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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/猫

 岩見達は拾ったUSBを持ってイトマキの診療室を訪れた。


 「お仕事終わりに悪いなぁ。」


 岩見は悪びれた様子もなく、近くから折りたたみの椅子を持ってきて組み立てた。豊平が患者用の椅子に座ろうとすると、岩見は豊平の白衣の襟を掴んで折りたたみ椅子に座らせ、自分は患者用の椅子に座った。


 「岩見先生・・・いいんですか?」


 イトマキは目を丸くして驚いている。


 「あ?何がだ?俺はお前みたいな自分のトラウマも治せないようなヘボな医者にかかりたかねーよ。それになんで俺が診療されるんだ?」


 岩見は怪訝そうにイトマキを見る。イトマキは動揺しながら苦笑いをする。


 「本当は今日は豊平先生のご予定だったんですけど、どうしてお二人で?」


 そう尋ねるイトマキに、岩見は今までの経緯を伝えた。


 「そういうことで、このUSBの中身が見たいんだ。豊平の純情を踏みにじった女の鼻をへし折ってやらなきゃ気が済まん!」


 そう鼻息荒くまくし立てる岩見に、イトマキは片手で顔を抑えながらため息をついた。


 「そのUSBのことなんですけど、私も稲村さんからくれぐれも見ないでくださいって言われてるんです・・・。」

 「なんでだ?」

 「なんでって言われても・・・個人情報ですから・・・。」


 そう言って気まずそうにイトマキは豊平をちらりと盗み見た。豊平もあまりUSBの中身について見たいと思っていないようだ。


 「とにかく、私は反対です。」


 イトマキは強い口調で岩見に言った。岩見は一瞬面食らったが、それでも引き下がろうとしなかった。


 「USBは個人情報だな。だが、医者同士で患者のカルテの共有は当たり前だよなぁ。それに俺たちのプロジェクトチームに関わることなら尚更じゃねぇの?個人プレーはいけないと思いますよー。」


 岩見は机に片腕を乗せて斜に構えてイトマキを脅す。落ち込んで下を向く豊平をちらちらとイトマキは見ながら思案した。

 やがて決心し、イトマキは答えた。


 「稲村さんはそのUSBの情報で命を狙われていたようです。ですので、絶対に見ない方がいいと思います。」

 「ははーん、なるほどねぇ。それで、ブレーキアシストを解除した改造車にひき逃げされたってわけか。」


 本来、車にはブレーキアシストと呼ばれる人を感知してぶつからないようにする機能が法律上標準装備されているのだが、稲村はブレーキアシストが解除された改造車にひき逃げされ、京帝大学病院に運ばれたのが事のきっかけだった。


 「い、岩見先生にも、大切な奥さんやその・・・大切な娘さんが、いるでしょ?」


 イトマキはなぜか言いよどみながらも岩見にUSBを見るのを諦めてもらえるよう説得をする。


 「・・・確かにな。俺には守るべき家族がいる。でもよー、豊平がこれをずーっと持ってて今まで何もなかったわけだから、もう大丈夫なんじゃねーの?」


 そう岩見に言われて、今更ながらイトマキは岩見の説に思わず納得した。


 「なぁ・・・何が入ってるのか気にならねーか?」


 岩見は机に顎を乗せ、ニヤニヤしながらイトマキを上目づかいで見つめる。


 「でも・・・。」

 「ああ、そうか。じゃあ独身貴族の豊平先生に頼むか。」


 そういって岩見は上半身を起こして椅子の背もたれに体を預けて両手を頭の後ろで組みながら、豊平のほうに向かった。

 そう言われた豊平はまたおいおいと泣き始めて勝手に今日の出来事を話し始めた。


 「稲村さんに不釣合いだって言われてショックでしたけど、やっぱりそれでも僕にはできません!」


 イトマキは豊平にテッシュ箱とゴミ箱を差し出した。豊平はティシュで音が鳴るほど鼻をかみ、ゴミ箱を抱えてるように俯いて泣いている。


 「なっ。米子ちゃんはこんなに酷い女なんだぞ?同じ女としてお前は許せるかぁ?」


 岩見はイトマキを挑発する。しかし、イトマキはその挑発に乗るどころかこめかみに指を当てて思案している。


 「岩見先生、ちょっと話があります。」


 イトマキは意を決して席を立ち、岩見を見下ろした。イトマキの並々ならぬ様子に、岩見は気圧されて、診療室を出るイトマキの後を岩見は慌てて追った。

 豊平がひとり診察室で泣き続ける間、廊下に出たイトマキは、ついてきた岩見に稲村の真意についてかい摘んでプライバシーを守りながら話した。


 「全ては、豊平先生を守るためです。」

 「なるほど・・・。要はものの見方ってわけか。」

 「まだ、豊平先生には本当の事を伝えるまで時間が欲しいと稲村さんから言われていたので・・・。」


 岩見の怒りは沈静化し、廊下の手すりに捕まってがっくりと肩を落とした。


 「はぁー・・・俺はバカだなぁ。暴走特急なのは俺だな。あとでスティーブン・セガールに土下座して謝ろう。」

 「私には五体投地って言ったのにですか?!」

 「それはそれ、これはこれだ。でもなー・・・、気になるよなぁ・・・。」


 岩見はそれでもUSBへの未練が捨てられないようだった。


 「なぁ・・・豊平がこれをずっと持ってて何もなかったんだからさ、ちょっとくらい見てもいいんじゃね?」


 真相を伝えても反省をしない岩見に、イトマキは呆れてため息をついた。


 「本当に、どうなっても知りませんよ?それにこれ以上奥さんーーーーーーーーーーーー?」


 そう言った後、イトマキははっとして口をつぐんだ。冷たい汗が背中を伝う。


 「ん?なんか言ったか?」


 岩見は不思議そうにイトマキを見ている。一瞬岩見の目の焦点がブレて、それからいつものようにしっかりと焦点が戻っていた。


 「いえ・・・なんでもないです。」


 イトマキは岩見に対して打つ手が無くなり、ほとほと困り果てた。


 「とりあえず、豊平先生には見せないってことでいいですか?」

 「それが無難かなー?」


 岩見は危機感すら感じておらず、ようやくイトマキがUSBの中身を見ることに納得してくれたことに喜んでいた。


 「ところでどうして私なんですか?」


 イトマキはなぜ自分のところにわざわざ岩見が来たのかわからなかった。


 「ああ、ちょうどイトマキから豊平に電話があったから、お前の持ってきてるPCで見ようと思って。俺、そんなもん持ち歩いてないし。」


 岩見は少年のようにワクワクしながらイトマキに言った。

 イトマキは肩を落として大きなため息をついた。


 二人が診察室へ戻ると、豊平が白く燃え尽きたように椅子に座って体を丸めていた。

 そこへ、豊平の背中に岩見の平手が飛ぶ。平手の痛みで豊平は椅子から飛び跳ねるかのように背筋を伸ばした。


 「ドンマイドンマイ。泣きたいだけ泣いとけ。いつか時間が解決してくれるさ。」


 豊平にはただの失恋に対する平凡な慰めの言葉のように聞こえていたが、岩見は意味ありげにニヤニヤしていた。


 「ちょっととりあえず、豊平先生は後ろを向いてもらっていていいですか?」


 豊平は言われた通り、イトマキたちに背を向けた。

 イトマキは自分のPCを開き、USBを差し込む。


 「えーっと・・・どうやって開くんですか?」

 「は?今のゆとりはそんなことも知らんのか?」


 岩見はイトマキのPCを半ば奪うように自分の側へ持っていき、USBを読み込んでいるハードウェアの場所を見つけてイトマキに返した。


 「ほら、あとは普通に開きゃいいんだよ。それからUSB外す時は気をつけろよ。外し方はだな・・・。」


 岩見とイトマキの会話を背後で聞きながら、豊平はウズウズしていた。

 イトマキがUSBに格納されたフォルダを開こうとしたが、どうやらパスワードがかかっているようだった。


 「あーくそっ、なんだそりゃ!」


 あと一歩のところでフォルダの中身が見れないことに、岩見は自分の頭を両手でぐしゃぐしゃと掻いた。

 

 「今更パスワード聞くわけにもいかねぇしなぁ・・・。」


 思い悩む岩見をよそに、イトマキは躊躇なくパスワードを入力する。すると、フォルダはあっけなく開いた。


 「え?なんで知ってんの?」


 あまりにあっけなくパスワードを破ったイトマキを見て、岩見は呆然としていた。イトマキは無言でニヤニヤしながら豊平を指さした。

 イトマキと岩見はしばし微笑ましい笑いを止めるのに必死だった。


 「いやいや、お腹いっぱいだ、ごちそうさま。」


 岩見は、ひとり真相を知らない豊平を横目で見ながら言った。


 「さてさて、御開帳〜。」


 イトマキがフォルダをクリックするのと合わせて岩見が音頭を取る。

 フォルダの中身が開かれ、一斉に画像が現れた。

 イトマキと岩見は、その画像を見て呆然とした。


 「猫・・・?」


 画像は全て稲村の実家のものと思しき猫ばかりが写っていた。

 


 


 

今回このパートはちょっと長くなりそうなので、次回も43/パートが続きます。

RPGパートは次の次に復活しますので、それまで申し訳ありませんがお待ちください・・・。


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