或る刑事、再び
日本に戻り、再び日本全国で男は聞き込みを行った。そしてある人物達からようやく話を聞くことができた。その人物達の職業は陰陽師だった。ちょうど新月の夜だったため、男と話すことができたのだ。
どうやら真犯人は満月の時ではなく、新月(月のない夜)を狙ってある人物と契約したらしい。
エクソシストは満月の夜を警戒し、陰陽師は月のない新月を警戒する。真犯人はエクソシストが警戒する満月の夜を避け、陰陽師が警戒する新月の夜を選んだ。
陰陽師達はその真犯人の気配には気づいたが、祓う方法が全く違う為、阻止することができなかったと語った。
「あの時はどうすることもできなかった・・・。あの時、エクソシスト達が気がついていてくれれば・・・。」
彼らは己の無力さを恥じ、自分たちが見逃したせいで子供たちが次々と犠牲になり、さらには日本自体が危険な方向へ進もうとしていると男に語った。そしてその犠牲者の中には男の養女も居たというのだ。
男は怒りを露わにし、宗教が違うと邪険に扱った国へと再び赴いた。
その場所とはヴァチカン市国。
男は再びこの地に降りたった。
この日は満月で、魑魅魍魎が跋扈していた。しかし、エクソシスト達が結界を張っているのか、大聖堂の周囲に近づいた魔物は一瞬で消し炭になった。
男は思わずその光景に固唾を呑んで冷や汗をかいていた。
「ちくしょう!ここまで来たのにまた何もできねーのかよ!」
男は拳を強く握り、怒りを露わにして大声で大聖堂に向かって叫んだ。
その時だった。男の前をラフな格好の青年がアンティークのスケートボードで通り過ぎた。そして男の少し先で止まり、振り返った。青年はどうやら黒人のようだった。首にはスカーフを巻いている。
「おじさん、こっち。」
黒人の青年は流暢な日本語で男に声をかけた。男は一瞬、青年が誰に話しかけているのかわからなったが、青年が男に向かって笑顔で手招きしているのを見て、ようやく自分のことだと気がついた。
男は青年の好意に甘えてコソコソと着いて行った。
「大丈夫だよ。どうせ俺の後ろに隠れててもあんたのその図体じゃ丸見えだぜ。」
青年に指摘され、男は思わず恥ずかしくなった。
青年の行く先には魔物の魔の字も見当たらず、青年が憲兵の前を通り掛かると、憲兵たちが青年に敬礼をしていた。男はその光景に目を白黒させる。
どこにでもいそうな一般人の青年に憲兵たちが敬礼し、エクソシスト達も道を開けて青年に着いて行く男を眺めているだけだった。
「お前何者だ?」
男が問うと、青年はスケートボードを止めて振り返り、首に巻いたスカーフを解いた。
青年の首には、魔物が付けた爪あとのような真っ赤なアザがついていた。
「俺?俺も一応エクソシスト。5年前まで日本に居たんだけど、あんたが探してる例のドーラン野郎にやられてこのザマだよ。気づきもしなかったし、まさかパスポートなしでここまでふっ飛ばされるなんてマジで信じられなかったよ。」
青年はそう言い終えると再びスカーフを首に巻いた。そしてスケートボードを蹴飛ばし、壁に当てて歩き出した。男も慌てて青年に着いて行く。
大聖堂の中を抜け、青年はある部屋で立ち止まり、憲兵達に入室許可をとっていた。
そして扉は開いた。
長い机に枢機卿達がずらりと並び、一番奥の席に法皇が座っていた。
「トーマス、下がって良い。」
しわがれた法皇の言葉に、トーマスと呼ばれた青年は会釈をしてその場を去った。
そして法皇はおもむろに立ち上がった。
「先日は失礼な事をして申し訳なかった。」
法皇は深く男に詫びた。男はまさか一国の首相に詫びられるとは思っても見ず、あまりのことに動揺していた。
法皇はそれから、男が追う真犯人について語った。
元々は第二次世界大戦時に、ある国に武力で脅かされ、渋々封印していた魔物を貸し出したことが発端だった。その国はその後圧勝し、世界の覇権を握ったが、契約者はそれを見届ける前に死んでしまった。魔物は無事エクソシスト達の手によって再び封じられたが、魔物の傘下のものがある国に留まったままだった。
その国は『日本』。
傘下の魔物達は日本国内を散り散りバラバラになって潜伏していたが、力の強いものはすぐにエクソシスト達の手によって葬られた。
しかし、息を潜め、エクソシスト達の目から逃れた魔物がいた。その魔物は日本の信仰を巧みに利用し、勢いを増し始め、日本国内のエクソシスト達が気がついた時には魔物に倒されていた。唯一の生き残りが先の案内人のトーマスだった。
「そやつが、あなたを殺した者です・・・。」
「ああ、わかってるよ。だからここに聞きにきたんだ。オマケにうちの子にまで手を出しやがったんだ。」
男はそう言って改めて法皇に犯人を倒す方法を尋ねた。だが法皇はしわくちゃの顔をさらにしわくちゃにして苦い顔をしている。
「もう・・・どうにも倒す方法はない。」
「なんだと?!もともとはテメーらんとこのモノだろうよ?!」
男が机を叩くが、音はまったくしなかった。法皇は苦しげに答える。
「日本は・・・なんでも神にする信仰がある・・・。」
「八百万信奉か。」
「奴はその信奉を使って日本の神のひとつになろうとしている・・・。こうなると、我々エクソシストでも、日本の陰陽師達でも手が出せなくなる・・・。」
「なんだと?!じゃあどうすりゃいいんだ!ただ見てるしかねぇってことか?!」
男は法皇に対して怒りを露わにする。もともとその厳つい顔が真っ赤になって怒れば、日本の地獄に居る鬼のようだった。
その男に対して法皇は動じず、むしろ申し訳なさそうにしていた。そして法皇はしばし思案し、ある事を口にした。
「ないわけではない・・・。我々も策を考えている。できれば使いたくはなかったが・・・。」
※ドーラン=歌舞伎役者の方たちが塗っている白粉
西洋では満月の夜・日本では新月の夜や日食が魔の活発になる時と言われてるようです。
日本の新月や日食説は、大昔、月の光のない夜や日食で灯りのない時は盗みや強盗が多かったからみんな気をつけていたと言われています。




