43/鎖国
岩見は通勤途中、スマートフォンで新聞を読んでいた。
『米国、輸入品目の拡大を提案』
日本でPUCSに罹る子供たちが増えたことで、日本国内外、様々なことが起きた。
まずは、日本に拠点を構える海外企業の撤退。そして今度は海外に拠点を置く日本企業のやむ無き撤退。
これは子を持つ親からすれば、日本の風土病とも言えるPUCSに罹って欲しくないという理由から、日本の外国企業や資本は積極的な撤退、海外の日本企業はその国からの事実上の圧力で撤退するはめになった。
WHOもPUCSの因子に関してはまだまだ調査中であり、できるだけ日本には滞在するのを薦めないという旨を発表している。
そして日本人も海外への旅行へなかなか行けなかった。行っても現地では冷たい目で見られるため、海外へ観光であまり行く者もいなくなった。
不思議なことに、日本国籍を持っていた両親の子は海外でも発病したり、外国人と結婚した日本人の子供も発病することがあった。
そして、日本は事実上の鎖国状態になった。
それは不幸でもあり幸いでもあった。
まずは内需の拡大。海外から撤退した企業が国内に拠点を置いたため、様々な内需が拡大し、雇用も拡大・安定した。
そして海外から日本企業が撤退すると、撤退した国の商品の品質は落ち、輸入はほとんどなく、国内需要が高まった。
そして、海外から止む無く日本に帰国した優秀な頭脳達が集まり、日本の技術はさらに向上した。
そうなると今度は、良い製品のものや良い技術製品などを購入したい外国人は当然のことながら増える。そして結果として輸出は大黒字になった。
海外企業が撤退したおかけで、日本に拠点を置く海外企業の売上が他国に渡ることもなくなった。
つまり、海外に流れていた金が国内で潤滑に流れ、さらには輸出も歴代に並ぶ黒字になっている。
こういう状態になると、輸出して儲けたい国はなかなか儲けることができない。そのため、米国はしびれを切らしてTPP品目のさらなる拡大を目論んでいた。
しかし品目を増やしたところで、自国の製品が良ければ自国の製品を買うのが消費者の思考だから、米国が拡大を迫っても意味がないと岩見は思った。
それになんだかんだ言って、未だに奇病の流行る日本は諸外国から腫れ物を触るように扱われている。
おかげで領土問題もなかなか進まないでいる。
にっちもさっちもいかない諸外国は今や不満だらけだった。以前社会の教科書で見た『双子の赤字』で日本製品が外人達の手で壊される様を、まさか岩見はテレビやネットを通してリアルタイムで見るとは思ってもみなかった。最初の『双子の赤字』をリアルタイムで見ていた島松や真駒は、なつかしいねぇと呑気に言っていた。
やがていつものように緑の術着と白衣を来て、朝のミーティングで手術のスケジュールを改めて確認する。
いつもルーム43は子供を失った親たちの泣き声が響いている。
ーああ、そういや葬儀屋も儲かってるんだろうな。
岩見は不謹慎なことを思いながら、ほぼ常駐している葬儀屋連中を尻目に手術室へ向かった。
いつものように切って縫う。岩見にはそれだけしかできなかった。
ーいつかは、目を覚ました子から、この胃ろうの除去手術ができるだろうか。
そんな儚い願いを込めながら岩見は手術を続けている。
最近、イトマキや豊平たちと一緒に居ることが多いせいか、岩見も何かできること、見つけられることはないだろうかと探す癖がついていた。
そして、何気なく術中に気がついたことがあった。
ー患者の数がおかしくないか・・・?
患者は1日平均3〜5人亡くなる。そうすると、まるで補充するように患者がやって来る。数はバラバラだが、必ず数日中に亡くなった患者の数と同じくらいの患者の手術をしている。
岩見はあとでイトマキ達に自分の仮説を話してみようと思った。
やがて手術も術後の説明も終えて休憩室に入ると、ちょうどそこには豊平が甘いフルーツのタルトケーキを頬張りながらコーヒーを飲んでいた。
岩見は豊平の前に座ってニヤリと邪な笑みを浮かべた。
「という訳なんだよ。あとはよろしく。」
岩見は足を組んでコーヒーを飲みながら得意げに豊平に言った。
「え?なんで僕なんですか?」
「だってお前データ集計とか得意じゃん。」
そう言いながら珍しく岩見は自分のA4サイズのタブレット端末を取り出して豊平にデータを全て送った。
「じゃあ煙草吸ってくるわ。」
「んー!もぅ!」
豊平は去っていく岩見の背に不満を垂れながらも、律儀にデータの集計を始めた。
2033年の日本の状況です。PUCSのせいでかなり大変な情勢のようです。
全然関係ないですが岩見は割とものぐさで人使い荒いです。
テーブルに醤油があっても「醤油とって」と人をこき使う派。
そしてその醤油を結局取らされる奴隷体質派の人は豊平です。
頑張れ琉星くん!負けるな琉星くん!




