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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/助長

参考

故事「さ」行・助長

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%95%85%E4%BA%8B

物事の生長を助けようとして、余計に害を与えてしまうこと

 三人は電車に揺られながら京帝大学病院の近くの、入院施設のある精神科へ向かった。

 岩見はつり革ふたつにぶら下がって体重を預け、口を尖らせながらひどくつまらなそうにしていた。


 岩見はイトマキから見せられた『言語野サルベージに関するレポートを無記名で提出するよう真駒先生から言われた』というメモの内容を使って、真駒を揺さぶって許可を取るつもりだった。

 そして、イトマキ・岩見・豊平の三人で真駒の部屋へ訪れて豊平がプレゼンを行った後、その切り札を使おうと岩見がワクワクしながら待ち構えていたときだった。


 「そうですか・・・。豊平先生がそうお考えなら許可しますよ。」


 真駒はあっさりと豊平に許可を出した。岩見は予想外の反応に目を白黒させている。


 「ところで、伊東先生と岩見先生がなぜ?」

 「イトマ・・・伊東先生は精神科のご専門なので、伊東先生にも一緒に来ていただいてご意見をお伺いしたかったんです。」

 「俺は伊東先生のお守り役です。」


 豊平の意見には快く頷くが、岩見の意見に真駒は難色を一瞬示す。しかし、ここはやはりどこか呑気な豊平と暴走しがちなイトマキ二人だけで行かせては問題があると真駒は思い、岩見の意見にも許可を出した。



 「ああ、つまんねぇなぁ、つまんねぇなぁー・・・。」


 せっかく真駒の鼻を明かしてやろうと楽しげにしていた岩見にとって、あまりにもあっけなさすぎる展開だった。


 「良かったじゃないですか。禍根を残すような話し合いにならずに平和的に解決してよかったと思いますよ。」


 イトマキはそう言いながら、隣の豊平と一緒に頷く。イトマキも豊平も、こんなにもあっさり許可が降りたことを不思議に思っていたが、目的が果たせるならそれでよしと、考えることをやめて呑気に車窓を眺めていた。

 三人はしばらく無言でぼんやりとしていたが、ふとイトマキが車窓の外の家庭菜園を見た瞬間、何か思うことがあったようだ。


 「あの、『助長』って言葉の由来、ご存知ですか?」


 イトマキの問いかけに、岩見と豊平が反応する。すかさず豊平は自分のスマートフォンで『助長』を調べ、岩見がそれを覗きこむ。


 「物事の、助長を助けようとして、余計に害を与えてしまうこと、って書いてますね。」


 豊平は検索結果を読み上げた。そしてイトマキはそれに頷く。


 「今、外の家庭菜園を見て『助長』って言葉の由来を思い出したんです。」

 「オカルトの次は国語か・・・。お前いつになったら精神科医らしいこと言うんだよ。」


 岩見は呆れて茶々を入れるが、窓辺を見るイトマキの顔は真剣そのものだった。


 「サルベージって、実は『助長』の由来と似ている気がするんです。助長の言葉の元は、野菜を早く育てたいからという理由で野菜の根を無理やり引っこ抜いて早く育てた気分になったけど、結局は根を無理やり抜かれた野菜は育たなかったという話です。」

 「まぁなんともマヌケな話だな。」

 「ですよね・・・。でも昔の患者さんたちが受けていたサルベージも実は『助長』だったんじゃないのかなって・・・。」


 イトマキのその言葉に、岩見も豊平も押し黙って考えこんでいた。


 「そうだな、成長途中で無理やり引っこ抜けば、育つもんも育たんな・・・。だが、昔はあの方法しか治療法らしいものはなかった。今でさえ確固とした治療法がないんだ。今更サルベージに文句垂れんな。俺だってその時、自分の娘がそんな状態で治療法がアレしかないと言われりゃ藁にもすがる思いでお願いしますと言うだろうよ。1日でも早く目をさまして欲しいと思う親の気持ちはマヌケな行為だってお前は言いたいのか?それともずっと育つまで見守っとけっていうのか?お前だって見守った所で枯れてくばっかりなのを目の当たりにしてるだろうが。」


 岩見が険のある言葉でイトマキをまくし立てる。それは岩見がずっと、枯れていくばかりの子供たちをずっと見続け、自分の無力さを知っているからに他ならない。

 豊平もその事を分かってはいるものの、岩見の剣幕にあたふたするしかなかった。

 イトマキは岩見の言い分に一理あると思い、自分の言った事を恥じて俯いた。


 「だけど・・・、今は見守っていてもしょうがないから、こうして私たちは要因を探しに行くんです。」


 イトマキは顔を上げ、強い決意をもった瞳で岩見に向き合い、しっかりとその問いに答えた。岩見はそのイトマキの真剣さに思わず背筋が伸び、ただ相槌をうった。


 「そうだな・・・。だからこうしてるんだよな。」


 岩見はぽつりとつぶやいた。

 また三人はしばらく無言のまま、暖かな日差しの差し込む電車に揺られながら目的地に着くのを待った。


 「そういえば琉星りゅうせいくんよぉ。」

 「は、はいぃ!」


 岩見の矛先は豊平に向かった。豊平は思わず苗字ではなく名前で呼ばれで思わず上ずりながら返事をした。

 豊平は医局に入った時にこの『琉星』という名前とまん丸い体型のため、一時期同僚たちが付けたアダ名が『隕石』だった。今では豊平と苗字で呼ばれている。豊平も久しぶりに自分の名前を呼ばれて動揺していた。


 「今日会いに行くやつもお前と同じドキュ・・・じゃなかった、キラキラネームだなぁ。」

 「そ、そ、そうですね。」


 豊平は自分の名前を久しぶりにからかわれて苦笑いし、イトマキは何を思い出したのか、顔を逸らして耳を真っ赤にして必死に笑いを堪えようとしていた。


 「しかしさぁ、やっぱ名前で言うとうちの娘の名前が一番可愛いよなぁ。だってのぞみだぜ?!すげー夢があって可愛いだろ?もちろん顔も性格も全部可愛いけどな。」

 「あ、もう着きますよ。」


 岩見は結局名前の話題を振って、そこから自分の娘の可愛いアピールがしたかったようだ。しかしあっさりとイトマキはその話題を華麗にスルーした。岩見はくすぶりながらも連れ立って停車駅へ降りた。



 ところで、なぜ真駒が豊平の要望をほぼ無条件で許可したのかと言えば、実は真駒は密かに豊平にシンパシーを感じていたからだ。

 真駒も実を言えば、若いころはどっぷりと二次元の世界に恋をし、ネーベンの頃は忙しい当直の合間を縫って同人誌を作り、誘われた合コンをろいろな理由を付けて断っては同人イベントに参加していた。

 そんな真駒の過去があったからこそ、思わず豊平を甘やかしたくなってしまうのだ。

 真駒は三人が部屋を去ったあとに、名残惜しげに閉じられた扉を眺めていた。


 「豊平くんがもっと早くに生まれていたら、きっと楽しかっただろうなぁ・・・。」


 真駒は自分の若いころに思いを馳せ、豊平のバーチャルリアリティ愛に共感して思わず甘い吐息を漏らす。しかし同時に、若いころの島松に執拗に合コンに誘われていた事を思い出して、今度は苦いため息をついた。

豊平先生の名前は琉星りゅうせいだそうです。名前がキラキラしてます。

真駒先生の名前は拓哉だそうです。短くしたらマコタク・・・

辛うじて木村拓哉を知る世代の島松の格好の餌食になってもおかしくない名前ですね。

島松「おい、マコタク、ちょっと待てよぅ!(キムタクの真似)」

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