タルタロス1階
あれから結局マユは見つからなかった。メリッサもいろいろな人に頼んで探してくれていたけれども、マユは切断かログアウトしたのではないかという結論になった。
俺は戻ってこないペンデュラムとマユを思いながら、MOBを倒し、時にはパーティーを組んでボスを倒したり、いつもの日常を取り戻し始めた。
リータとはあれ以来気まずくなって一緒に狩りをすることもなくなり、リータはリータで同じLv帯のやつらとパーティーハントをしているらしい。
俺はふとアイテムの中からタルタロス1階の鍵を取り出した。結局、みんなで一緒に行く機会がなくなってしまい、ただ呆然と眺めるだけの鍵になってしまった。
俺はもうヤケになって単独タルタロス1階へ行くことへ決めた。
鍵を強く握り締める。指の間から光が溢れ、俺を光で包み込み、タルタロスへと連れて行ってくれる。
鍵の眩しさから細めていた目を開くと、ほの暗い迷路のような巨大な部屋に立っていた。建物の隙間から木漏れ日が差している。
普段ボス狩りをする時は、体が熱くなり、全身の汗が一瞬で蒸発するような、そんなヤバいテンションなのに、なぜかこの部屋は不思議と俺の心が落ち着いていた。
雑魚MOBもノンアクティブのものがちょろちょろと俺の足元を過ぎて行くだけだった。
俺はいつもと違ってのんびりしながら心地良い日差しの差す迷路をぶらぶらと歩いていた。
迷路の角をあてどなく曲がっていると、遠くにこの部屋のボスを見つけた。
ブロンズゴーレムというボスで、体がブロンズでできていて、耳や目や腕が沢山ついている。
タルタロスが初めてなパーティーにとっては、いろいろな意味でとてもやりがいのあるボスだ。
ブロンズゴーレムには沢山の耳と目があるから、全方向を見渡すことができる。そして何本もの腕で周りの連中をなぎ倒していく。この場合は足止めをして前方から一気に倒すのが初歩の初歩。そしてLvの高い上級者になればひとりでサクっと狩れる。
俺の場合はまだサクっと狩れるほとではないが、回復薬を多めに持って、防具も物理防御専用のもの重視で戦えば狩りごたえのあるボスではある。
しかし、それにしてもあのブロンズゴーレムは俺が同じ通路に居るのに、何かを探しているようにさまよっている。
「あれ?アクティブじゃなかったっけ?」
そんな独り言をつぶやいて、俺はブロンズゴーレムをしげしげと観察した。
ふと、なんとなく何かに似ていた。
―いつも隠し事をしていても見つける目と耳。沢山の事を独りでこなす手・・・。
思い出せないけど、なんだか懐かしくて切なくて、思わず胸をかきむしりそうになる。
俺が呆然と立っていると、ブロンズゴーレムも気がついたのか、俺の方へゆっくりとやってきた。
いつもならテンション上がってこっちから倒しにかかりに行くのに、今日の俺はなぜかブロンズゴーレムがこちらに来て欲しくてずっと動けなかった。
やがて、俺と同じくらいの背丈のブロンズゴーレムが俺の数歩手前で立ち止まった。
―あれ?こんなに小さかったけ?
その時、頭の中に一瞬何かがよぎる。
「か」
そう言いかけた時、俺の横を誰かが素早く走りぬけ、ブロンズゴーレムの前に立ちはだかっていた。
俺の前に立っているのはメリッサだった。メリッサは杖を両手で構え、上段から袈裟斬りのように杖で殴ってブロンズゴーレムを一瞬で粉砕した。
ブロンズゴーレムは、壊れて薄っすらと消えながら、笑ったようにまぶたを閉じて消えてしまった。
「大丈夫?怪我しなかった?」
メリッサが振り返り、心配そうに俺の顔を覗きこむ。
「うん、大丈夫。ちょっとラグかっただけ。」
俺はとっさにメリッサに嘘をついてしまった。
「もう、ジオサイドくんったら危ないんだから!」
そう言ってメリッサが俺の前に近づいて、その小さくて華奢な手で拳を作って俺の額を小突いた。俺は痛い痛いと大げさに騒いだ。
「ねぇ、ジオサイドくん、たまには一緒にギルドの勧誘しにいかない?」
いつもの野原の小さな花がそよぐような優しい笑顔でメリッサは俺に言う。俺は狩りに飽きたからとついていくことにした。
メリッサが嬉しそうにして無邪気に手を差し出したので、俺もメリッサと手を繋いだ。転送魔法で初心者狩場の方へ向かうのだろう。
なぜだか繋いだメリッサの手が心なしか冷たかった。
メリッサさんは魔法使い系なのに意外に前衛派?
メリッサさん魔法使いなのに、杖で倒したり殴ったり肉体派な感じのばっかですいません・・・。




