業火の森
森と名の付く地帯なのに、目の前は真っ赤に燃え盛っている。
木々に火がついて燃えているのではなくて、このエリアの森の木自体が炎を出して燃えている。
ひどく熱くて焦げてしまいそうだ。
俺はいつもの金属系の物理防御力の高い防具ではなく、物理防御力の低い骨防具を使っている。
もしいつもの金属防具なら、今頃焼けた鉄板を体に当てた状態になってとんでもないことになっていただろう。
それでも熱の影響を比較的受けにくいこの骨製の防具でも汗がだらだらと止まらず、暑さで息も苦しい。
涼し気な顔をしながら前を歩くメリッサとリータの後を、俺は暑さにうだりながら着いて行くのが精一杯だった。途中でちらりと俺の方を振り向いては嬉しそうに笑うリータを見て殺気が湧いてくる。
修道僧クラスのメリッサ、闇の補助魔法系専門のゴルゴンクラスのリータは、基本魔法防御装備が多い。そのため、魔法防御力が込められた布系の防具になる。
この森の炎は魔法系なので、メリッサとリータにとってはそんなに熱く感じないのだろう。
前回の水エリアでのリータの無謀さを案じ、メリッサはしばらくリータに補助魔法クラスが得意とする狩場へ行くことを薦めた。
「もちろん、ジオサイドくんも一緒に来るよね?」
メリッサはいつものように優しく微笑む。しかしこの時の俺は、前衛クラスが火エリアを苦手としているのをわかっててわざと誘っているようにしか思えなかった。
俺はもちろん苦笑いしながら着いて行くと答えた。
―リータはともかく、なんでメリッサまで俺を目の敵みたいにしてんだよ。
この森の中で背中に金属製の剣を背負っていると背中が火傷するので、俺は剣は持ちながら歩いていた。だがいつの間にか暑さで体力を消耗して剣を引きずりながら歩き、だんだんと剣自体も熱くて握ってられないし、体力を消耗しているせいで剣がひどく重たく感じる。
この森の炎が魔法系ということもあって、ここのMOBは物理よりも魔法に弱い。このエリアに一番向いているのは魔法攻撃ができる修道僧クラスが向いている。
闇の補助魔法系のゴルゴンクラスは、補助魔法という言葉の通り、MOBを足止めしたり撹乱したりするのを得意としている。だが修道僧クラスのように魔法を自由自在に使える訳でもなく、かと言ってヘラクレスナイトのような攻撃クラスに比べて攻撃力も弱い。しかし、補助魔法系クラスの利点は、どんな武器も使えることだ。つまり、杖も剣も弓も使える。その点で言えば、俺とリータのどちらがこの火エリアに向いてるかといえば、おそらくリータの方だろう。
今日はリータは剣ではなくクォーツ(魔法系の石)で出来た弓を持ってきている。そして、リータは弓で遠距離から、メリッサは水系の魔法、そして俺は剣でMOBを狩っていく。
リータとメリッサは何も感じていないようだが、メリッサの水系の魔法でMOBが消滅する時にものすごく熱い蒸気が発生する。
リータとメリッサは魔法防御が高いからいいものの、俺は灼熱の森の中でさらに熱い蒸気を浴びて、まるで砂漠のなかでサウナに入ってるような拷問気分を味わっている。
かといってメリッサに氷系の魔法にしてといったとしても、結局氷はもともと水なので、最後はどちらにしても熱い蒸気が発生する。
俺はグダグダで暑さで朦朧としながらMOBをなぎ払う。そしてなぎ払ってすぐに剣を地面に突き刺して手をパタパタとさせて熱を持った剣を離した。
「そんなに武器放おって大丈夫なのー?」
余裕の表情でリータが俺を見る。
「ジオサイドくん、無理してついてこなくてもよかったのに・・・。」
メリッサは心配そうに俺を気遣っているが、誘ってきたのはもとはと言えばメリッサのほうだ。こうなるのはわかっててどうして俺を誘ったのか全く理解できない。
ーなんか俺、メリッサを怒らせるようなことした?!
俺はこの火エリアに着いてきたのを後悔しながら、女心の難しさに苦悩した。
リータとメリッサ、女二人は体力の消耗もなく、楽々とMOBを狩っていく。俺は二人の側には極力近づいて熱い蒸気を浴びないように離れた場所から汗だくになりながら悪戦苦闘していた。
その時、この火エリアのボスが現れた。炎をまとった大木の姿をしたボスと、そのボスの取り巻きの炎をまとった木の姿をしたMOBが2本の計3匹だ。
俺が熱を帯びた剣を握ろうとした時、メリッサの背中から言いようもない冷たい空気が漂っているのを感じた。
灼熱の中にいるのに、なぜか汗が冷たく感じる。
ボスたちがメリッサににじり寄って来て、メリッサも後退する。しかし、そのメリッサの目はギラギラと闘志を燃やし、近くにいる俺ですら鳥肌が立つような殺気を感じた。
ーこれが・・・メリッサなのか?
俺が動揺していると、リータも同じように動揺しているようだった。
いつもどこの狩場でも穏やかさを崩さないメリッサが、今日に限ってひどく怖く感じる。
まるで獲物を見つけた空腹の野生の獣のような、歓喜に似た殺気を感じる。殺したくて、殺したくてたまらなく嬉しそうなメリッサの姿が怖い。
しかし、次の瞬間、メリッサは俺とリータの手を握ってテレポートした。
気がつけばアジトの前だった。俺はようやく灼熱地獄から開放されて、その場に崩れ落ちた。いつも快適に感じていた町の空気が、今日に限ってはとても涼しく感じる。
「あそこのボスは倒すのが大変だから、あなた達はここで待ってて!」
そう言うやいなや、メリッサは先程の狩りで得たアイテムや通貨を置いてまたテレポートしてしまった。
メリッサのボス狩りを手伝いたいのは山々だが、金属装備の前衛クラスが行っても足手まといになるだけなので、俺は仕方なくリータと一緒にメリッサが帰ってくるのを待つことにした。
ー怖かったけど、あんなに楽しそうにしてるメリッサ見たの、初めてだなぁ・・・。
俺はどんな風にメリッサがボスと戦うのだろうと想像を巡らすことしかできなかった。
本当は火山にしようかと思ったのですが、自分が遊んでいるMMORPGのまんまになりそうなので、東京スカパラダイスオーケストラの「美しく燃える森」から発想を得て、木自体が燃えている森という火エリアを思いつきました。
実際に木自体が燃えてるエリアなんて本当に地獄としか思えない・・・。
ところで、この森のボス1体と中ボス2体、一体なんなんでしょうね?何かの、誰かの例え?




