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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/ピーターパン

 USBメモリを見たその後の3人は、しばらく恐る恐る生活をしていたものの、時間の経過とともにまた普通の生活に戻った。

 岩見はいつも通りのスケジュールに沿った胃ろうの手術を行い、イトマキもいつも通り患者の親たちのカウンセリングをしている。

 イトマキは、カウンセリングを行う中で、それとなくPUCSになる前の状態を患者の親たちに尋ねてみた。

 患者たちはオンラインゲームをしていたものもいれば、そう言った類のゲームをしないものまでバラバラであった。しかし、共通しているのはPUCSになる付近から反抗的になりはじめたり、あるいは家族と話したがらなくなりはじめたりと、思春期や成長期ならではの特徴が出始めた頃だということがわかった。

 その共通点を探る時に、イトマキはカウンセリングに来たある両親の言葉にはっとされられた。


 「今まで、ちゃんと子供のことを見て、ちゃんと向き合ってるつもりだったんですけど、今になってようやく分かったんです。私たちは子供に向き合ってたんじゃなく、子供に自分の理想像を押し付けたり、自分たちの育て方が悪かったってずっと自分たちを責めてただけなんですね。さっき、子供と面会をして、本当に、初めて純粋に子供と向き合えた気がします。」


 その言葉で、イトマキ自身が自衛隊病院と今現在務めている京帝大学病院での患者の親たちに感じていた違和感の正体がようやくわかり、内心目が覚めたような思いを感じていた。

 確かに自衛隊病院の場合、患者の親たちとのカウンセリングを通して、まるで子供たちが戦場からただただ無事に生きて戻ってきてほしい、そんな一念を患者の親たちから感じていた。

 しかし、京帝大学病院の患者の親たちは子供たちに対して、目を覚まして欲しいということより、目を覚まさないもどかしさ、自責の念、子供のこれからのこと、入院費用、看護のことなど、親自身がまずいろいろと考えすぎて自分の子供のことがまったく見えていなかったことに気がついた。

 そして例外である稲村の母についても、最初は取り乱していたが、自衛隊病院の患者の親たちのように稲村米子に目を覚ましてほしい一心で面会をしていた。

 イトマキは、これも確たる根拠はないが、患者たちが目を覚ます要因の一つにはやはり親たちの考え方があるのではないかと日に日に思い始めた。

 そのイトマキの考えと呼応するように、患者の親たちが良かれと思って患者のベッド横の机に積んでいた健康運のお守りや御札、ドリームキャッチャーやエケコ人形などの開運グッズ、そして怪しげな新興宗教や占い師から買ったような壷や水晶が、だんだんと消えていった。

 そして親たちは子供たちがPUCSになる前の記憶を頼りに、子供たちが欲しがっていたものや、好きなものを飾るようになった。それが恐らく親たちが本当に子供と向き合うきっかけになっているのだろう。

 PUCSに関わる医師たちも看護師たちも、以前よりもっと病棟が明るく不思議と心が暖かくなったような気がしたと口々に言っていた。


 その一方、豊平は神経内科の仕事にとり憑かれたように打ち込み、仕事が終わっても残業と称して資料室に篭ることが多くなっていた。


 昼休みの休憩室で、岩見とイトマキは豊平のことを心配していた。


 「俺さ、豊平が今までオタク趣味で生身の人間に興味なくて周りとあんまり話そうとしなかったのが気になってたんだよ。でも米子ちゃんが仕事の取材で豊平と話すようになってから、豊平が身なりをきっちりするようになっただけじゃなくてさ、周りとも除々に話すようになってさ、まぁなんというか、あいつ成長したんだなって微笑ましくみてたんだよ。でも、理由はどうであれ、今はなんだが逆戻りしたみたいで・・・。豊平に言いたいのは山々だが、どうしても米子ちゃんが安心するまではなぁ・・・。」

 「そうなんですよね・・・。本当のことを言ったとしても、豊平先生がひねくれて話を聞いてくれないってこともあるかもしれませんし・・・。」


 その時、急に休憩室の扉が開き、沢山の印刷された資料をもった豊平が現れた。髪はボサボサでヒゲも剃らず、丸い顔がやつれている。しかし、目だけは恐ろしほどギラギラしている。

 イトマキと岩見はその豊平の鬼気迫る姿に気圧されてしまって、かける言葉を失ってしまった。

 豊平は机に資料を置き、ソファーに座って長いため息をついた。


 「よかったー。ちょうどイトマキ先生に見てもらいたいものがあったんです。」


 顔をあげてイトマキに向き合った豊平は、まだ寂しさは残るものの、いつもの豊平に戻ったようで、イトマキも岩見もほっとしていた。


 「俺にはないのかよ?」

 「ないのかよっていわれても・・・。脳波の話ですけど大丈夫ですか?」

 「あんまり大丈夫じゃない気がするな。」

 「もう岩見先生はいっつもそうなんですからぁー。」


 岩見は極力いつもの何事もなかったような口調で豊平に言い、豊平もいつものように岩見の嫌味に苦笑いで応えていた。


 「あの・・・それでお話って?」


 イトマキは二人のやり取りを邪魔して申し訳なさそうにおずおずと手をあげて豊平に用件を聞いた。

 豊平は待ってましたとばかりに資料を広げる。インクとどこか古びてカビ臭い匂いが広げられた紙から漂う。


 「お前、これどこから持ってきたんだよ。えらく古臭い匂いがするな。」

 「資料室から持って来ました。」


 そして豊平は資料室から持ってきた資料を広げながら、イトマキたちに事の経緯と説明を始めた。

 きっかけは、言語野サルベージの時だった。

 イトマキが言語野サルベージの際の集合的無意識の図を、ホワイトボードから直接無線で自分に支給されているタブレット端末に資料として保存してじっくり見た時から、豊平の頭の中にひっかかることが二つあった。

 一つは、ずっと以前から患者たちがこうして同調していたのか。

 もう一つは、誰かが統率をとっている。つまり、島松風に言わせればネバーランドの支配者であるピーターパンがいるのはないかということ。

 豊平は失恋のショックを忘れる為、この二つの謎を自分なりに調べ始めた。

 まず、現在調べているのは患者たちが以前からずっと同調していたかどうかだった。


 「それで、17年前の2016年、ちょうどPUCSが日本医学会で病気として認定されてから記録されてきた紙の資料をずっと見て来ました。」

 「その頃って言えば、ちょうど高校義務化と徴兵制の頃だな。」

 「そしてその資料をスキャンしてトレースして、年ごとに分けて複数の患者の脳波を重ね合わせてみました。」

 「・・・ごめん、それなら紙・・・いらなくね?」


 ひと通り豊平が話し終えた所で、岩見はふいにツッコミを入れてしまった。豊平はしばらくわざわざ持ってこなくてもよかったことに呆然としていた。


 「ほ、ほら、紙媒体のときが分かりやすいときだってあるじゃないですか。」

 「そ、そうだよな。なんだかんだ言って、頭がまとまらない時はペン使って紙に書いたほうが整理できたり、するよな。」


 そう言ってイトマキと岩見は豊平をフォローした。豊平は恥ずかしそうに苦笑いを続ける。

 そして、タブレット端末を机に置いて白い壁に向け、トレースして重ねあわせたデータを端末から白い壁に向かってプロジェクターのように照射した。

 白い壁にはデータが映し出される。岩見とイトマキはデータが照射された壁を見る。


 「2016年から2025年、2025年から2033年までのデータの2つに分けました。」

 「なんで二つにわけてんの?」

 「それは、2025年にサルベージが医学会で議論されて、サルベージの一時中断の決議がされた前後で顕著な変化があったので分けています。」


 豊平の説明を聞きながら二人は頷く。


 「えっと・・・、2022年から2025年まで妙ですね・・・。」


 イトマキがデータの変化に気づいてくれたのが嬉しいのか、豊平の説明に熱が入る。


 「そう、イトマキ先生、そうなんです。2016年から2022年まで、患者の体力の消耗・興奮状態は皆同じなんですけど、みんな興奮する時間帯がバラバラなんです。一緒に患者の面会時間もデータに重ねます。」


 豊平がその頃の患者の面会時間のデータを重ねあわせた。

 すると、皆、面会時間に興奮状態にはなっているが、皆が一斉に興奮することはなかった。つまり皆、その頃は同調もせずバラバラだったのだ。

 しかし、様子が変わり始めたのがサルベージの仮の一時中断から本格的な一時中断に至るまでの2022年から2025年の3年間だった。

 この3年間から、徐々に患者の面会時間に合わせてだんだんと同じ時間帯に興奮する患者が増え始めた。

 そして、2025年から完全に患者達が面会時間に合わせて一斉に興奮するようになっていた。


 「それで、ここからが僕の仮説なんですが・・・。」


 豊平の真剣な面持ちに、イトマキと岩見は固唾を飲んだ。


 「イトマキ先生の集団的無意識の仮説に加えて、僕はやはりPUCSの患者をコントロールしている要因があると思うんです。」

 「つまりピーターパンがいるってことか。」

 「島松先生風に言えばですね。イトマキ先生の説のゲーム風に言うと、GM(ゲームマスター)と言って、ゲーム内のゲームバランスなんかをコントロールする仕事をしている人です。」

 「そのGMとさっきのデータと何の関係が?」


 岩見は直球で豊平に質問を投げかける。豊平は一呼吸置いて、答えた。


 「もしかして、サルベージされた人がピーターパン兼GMだと思います。」

 「お前もとうとうオカルト先生イトマキに毒されたか・・・。毒される気持ちもわかるが、今は気を強くもて。」


 豊平が真剣に話した後、岩見はいたたまれなくなって豊平を慰めるように豊平の肩に手を置いた。


 「いえいえ、毒されたとかそんなんじゃなく、もう一回データを見てくださいよぉ。」


 そう言われて岩見もイトマキももう一度データを見る。


 「サルベージ中止後から、患者の統率がとれている。これはやはりサルベージされた患者と関係があると思うんです。」

 「確かにそうですよね・・・。なんでサルベージ中止後からこんなにきれいに都合よく統率されてるのかっていうほうがおかしいですよね・・・。」


 豊平の説明を聞き、イトマキが自身の自衛隊病院時代の事も踏まえて豊平の説に納得していた。


 「そこで、イトマキ先生にお願いがあるんです。今までサルベージされて現在も生存している患者さんも入院先も調べました。どうか直接会って調べる事ができますか?」


 サルベージされた患者は統合失調症で病院に入院するか、もしくは自殺してあの世にいるかのどちらかだった。

 精神科系の分野ならば、イトマキに任せるのが適任と思い、豊平はイトマキに自分の説を話したのだろう。


 「どうなんでしょう・・・。真駒先生達から許可が貰えたら大丈夫だと思うんですけど・・・。」


 イトマキは言語野サルベージの件から行動が消極的になっていた。確かにあれほど会議で叩かれれば滅入るのは仕方がないだろう。

 イトマキはしばらく考えた後、眉間にしわを寄せながら苦悶していた。


 「・・・クビ覚悟で、真駒先生と直接お話ししてみます。」


 そのイトマキの切羽詰まった言葉に、岩見と豊平は動揺した。


 「待て待て、他になんかいい案あるんじゃねぇのか?ほらよー誰か真駒先生の秘密握ってるとかさ・・・。」


 岩見はあたふたしながらなんとか知恵を出そうと口を動かした。


 「あ・・・秘密じゃないんですけど・・・。」


 イトマキは岩見の言葉にふとあることを思い出した。


 「もしかしたら切り札にはなるかもしれません。これもクビ覚悟ですけど。」


 イトマキは乾いた笑いをしながら、自分のタブレット端末のメモ帳に何やらメモを書き、他の人が見聞きしないよう用心しながら、メモの内容を岩見と豊平に見せた。


 「なるほど。イトマキ、お前、いいもんもってんなぁ。こんな爆弾もってんならもっと早くに言えよ。」


 イトマキのメモを見て、岩見は無邪気に嬉しそうにしていた。

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