ。」


 そうだった。自分の事も助けられないくせに、僕は俺に協力してくれた。僕がいなければ、俺はリータを助けられなかった。


 「リータを、中島遥香さんを助けるのは俺じゃない、僕なんだ。今度は俺が、僕と一緒に中島遥香さんを助けるんだ。」


 その言葉にメリッサは目を丸くしている。そして、目の前にいる僕はその真ん丸な顔にえくぼを浮かべて明るく微笑んでいる。こんな風に僕が明るく笑っているのはいつ以来だろう。


―ああ、僕もそう思ってくれるんだ。


 そう思ってほっとした瞬間、目の前の僕はいなくなり、いつの間にか視点は等身大の僕になっていて、詰襟の制服を来ている。

 本当の僕が幻の世界、ベルセポネオンラインに現れて、メリッサはしばらく呆然として言葉を失っていた。


 「どうして・・・?」

 「どうしてだろう・・・?もしかしたらこれが僕のチートなのかもね。」


 メリッサに向かって言葉を発すると、声変わりしていない懐かしい幼い僕の声が出てくる。

 そして壁に目を向けると、いつの間にかぽっかりと黒い穴が開いていた。


 「ここを通るの?」


 そう聞くと、メリッサは頷いた。その中は真っ暗で奥行きさえわからない。だけど、ここを通らなければリータを、中島遥香さんを助けることができない。


 「ところで、リータはこれからどうなるの?」


 僕はもしこの後中島遥香さんを助けたあとのことを考えた。

 メリッサは僕の言葉に辛そうにしていた。


 「彼女は、もう保たない・・・。たぶんこの世界で死んでしまうわ。私は彼女の最後をここで看取る。彼女は辛い現実の世界で生きるより、ここで安らかに死んだほうが彼女のためなの・・・。助けるっていうよりも・・・、彼女の敵討ちに近いわね・・・。」


 そうメリッサに言われて、僕も悩んだ。中島遥香さんとして戻ったとしても、また辛い現実が待っている。確かにメリッサの言うとおり、この世界で安らかに死んだほうがいいのかもしれない。


 「でも・・・。」


 なぜか無意識に自分の口が反論してしまう。


 「どうにかして、絶対、僕は中島遥香さんも、そしてメリッサのことも助けるよ。」


 自分でも無謀だと思うし、何もできないかもと思う不安はある。でも、僕に俺が協力してくれるんだ。きっとあの時みたいに、全てうまくいくわけじゃないけど、少しは助けられそうな自信がみなぎっていた。


 「ところで、メリッサの名前は?どこにいるの?」


 いつの間にかリータは静かに眠っている。メリッサはゆっくりとリータを床に寝かせると、立ち上がって僕の前へやってきた。

 こうすると頭ひとつ、メリッサのほうが背が高いことに気がついた。


 「私の名前は・・・。」


 メリッサはそう言うと、優しく微笑みながら両手で強く僕を突き飛ばした。


 「さようなら、ジオサイドくん。」


 僕はそのまま闇の中へ吸い込まれ、ベルセポネオンラインと繋がっていた壁が消えてしまった。

 僕はメリッサにもう一度名前を尋ねようと壁を叩こうとするが、どこを叩いても空を切るだけだった。


 「坊主、あっちへ行くのは諦めな。それより、これ、持ってけよ。」


 野太い声が後ろから聞こえて振り返ると、ヨレヨレのスーツを着たヒゲダルマみたいないかついおじさんがいた。おじさんはニカニカしながら折りたたんだ紙を僕に渡してくれた。


 「おじさんは神様?」

 「俺はそんな大層なもんじゃねーよ。ただのおっさんだ。」


 そう言っておじさんは大きくてゴツゴツした手で僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。その手からは不思議とすごく優しさが伝わってくる。


 「ほら、あっちに光がみえるだろう?」


 そう言われておじさんが指差す方に目を凝らすと、そこには微かに光が射している。


 「あっちが出口だ。さぁ、気張って行け!おとこを見せろ!」


 おじさんは勢い良く僕の背中をその大きな平手で力いっぱい叩いた。するとまるで坂道を自転車で下るような、そんな早いスピードで僕の体は光に向かって吸い込まれていった。


 やがて、僕は光に包まれて目を覚ました。

参考

コンキスタドール(wiki)

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%89%E3%83%BC%E3%83%AB

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