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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/合コン

 イトマキは休憩室で紙にプリントアウトした患者の脳波とずっとにらめっこしていた。

 そこへ、岩見と豊平が休憩室へやってきた。岩見はひと目のつかない所でまだ落ち込む豊平を慰めようとして休憩室へやってきたようだが、イトマキのいつもとは何が違う尋常じゃない雰囲気に、ふたりは思わず飲み込まれてしまった。それはまるで何か見てはいけないものを見ているような気がしていた。


 「あ、岩見先生、豊平先生!ちょうどよかった!」


 部屋が開く音に気がついて振り返ったイトマキは、いつものどこか呑気ないつもの調子に戻っていた。岩見と豊平は内心、いつものイトマキに戻ってくれてほっとしていた。

 岩見と豊平がローテーブルの上を見ると、プリントアウトされた脳波の紙がきれいに並べられ、ところどころいろいろイトマキの字が書き添えられていた。


 「獺祭だ。これじゃコーヒー置けねーよ。」


 岩見がわざとらしく皮肉を言うと、イトマキは苦笑いしながら謝ったが、一向に片付けようとはしなかった。


 「それで、僕らに何か?」


 豊平は岩見と共にイトマキの向かい側のソファーに腰掛けながら言った。


 「実はですね・・・。」


 イトマキは先程の紙を岩見と豊平の方へ向け、自分はソファーから立ち上がって岩見達の側にひざまずいた。


 「以前稲村さんの脳波の比較の時に使っていた患者さんたちの脳波で、1人だけ気になる脳波の患者さんを見つけたんです。」


 イトマキの言葉に豊平は一瞬どんよりと落ち込むが、岩見が肘で豊平を突いて正気に戻らせた。


 「これが他の患者さんたちの脳波で、これが私が気になってる患者さんの脳波です。」


 豊平は身を乗り出してイトマキが指差す患者の脳波をじっくりと眺めた。


 「確かに・・・他の患者さんと違いますね。」


 豊平は先程までの落ち込みが嘘のように、医師然とした面持ちで真剣に脳波を見入っていた。


 「おいおい、どういうことだよ、俺にも教えろよ。」


 ひとり取り残されて戸惑っている消化器外科の岩見は、豊平とイトマキが何に気がついたのかまったくわからなかった。


 「あ、すいません。実はこのイトマキ先生の気になってる患者さんと、他の患者さんとの脳波が違ってて」


 「それは分かったから何が違うのか教えろってことだよ。空気読め、空気!」


 岩見はひとり取り残されていじけていた。


 「これもあったほうがわかりやすいかもしれません。」


 そう言って、今度はイトマキがA4のタブレット端末を取り出して患者の面会記録を表示した。


 「このPUCS専用の病棟で、たとえば4301室の患者さんのところに面会の親御さんが来たら、4301室の他の無関係な患者さんだけじゃなく、4306室の患者さんまで、皆が知り合いでもないのに、まるでみんな知ってたとか、知らせたように一斉に脳波が興奮状態になっているんです。心理学で言うところの集合的無意識という感じでしょうか。そしてこの患者さんも同じく、他の患者さんに親御さんが面会に来ると興奮状態にはなるんです。」


 豊平も岩見も、面会時間や脳波を見てイトマキの説明に頷く。


 「ですが、この患者さん、最近脳波が変わってきてるんです。」


 そうイトマキは言いながら、とある患者の脳波と、患者の親の面会時間を指し示してみせた。


 「この患者さん、重度のPUCSなのに、最近親御さんが面会にきていると脳波がリラックスするんです。そして、周りの患者さんの脳波にも変化がないんです・・・。」


 「確かに誰か親が面会に来ればみんな一斉に興奮状態になる。だけどこいつの親の面会の時だけ、誰も気がついてないってことか?」


 岩見はイトマキの言葉に質問で返し、イトマキは確信を持った顔でニヤリと笑ってみせた。


 「それで、実はあることを考えているんです。」


 「あることって?」


 岩見と豊平は同時にイトマキに言った。


 「もしかして、この患者さんからなら、何か治療のヒントを得られそうな気がするんです。」


 そう言って今度はイトマキは稲村の脳波と、ある患者の脳波の紙だけを並べて見せた。


 「まぁ・・・確かに稲村さんと脳波が似てきてますが、それとどうヒントが絡んでくるんですか?」


 豊平は首をかしげながら二つの脳波を見比べる。


 「稲村さんは今現在目を覚まして治療中ですが、この現在PUCSの患者さんから他に治療の鍵になりそうなものが出てきそうな気がするんです。」


 イトマキの言葉に次第に熱が入る。


 「それで、どうやってそのヒントとか鍵を見つけんの?」


 岩見は白熱する豊平とイトマキをよそに、暇そうに足を組んで肘をついている。その岩見の言葉にイトマキの目が鋭く輝いた。


 「この患者さんの言語野のあたりに電極を流して見るんです。」


 「ふざけるな!」


 イトマキの言葉に、思わず岩見が言葉を荒げながら立ち上がる。


 「そんなヤバいことなんでやる必要がある?!第一、言語野だかなんだかに電極通してどうするつもりだ!」


 岩見はイトマキを見下ろしながら憤っていた。


 「僕も『サルベージ』は反対です・・・。」


 豊平も『サルベージ』と隠語で呼ばれる電極治療に反対している。

 

 渋る二人に、イトマキは自分なりの説を説明し始めた。


 「まず、日本医学会ではQOLの観点と治療法が確立されてない点から自然死・衰弱死を推奨しているだけで、サルベージを法的にも禁止しているわけではありません。」


 その言葉に岩見は悔しい反面、納得して再びソファーに腰掛けた。豊平も難しい顔をしている。


 「確かにな・・・。確かに禁止はされてない。やらないほうがいい、ってだけでみんなそれに従ってるだけだからな。」


 イトマキのサルベージに関する説明に、岩見はそっぽを向きながら応えた。


 「それで、言語野にサルベージってどういうことですか?」


 豊平が改めて本題をイトマキに問う。


 「全体的なサルベージは前例もあって危険は百も承知です。でも言語野だけでもサルベージして、無意識下から現在の患者さんの状態を本人から聞き出すことができるんじゃないか・・・と思っているんです。」


 「あれか、要は患者をラジオ化するってことか?」


 岩見はあまりにも非現実的な手法に呆れてイトマキの案を茶化した。


 「全体的なサルベージが当たり前と思っていましたが、確かに言語野に向けてサルベージを試した例はまだ発表されてないですね・・・。」


 岩見の反応に反して、豊平は医師としてイトマキの案に思わず魅入られていた。


 「おいおい、豊平、お前までマジでそんなこと考えてんの?第一、親が承諾しても、あの頭の固い連中がそんなのすんなり通してくれる訳ないだろ?」


 岩見は豊平を肘で小突き、呆れながら言っていた。その時、おずおすとイトマキが話し始めた。


 「そこでですね・・・お二人のお力を貸していただければと思いまして・・・。」


 「おいおい、俺は外科だからそんなの関係ねーぞ。関係あんのは豊平だけじゃねーか。」


 岩見は自分だけ責任から逃れようと必死で断る理由を述べる。


 「あ、そうだ!」


 急にイトマキが思いだしたかのように柏手を打ち、岩見と豊平は思わずイトマキを目を丸くして見た。


 「私の自衛隊病院時代のお友達が、ぜひ先生たちと合コンしたいって言ってるんですよ。」


 イトマキが声を弾ませながら言った。岩見と豊平は思わず『合コン』という言葉に鼻の下を伸ばした。


 「いや、俺には嫁も、愛する可愛い娘も居るけど、イトマキがどうしてもって頼むのならなぁ・・・。」

 「岩見先生、不倫はいけませんよ!僕がちゃんと見張りに行きますから。」

 「なんだとお前!お前には米子って女がいながら!」


 岩見と豊平は、なじりあい、お互いに肘で小突きあいながらも、顔はまんざらでもないといった表情をしている。その二人を見ながらイトマキはニコニコと笑っている。


 「もちろん合コン相手は現役自衛官の男の人ですよ。」


 声を弾ませ、平然と危険な発言をしたイトマキに、岩見と豊平の血の気が一気に引いた。


 「あれか・・・、つまり、お前の言うこと聞かなかったら野郎同士で合コン・・・ってことか・・・?」


 岩見の顔が真っ青になり、隣に居る豊平は既にブルブルと恐怖で震えている。

 イトマキは岩見の問いには答えず、無言で笑みを絶やさなかった。

 岩見と豊平は沈鬱な表情で、がっくりと肩を落とした。


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