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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/ゲームマスター

 駅を降り、目的の病院へ三人はたどり着いた。あらかじめ受付には今日来る旨を伝えていた。

 受付を済ませて患者たちの居るロビーから面会室へ向かおうとした時だった。

 薄暗い廊下の奥で、電動の車椅子に乗った人物が三人を見ている。そしてその人物は電動車椅子で少し後退してから止まって、手を広げて拳を握り、それから慌てて何かを置く動作をしていた。


 「パントマイム・・・?」


 岩見は初めて見た統合失調症の患者の行動がパントマイムのように見えたようだった。

 岩見達の横を看護師が通り過ぎ、先ほどのパントマイムをしていた人物の車椅子の後ろにまわって、面会室へ連れて行った。


 「もしかしてあのパントマイマーが高田苺花いちか?」

 「みたいです・・・。」


 岩見は小声で豊平に確認を促し、豊平は病院のタブレット端末ではなく紙に印刷したもので確認して小声で答えて頷いた。

 病院から支給されるタブレット端末はセキュリティ上の問題で外への持ち出しが禁止されている。そのため豊平はデータを印刷して持ってきていた。

 三人は高田苺花の担当医師に案内されて面会室へ入り、部屋のソファーに腰掛けた。

 面会室には先程のパントマイムのような行動をしていた人物がいる。この人物がサルベージされて現在生存中の数少ない元・PUCS患者だ。

 苺花は2019年、16歳の時にPUCSを患い、両親の承諾を得てサルベージを受けた。しかしその代償は大きかった。彼女は目覚めて14年間、ずっと入院施設のある精神科の病院を点々としてきた。

 苺花の現在の病名は統合失調症といい、現実と幻想・幻覚の境目が曖昧になって、全てが現実のものに思えるという病気である。苺花の場合はおそらくサルベージによる後天的なものだろう。

 サルベージ後、目が覚めた患者は皆一様に統合失調症のような状態に陥り、自殺を計って命を落とす患者も少なくなかった。医師会はこのサルベージ後の後遺症に対して医療ミスではないという見解は出したものの、その後のサルベージ後遺症の患者を支援する団体の設立には少なからず貢献した。


 岩見たちの目の前に居る高田苺花は現在30歳。長い髪はボサボサで、肌は全体的にカサカサしており、ひどく痩せこけている。親指の爪はおそらく歯で噛んだせいでボロボロになっている。

 苺花の容姿をしげしげと見ていた三人に気が付き、担当医が弁解する。


 「彼女は普通に食欲があるんですが、昼夜問わず興奮状態になることがあったり、夜も眠ることがあまりなくて体力の消耗が激しいんです・・・。」

 「なんだか・・・目が覚めているのにPUCSのような状態ですね。」

 「言われてみればそうですね。」


 苺花の担当医とイトマキがそんなやりとりをする中、苺花は焦点の合わない目でぼんやりとしている。その目の奥には生気がない。

 とりあえずイトマキたちは苺花に自己紹介をした。


 「はじめまして、苺花さん。私達は京帝大学病院から来ました。私は伊東真木子といいます。」

 「私は岩見耕太です。そしてこちらは苺花さんと同じキラキラネーム仲間の豊平琉星りゅうせいです。」


 岩見は勝手に豊平の自己紹介をして、周りにいた担当医と看護師は思わず吹き出した。担当医と看護師は謝りながらも豊平の名前と容姿に思わず笑いを堪え切れなかったようだ。


 「岩見先生ひどいですよぅ。どうして勝手に僕の自己紹介するんですかぁ?!」


 豊平は憤慨していたが、その丸い容姿につぶらな瞳ではまるで怒っているようには見えず、さらに担当医や看護師達は笑いを堪えるのに必死だった。

 そこで、珍しくイトマキが咳払いをする。岩見はふざけすぎた事を少し反省した。

 その場が落ち着いた頃、ようやくイトマキが話を切り出した。


 「苺花さんにお尋ねしたいことがあるんですが、『ベルセポネオンライン』は御存知ですか?」


 イトマキの言葉に、先程まで焦点の合わなかった苺花の目に生気が戻る。その目は先ほどの人物とは思えないほどギラギラと敵意をむき出しにしていた。


 「やっぱり、あなた達が私たちの世界を邪魔してたのね?!」


 苺花は訳のわからないことを口走り始めた。


 「あんたがジオサイドに何かしたでしょ?そのせいで私たちの世界はおかしくなってるの!早く元に戻しなさい!今すぐに!」


 苺花は口角に泡を溜めながらイトマキたちにまくし立てる。


 「あなたは、苺花さんですか?」


 イトマキの一見、見当違いな問いかけに、岩見と豊平は不思議そうにしていた。


 「私にはメリッサという名前があるの。そして私は・・・あの世界のゲームマスターなの。私達は彼らの行動を監視し、統率する役割を与えられた選ばれし者なのよ。」


 どうやら苺花はイトマキが自分の事を信用していることが嬉しかったのか、少し落ち着いて誇らしげな笑みを浮かべて車椅子の背に体を預けた。


 「ねぇ、私達ゲームマスターが何を言っても、最近みんなが動きたがらなくて困っているの。絶対、あなた達が私達の邪魔をしてるんでしょ?白状しなさい。さもないと・・・」

 「さもないと?」


 苺花のその人を見下す態度が気にくわない岩見は、若干イライラしながら斜に構えて上目遣いに聞いた。

 すると、苺花はその細い両腕を体の前で交差させ、自分の手を自分の首にあてがった。


 「今すぐ首を締めて死ぬわ。私達ゲームマスターが死ねば他の子達もみんな一緒に死ぬわよ。それでもいいのかしら?」


 苺花の行動に、その場の空気が凍る。

 イトマキはこれはブラフなのか、それとも本気なのか、判断しかねて背筋に冷たい汗が流れる。しかし自分たちの治療行為を明かすわけにもいかず、かといって苺花がその首を本気で締めれば苺花本人の命に関わる。

 イトマキが慎重に事を運ぼうと考えていたその時、急に苺花は弾かれたように体を車椅子に押し付け、体を震わせながら除々にその首から手を離し、降参したかのように両手を挙げている。しかも体はひどく震え、涙を流して青ざめている。


 「お、お願い、助けて・・・。」


 苺花はそう言ったあと、一気に脱力してひどい過呼吸を起こし始めた。担当医と看護師が慌てて駆け寄る。


 「すぐに処置室へ!」


 担当医はそう言い、看護師と共に苺花を車椅子に乗せて処置室へ向かった。

 取り残された三人はただ呆然としていた。


 「おいおい、マジかよ・・・。」


 全く信じていなかった岩見の顔は蒼白だった。そして、イトマキも豊平も、仮説が当っていて、それを目の当たりにして驚いている。


 「今日は苺花さんにこれ以上お話をお伺いできないみたいですし・・・。念のため、今日当たれるだけ当ってみましょう。」


 イトマキの言葉に豊平も頷いて立ち上がる。


 「えええええ?マジで?本当に?まだやるの?」


 イトマキと豊平の背中に向かって、岩見は情けない声で止めるよう請うた。しかし二人は岩見の意見を無視してそのまま部屋を出た。

 岩見はイトマキの監視をすると申し出たばかりに、先程の光景を今日一日見続けないといけないことに、ひどく後悔した。


 「ああ・・・くるんじゃなかった。」


 そう言いながら、岩見はソファーから重い腰をあげて力なく立ち上がり、のろのろとイトマキたちの後を追った。

 

苺花さんの目には、イトマキ・岩見・豊平がどんな風に見えていたんでしょうか?


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