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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/伊東真木子

 岩見は京帝大学病院に到着すると、ちょうど廊下で豊平と出くわし、体温計をどこかから借りて休憩室に来いと言った。豊平はフグのように頬を不満で膨らませながらも体温計を借りて岩見の待つ休憩室に向かった。


 「おー、悪いね、ありがとう。」


 岩見は豊平を見ながらウォーターサーバからお湯と水を半分ずつ使い捨てのコップの中に入れていた。そして、豊平から借りてきた体温計をコップの中にさした。


 「さて、豊平くん、問題です。総理大臣が行く大きなお寺ってどーこだ?」

 「なんですかその問題。ああ、そういえば今日は総理が靖国参拝するそうですよ。」

 「何時から?」

 「10時くらいからですかね?」


 豊平がタブレット端末で総理の靖国神社参拝の時間を調べていると、ちょうど体温計のアラームがなった。


 「ありがとう。じゃあ俺、今日風邪で休むから連絡しといて。体温はこの中に出てるから。」


 岩見はぬるま湯と体温計の入ったコップを豊平に渡すと駆け足で休憩室を去った。


 「元気そのものじゃないですかぁ。しかもこの体温で・・・?」


 豊平は渋々出勤表のホワイトボードと院内ネットワークの掲示板にこう記した。


 『岩見先生、本日52度の熱の為、休病』


 岩見は急いで靖国神社へ向かった。そこにはすでに黒山の人だかりと、総理の靖国参拝反対のプラカードを掲げた集団が警備員達ともめていた。

 やがて総理の公用車がやってきて、参道の入口で止まった。

 岩見は急いである人物を探した。

 ふと、岩見の目に靖国神社を参拝する総理をひと目見ようとする野次馬の中に異様な人物を見つけた。


 全身黒ずくめの女は総理の参拝を一目見ようとする野次馬の中をゆっくりとかき分けながら前へ前へと進んだ。

 そして、スポーツバックに手を入れたその時だった。背中の腰の当たりに鋭いものが突きつけられ、肩に手を置かれた。女の後ろにピタリと張り付いた男は、女の耳元で囁く。


 「知ってるか?ヤクザは匕首ドスだけじゃなくて千枚通しも使うんだぜ。千枚通しで、こうやって背中から腸めがけて刺しまくるだろ?そうすると、腸の中の雑菌が一斉に体内に散らばって、開腹手術して洗浄しても、菌が散らばりまくって敗血症でのたうちまわりながら死ぬしかないんだ。とんでもない殺り方だと思わねーか?」


 男の言葉に、女はゆっくりと震えながら男の顔を見上げた。


 「い、岩見先生・・・。」


 イトマキは緊張の糸が切れたのか、スポーツバックを思わずその場に落とした。

 岩見はイトマキの腕を掴んで人混みをかき分けながら、どこかゆっくり話せる場所を探した。

 やがて、公園を見つけてイトマキと岩見はベンチに座わった。そしておもむろに、先ほどイトマキの背中に押し付けていたハサミをポケットから取り出して、ベンチの後ろの茂みに放り投げた。

 放心状態のイトマキの頭後頭部を、岩見は平手で叩いた。イトマキは叩かれて前のめりになるが、ようやく我に帰って大声で泣き始めた。

 公園のママ友集団たちは「デートDV?通報する?」などと遠巻きに岩見達を見てヒソヒソと話していた。岩見はその痛い視線を気にしまいと、足を組んでベンチに背を預け、両腕をベンチの後ろに回した。

 やがてイトマキはひとしきり泣き終わり、ジャージで涙を拭いて鼻をかんだ。


 「医者が人殺しなんてバカなこと考えやがって・・・。」


 岩見がそう言うと、イトマキは顔を上げて驚いていた。


 「なんで岩見先生・・・知ってるんですか?というか、どうして岩見先生がここに?」


 イトマキはようやく岩見がなぜ自分の居場所や目的を知っていたのかひどくびっくりしていた。 


 「それよりまず、なんでお前がこんなアホなことしようとしたのか答えろ。」


 岩見はまたもイトマキの後頭部を平手で叩く。イトマキは痛みでうめきながらも、しばらく思案していた。


 「それは・・・。信じてもらえないと思いますし、おそらくもしかしたら私は統合失調症かもしれません・・・。」

 「それでもいいから話せ。聞いてやる。信じるかどうか、決めるのは俺だ。」


 イトマキは思いつめた表情でぽつりぽつりと、女子トイレでの1件を語った。そして、イトマキはその男に復讐するため、この一週間ネットカフェを点々として藤枝総理の情報を集めて、さらにはネット上で『藤枝総理には悪魔が憑いている』と触れ回っていた。

 岩見はイトマキの話を聞いて大きなため息をついた。


 「お前はとことんオカルト暴走特急だな。第一、あんな警備体制の中でどうやって殺ろうとしたんだよ、ってか殺れると思ってたのかよ?殺る前にお前が確実に捕まって、医師免許剥奪の上に精神科病棟送りだな。それこそ悪魔の思う壷なんじゃねぇの?」


 ある意味現実的なことを言われて、イトマキもようやく何か憑き物が落ちたように肩をがっくりと落として静かにポロポロと涙をこぼした。


 「そうですよね・・・、私、何バカなことやってたんだろう・・・。」


 イトマキは自虐的に笑いながら涙を流し続けた。岩見は片手で自分の両目を覆いながら参ったようにため息をつく。


 「本当に医者、失格ですよね。」

 「まぁ黙ってりゃバレねーよ。」


 イトマキは岩見の予想外の言葉に驚いて、岩見をじっと見た。岩見はその視線に気がついて目を覆っていた手を離した。


 「悪魔と話したのどうのこうのは、誰にも言わねーし、総理暗殺も未遂に終わった。それでいいじゃねーか。」

 「い、いいんですか?」

 「嫌なら自首してこいよ、ほら、早くあっち行けっ。」


 岩見はそう言って、手を振ってあっちへ行けの仕草をする。しかしイトマキは岩見を見て呆然としている。


 「あの・・・ところでどうして私の目的がわかったんですか?」


 イトマキはもう一度最初の質問を岩見にする。岩見はそう言われて、照れくさそうにしていた。


 「娘の望が・・・お前を助けろって言ってきたんだよ。」

 「でも、先生の娘さんはっ」


 イトマキは思わず本当の事を言いそうになって慌てて口をつぐんだ。だが、岩見は鼻で笑ってあしらった。


 「知ってる。3年前、いや、明日で4年前になるかな。3歳の誕生日に交通事故で死んだよ・・・。」

 「先生・・・。」


 イトマキは思わず岩見が自分の娘が死んだことを受け入れていることに驚いていた。


 「お前も知ってたんだろ、俺がおかしいこと。」

 「すいません・・・。看護師長さんから聞きました。おそらくPTSD(心的外傷ストレス障害)から来る一種の心的健忘症です。」

 「珍しく精神科医らしいこと言うじゃねぇか。」

 「私は・・・病名を付けても、本人が事実と向き合わない限り治らないと思っているので、言わなかっただけです。」


 岩見はそっぽを向いて自虐的に笑った。


 「まぁお前も相当なオカルトな体験したみたいだけど、俺もな、昨日、死んだ娘から『イトマキを助けて!』って頼まれたんだよ。」

 「だからそれで・・・。」

 「ああ、可愛い娘のお願いならなんでも聞くさ。」


 岩見は娘とあの夢の中で別れた時の事を思い出して思わず目頭が熱くなった。しかし、それを悟られまいと、イトマキから顔を逸らした。


 「ようやく・・・娘とお別れできたよ。まだちょっとばっかし辛いけどな。」


 岩見はまだ正直、心が痛かった。


 「辛いけど、娘がお前を心配してくれたおかげで、俺もようやく受け入れられそうだ。」


 イトマキはそっぽを向く岩見の耳が赤くなっているのを見逃さなかった。


 「良かったらカウンセリング、いつでもしますよ。」

 「ふん、お前みたいな自分のトラウマも治せないような医者には頼まねーよ。」


 二人はいつもの掛け合いをして、顔を見合わせて笑った。

 その時、岩見のポケットに入れていたPHSが鳴った。岩見がPHSを取ると、豊平が出て慌てて用件を告げる。


 「マジか?」


 岩見は豊平の言葉に思わず耳を疑って立ち上がった。


 「どうしたんですか?」


 イトマキはベンチに座りながら不思議そうに岩見を見上げた。


 「あーえーっと、まずイトマキ、お前は風呂に入って服着替えて病院に来い!」


 岩見にそう言われて、イトマキは自分が一週間同じ格好の上に風呂にも入っていなかったことに気がついた。


 「とにかくすぐにだ!急げ!俺は先に病院に戻る。話はそれからだ。」


 岩見とイトマキは慌てて各々公園から立ち去った。

ママ友集団「あらあらデートDVかと思ったら刑事さんだったのかしら?」


さてさて、一体病院内で何が起きたのでしょう?


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ところで、実はこれは4/25くらいに書き終わっていたんですが、4/27に総理大臣の乗ってた列車か公用車かが事故るとか怖すぎ・・・

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