或る刑事の旅
刑事はとにかく足で稼ぐ。
それをモット―に、男は旅を始める。
途中、男を追う輩が現れるが、昔とった杵柄でどんな異形の者もバッタバッタと倒していった。
「俺はまだやることがあるんだ!悪いが邪魔しないでくれ!」
男は倒れて気を失った追手たちにいつもそう言った。
やがて男が追手にうんざりした頃、追手たちも男を捕まえるのは諦め、男がこちらに来るまで待つしかないと決め込むのだった。
男は日本、中国、アフリカ、インドと様々な世界を自分の足で歩き、自分を刺した者の正体を探していた。
不幸な事に男は似顔絵以前に絵を書くのが苦手だったために、質問する相手には身振り手振りで聞くしか他ならなかった。
男は行く宛もなく、ただがむしゃらに歩き続けた。そして少しずつではあるが、刺した真犯人と日本が少なからず関わっていることが分かり、慌てて日本に戻った。
そんな折、どこかから少女の泣く声が聞こえた。
男はその場所まで駆けていった。
そこには、紺色のキリスト系の修道着を着た女と、ブレザーを着た女子高生が居た。どうやら修道着を着た女に女子高生がいじめられているようだった。
男はたまらず喧嘩の仲裁に入ろうと向かうが、きれいに磨かれたガラス窓に顔をぶつけたような衝撃が走る。男は潰れた鼻柱をさすりながら、涙目になりつつ目の前の不思議な遮蔽物を探る。
そこで、これがマジックミラーと同じ構造をしていることに気がついた。道理で修道着の女は背後の男に気が付かない訳である。
ということはどこかに出入り口があるはずだと、マジックミラーのような場所の近くの暗闇を探るが見つかる気配がない。
男は一か八かで目の前のマジックミラーを体当たりで壊そうと決意した。
マジックミラーから距離を置き、助走をつけて激しく体当たりをする。しかし、マジックミラーは男の巨躯にもびくともしなかった。
その間も少女は修道着の女にいじめられている。
「おい!こらっ!やめんかぁー!」
男ががむしゃらにマジックミラーを叩いたその瞬間、右手に感覚がなくなった。気づくとマジックミラーの中に自分の手が吸い込まれていた。
男はとっさに少女を掴んだ。そしてそのまま少女はあっけなくマジックミラーのこちら側に吸い込まれた。
男は修道着の女が追ってこないようにすぐさま少女を上に向かって投げ飛ばした。少女は吸い込まれるように小さな光に向かって上昇していった。
少女が登っていくのを確認すると、男は不本意ながら、修道着を着た女と対峙する決意をする。
―できりゃあ、女子供に暴力は振るいたかないが・・・。
しかし、ふと気づけば先ほどの修道着の女も、マジックミラーも跡形もなく消えて、ただの真っ黒な壁になっていた。
先ほどのようにがむしゃらに叩いてみるが、何も変わらなかったし、修道着の女の現れなかった。
男はほっとしながらも、もう少し時間があればあの少女から何かヒントがもらえたかもしれないという残念さが残った。
しばらくがに股で歩きながら先ほどのマジックミラーの中のことを考えながら、修道着の女の事が気になった。
―キリスト系の修道着・・・。
「あそこには何度も行ったけど、門前払いされたんだよなぁ・・・。なんかいい方法がないもんか・・・。」
男は太く短い指で頭をぼりぼりを掻き、手帳を開いた。
開いたページには「バチカン」という文字の上に二重線が引かれ、その横に「バカチン」と殴り書きされていた。




