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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/意識と無意識

 三人は京帝大学病院近くの元PUCSの患者が居る入院施設のある精神科を片っ端からあたり、どっぷりと暗くなった時間に電車に揺られながら、京帝大学病院へ戻った。

 岩見はつり革ふたつにぶら下がって体重を預け、げっそりとやつれていた。

 最初の精神科以外の病院は、岩見達が行くな否や患者が興奮し、全く話を聞けなかった。

 そして彼らは一様に、昼夜問わず興奮状態になることが多いこと、食事もしっかり摂っているが体力の消耗が激しくひどく痩せていること、ゲームの中にいるような事を口走り、岩見達をボスだボスだと大声で騒ぐ者もいた。


 「奴らの足元を狙え!」「いや、腕だ!」「魔法を打つぞ!」


 彼らはそう言いながら看護師たちに足や腕を拘束されたり安定剤を打たれたりしながら処置室へ連れて行かれた。

 暴れたり拘束されたりする患者を1日で何度も見た岩見は、ひどく精神的に参ったようで、最後の病院を出た際には耐え切れずに嘔吐してしまった。

 電車に乗ってもまだ続き、ほぼ各駅停車で嘔吐して、最後は胃液だけになっていた。

 岩見はPUCSプロジェクトに関わる前の研修では、サルベージされた患者の様子を文章でしか確認していなかった。

 今日、施設に向かう前の電車の中で岩見は、サルベージに関しては仕方なかった、親として子供に1日でも早く目を覚まして貰いたかったから藁にすがってでもサルベージを頼むとイトマキの意見に反対したあと、苺花を見て本当のサルベージの後遺症をまざまざと見せつけられた。そして今日周った全ての施設でサルベージを受けた患者達を見て岩見の意見は一気に変わった。

 そして、もし自分の娘がPUCSになってサルベージを受けたとしたら・・・、それだけで岩見は恐ろしてくたまらなかった。

 医療は犠牲の上に成り立っていることもある。そして、その時代では有効だとされた治療でも、数年後には誤りだった、効果がなかったと証明されることも日常茶飯事だ。

 そう頭で医者として理解していても、岩見の人としての心と体はサルベージ自体を拒否した。


 「大丈夫ですか・・・?」


 イトマキと豊平に至ってはそういった精神面での分野に長けていたせいだろうか、ボロボロの岩見の横で熱い討論を交わしている。それでも次の駅が近づく度に二人は岩見を心配した。


 「もう・・・出るもんも出ねーよ・・・。」


 さすがに岩見の酷い有様に気がついたのか、岩見の前に座っていた人が岩見に席を譲った。岩見は礼を言って、力尽きた様相で席についた。


ーこんなのいつ以来だろう・・・。


 そう考えた時、ふと岩見の視界が一瞬ブレてめまいがした。そしてまたいつものように不思議と落ち着いた。


 「俺はさ・・・お前たちとは違って心が繊細だからよ・・・。」


 岩見は、平気そうにしているイトマキと豊平を力なく見つめて言った。


 「うんうん・・・そうですよね・・・。もしよかったら一度、私のカウンセリングを」

 「自分のトラウマも治せない医者になんざ頼まねーよ。」


 イトマキの言葉を遮って岩見が乾いた笑いでイトマキを皮肉る。しかしイトマキは怒ることもせず、ただ心配そうに岩見を見ていた。


 「しかしよ・・・よくお前らあんなの見て平気だっな・・・。」


 今日一日の事を振り返り、全くダメージのないイトマキと豊平のタフさに岩見は羨ましさを感じた。


 「私は・・・内臓とかダメですし・・・。」

 「ぼ、僕は血を見るの、本当は苦手なんですよ。岩見先生のほうがよっぽどタフですよぉ。」

 「あんなもん、慣れだよ慣れ。」


 岩見は両手の平で顔を抑えながら苦いため息を吐く。

 切って、縫って、のルーチンワークの消化器外科の岩見にとって、自分の仕事が気持ち悪いものなどという思いは一切なかった。そして、医者はどんな医者であれ、患者を一分一秒でも長く救うことが全てだと思っていた。

 しかし、やはり今回の施設訪問は門外漢が居るべき場所ではなかったと、岩見はつくづく後悔していた。


 やがて、三人は京帝大学病へ到着し、PUCSプロジェクトリーダーの真駒に簡単な説明をした。岩見だけは魂の抜けきった表情をしている。


 「なるほど。興味深いですね。次回の会議でぜひプレゼンをお願いします。」


 真駒の言葉に、イトマキと豊平の目つきが更に真剣になる。


 「ところで岩見先生、大丈夫ですか?」


 真駒は老眼鏡を拭きながら、ボロボロになって話すら聞いていなかった岩見に問いかけた。岩見はようやく我を取り戻し、背筋を伸ばした。


 「あ、はい。と、とてもいい勉強になりました。」

 「そうですか、それはよかったですね。」


 真駒も岩見もお互い心ない言葉を掛けあっていたが自然と会話は成立していた。


 その後、イトマキは施設を周る間に各々の患者の担当医師に、患者が興奮する時間帯を電子カルテで送って欲しいと頼んでいた。そしてイトマキは電子カルテのデータを洗い出し、データの整理を行ったり、豊平と何度も打ち合わせをした。


 そしてPUCSの会議の日、元PUCS患者の苺花との面会の録画画像がプロジェクターで流れ、会議室のメンバーは皆動揺した。岩見もその目で見たと言うのに、恐怖で動悸が酷かった。

 面会の録画画像の後、イトマキと豊平はこれまでのデータで元PUCS患者についての特徴を話した。


 「そんなもん統失じゃ当たり前のことじゃねーか。こんなもんの為に会議なんざ時間の無駄無駄。」


 島松はPUCSのメンバー全員がサルベージの後遺症についてひと通り知ってることを今更言っても意味が無いと文句を言う。その島松の意見を待ってましたとばかりにイトマキの目が鋭く輝く。


 「実は、元PUCS患者さんの病院の先生方から、患者さんの興奮状態になる時間のデータを送って頂いたんです。」


 怪訝な顔をする島松に、いい前振りをしてくれてありがとうと言わんばかりにイトマキは島松に一瞬微笑んで見せた。島松はまんまとイトマキの罠にはまった事に気がついて怒りを抑えるのに必死になった。

 内心怒る島松をよそに、イトマキは元PUCSの患者達のデータをプロジェクターで映した。


 「これは全て別々の病院の元PUCS患者さんの興奮している状態のデータです。彼らは遠くに居て、連絡手段もないのに、ほとんど興奮している時間が重なっているんです。」

 「確かに・・・、患者が別々の病院では、こういうデータを集計するという発想はなかなか生まれなかったでしょうね。このことだけでも素晴らしい発見ですよ。」


 イトマキのプレゼンで、珍しく真駒が若干興奮気味で目が輝いている。


 「ありがとうございます。元々は豊平先生から元PUCS患者さんに会いに行くというご提案があったからこそです。」


 イトマキは真駒の礼を豊平に返した。豊平は嬉しさ余って恥ずかしそうにしていた。

 顔を赤く染めている豊平を尻目に、イトマキは本題へ入る。


 「さらに、この元PUCS患者さんと、現在治療中のPUCS患者さんとの興奮状態の時間を調べてみました。」


 プロジェクターから映されたデータに、一同がどよめく。島松も怒るのをやめてただ驚愕の事実に呆然としていた。


 「元PUCSの患者さんと、現在治療中のPUCS患者さんとの興奮状態の時間がほぼ一致しています。さらには、現在治療中のPUCSの患者さんの面会時間以外で興奮している時があったのですが、調べてみると元PUCSの患者さんに面会の方や親御さんがいらっしゃった時と、ほぼ合致しています。」


 会議室のメンバー達が完全に沈黙した。まさに信じられないことが起きていたことがイトマキ達によって証明されたのだ。


 「さらには、元PUCSの患者さんは不眠症の傾向にあり、夜中にも興奮することがあるそうです。そのデータと現在治療中のPUCSの患者さんの夜の興奮状態の時間帯を照らしあわせてみます。」


 そう言ってイトマキは新たにデータを表示する。


 「夜中に元PUCSの患者さんたちが興奮している状態の後を追うように、現在治療中のPUCSの患者さんたちが一斉に興奮しています。」


 映しだされたデータとイトマキの言葉に、またも皆がどよめく。嘘か真か、皆が信じられないと言った様相だった。


 「つまり、これは仮説ですが、サルベージ治療を受けた元PUCS患者の方は、意識がありながら、現在のPUCS患者さん達の集合的無意識の中に入って無意識下の患者さん達をコントロールしているのだと思います。」


 以前はイトマキの集合的無意識説をゲームに例えて乱暴だと騒いでいたメンバー達も、データを見て納得せざるをえなかった。


 「まさか本当にピーターパンは居て、ネバーランドを支配してるってことか・・・。」


 島松も珍しく真面目な顔でイトマキの言葉をわかりやすくまとめた。


 「そうです、島松先生の仮説通りでした。」


 イトマキはそう言ってにこやかに島松に礼を言った。島松は当然のことだと言わんばかりに頷くが、内心再び怒りが沸き起こるのを必死で堪えていた。


ーこのクソ小娘ごときがっ!


 島松本人は怒りを必死で抑えていて悟られていまいと思っているようだったが、岩見が島松の足元を見ると、案の定、会議室のテーブルが揺れそうなくらい酷い貧乏揺すりをしていした。皆も同じように、島松は怒りを露わにしない時はひどい貧乏揺すりをするのを知っていた。皆、イトマキに島松が一杯食わされて泡を吹いているのを見て笑いを必死で堪えていた。


 「それにしても本当に素晴らしいですよ。伊東先生、豊平先生、PUCSの未来を切り開く貴重なデータの発見、ありがとうございます。」


 真駒の拍手と共に、会議室のメンバーが一斉に拍手をした。

 イトマキも豊平も、褒められた子供のように恥ずかしそうにしていた。

 しかしイトマキには懸念していることがあった。それは、本当に苺花が言うGM(ゲームマスターが死ねば現在のPUCS患者も死んでしまうと言ったことだった。

 それが嘘か本当か、今でもイトマキの胸の中でモヤモヤとしていた。

 

 

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