表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
51/86

或る刑事、帰国

 男はヴァチカンから日本に戻り、養女のいる病院へと向かった。

 しかし、こんな肝心な時に養女の姿は見当たらず、思えば自分が会おうとしても養女には見えるのかどうか、伝えられるのかどうか甚だ疑問なことに気がついてその場で頭を抱えてうずくまった。


 「おじさんも痛い痛いの?」


 ふと呼びかけられて男が顔を上げると、目の前に少女が居た。少女の胸からは透明な鎖がぶら下がっていて、どこかと繋がっているようだった。

 おそらく男は少女は同じ者なのだろう。


 「大丈夫、おじさんどこも痛くないよ。」


 男はそういって歯を剥きだして少女に笑って見せた。少女もあどけない笑顔で安心していた。


 「お嬢ちゃん、迷子になったのかい?」


 男は刑事の癖でついつい少女に問いかけた。しかし少女は首を振って否定する。


 「パパの心がいつも痛い痛いって言ってるから治してあげてるの。」

 「そうか、偉いねぇ。」


 男は少女の頭を優しく撫でた。

 そして二人は廊下の長椅子に座った。


 「お嬢ちゃん、名前は?」

 「のぞみです!」

 「のぞみちゃんかー。おじさんも『のぞみ(希)』って言うんだ。」

 「女の子みたーい。」


 男は少女に自分の名前をからかわれるが、おそらく無邪気だからこそだろうと微笑ましく見ていた。


 「のぞみちゃんの字はどんな字かな?これかな?それともこれかな?」


 男は手帳に『のぞみ』に当てはまりそうな名前の漢字を思いつくだけ書き、少女に見せた。


 「のぞみの名前、これ!」


 少女が指刺した文字は『望』だった。


 「お!すごいぞ!おじちゃんの名前が『希』で、のぞみちゃんの名前が『望』だ。二つ合わせたら『希望』になるぞ!」


 男は二人の名前の同音異義の名前を合わせると、『希望』になるという偶然に若干興奮していた。


 「希望?」


 少女は不思議そうに男に尋ねた。


 「そう、希望だ。」

 「希望ってなぁに?」


 そう少女に言われ、男はどう説明していいか悩んだ。


 「そうだなぁ・・・誰かに幸せになって欲しいとか、誰かに生きてて欲しいと思うとか、何かの目標に向かって頑張りたいとか・・・かなぁ・・・。」


 男は悩みながら思いつく事を口にする。この少女が理解してくれるか分からなかったが、ふと少女はイスから降りて慌て始めた。


 「どうしよう!パパの希望が危ないかも!」

 「パパの希望が危ないってどういうことだよ?!あ、ちょっと!」


 少女は早口でまくしたてて、男が止めるのも聞かずにどこかへ去ってしまった。

 男は壁に背を預けため息をつく。


 「あの子がちゃんと天国へ行けるといいんだがなぁ・・・。」


 男は頭を掻きながら少女のことを願った。

 それよりも、男はどうにかして最後の別れを養女に伝えたかったのだが、養女のいる病院には姿を現していなかった。

 念のため、申し訳ない思いでいっぱいになりながら養女の済むアパートへ行ってみるが、そこにも居る気配はなかった。


 「どうしたもんかなぁ・・・。まぁ会ったとしても俺が見えるかどうかもわからんしな・・。時間つぶしに寄り道していくか。」


 男は希望を諦め、その場を後にした。



 その頃、ある女がこの一週間、ネットカフェを点々として情報の収集と情報の伝播をしていた。

 女が調べていた男の名前は『藤枝智(40)』。歴代総理大臣の中で最年少記録を更新した政治家だ。

 藤枝智は3世代議員で、若い頃は父親のカバン持ち(秘書)をしていたが、20代後半に父とは別の区で立候補。誠実そうな顔と街頭演説での素晴らしい熱弁に、初めての立候補にしては異例の得票率で他の議員と比べて圧倒的な差で当選した。

 そして議員となった藤枝は、与党の自由清栄党の中で若きブレーンとして暗躍した。

 様々な法案成立の裏には藤枝の影あり、と言われていた。最も代表的なのは、2030年に防衛官房副大臣だった藤枝が発案した、志願徴兵の年齢制限を18歳から一気に15歳にまで引き下げたことが挙げられる。

 その分敵も多かったようだが、不思議なことに敵対していた議員は街頭演説中に事故に巻き込まれたり、官僚が心筋梗塞でなくなっている。

 藤枝はPUCSの積極的な医療支援と、領土問題やTPPに関するあまりにも理不尽な対応策に対して最善の解決を図ることを政策目標に掲げた。ゆくゆくは他国から日本を守るために9条を改正し、自衛隊を自衛軍にすると発言し、世論を揺るがしている。

 長く9条の改正には国民全体が反対ムードだったが、PUCSにより海外で仕事をしていた者は職を失い、関税の締め付けが一層厳しくなり、更には日本全体の資源が枯渇しており、物価も人件費の分だけ高くなった。結果、国民の不満は高まり、その矛先は海外に向けられている。もしかしたら今回の9条改正の国民投票は賛成が過半数を占めるかもしれないという予想が立てられている。


 「そうよね、元々自衛隊は専守防衛がメインだからね・・・。」


 自衛隊に所属していたその女は自衛隊の何たるかをよく知っていた。

 女はそうして、様々な雑誌をDLで購入し、藤枝智に関しての記事を政治専門からゴシップ誌まで幅広く調べた。

 藤枝智自体にゴシップらしいゴシップはなかったが、藤枝夫妻の不妊治療に携わった男性医師が先ごろ不審死を遂げたというものだった。なんでも、昨日まで元気そのものだった医師が、次の日、全身が干からびてまるでミイラのように病院内で亡くなっていたと書かれている。


 「もしかして、これこそ悪魔の仕業・・・。」


 女は巨大掲示板やあらゆる目につく掲示板に『藤枝総理には悪魔が憑いている』と書き、書き終わればまた別のネットカフェへ移動した。

 女は黒い帽子に上下黒のジャージを着ており、そして持っているスポーツバックの中には銀のナイフが入っていた。女の目つきは鋭く、思いつめた表情をしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ