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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
18/86

マユ

すいません。かなりの鬼畜回になってしまいました。

苦手な方は読まないことをオススメします。

 出口を探し続けるマユは誰かに左肩を掴まれた。

 驚いて振り向くと、そこにはにこやかに小首をかしげるメリッサの姿があった。


 「マユちゃん、どうしたの?」


 メリッサの口調はいつものように優しいが、マユにとってはその優しさが今日は酷く恐ろしかった。背筋に冷たいものが伝う。

 マユは固唾を飲み、しばらく強く目をつぶると、その目を開けて決心する。


 「メリッサさん、宿屋でふたりきりでお話しませんか?」


 「ええ、構わないわよ。」


 そう言ってメリッサは微笑んだが、目の奥は笑っていなかった。


 やがてふたりは宿屋へ入った。マユが先に入り、メリッサが後を追うように部屋へ入った。

 メリッサがドアを閉めると一瞬で暗闇に包まれた。そしてメリッサが指を鳴らすと部屋に明かりが灯る。

 マユは暗闇から灯りに慣れるまで目をしかめていた。やがて目も慣れ、マユは改めてメリッサを見る。

 メリッサの着ている紺色の修道着が、薄暗い灯りのせいで真っ黒に見える。そして一瞬、メリッサの修道着の胸元に描かれた白地の目のマークが一瞬瞬きしたように見えた。


 「?!」


 マユは驚きのあまり声にならない声で後退っり、壁にぶつかった。


 「どうしたの?そんなに怖がらなくていいのよ?」


 薄暗い闇の中からマユに向かってメリッサがゆっくりと歩み寄ってくる。修道着の目の中の白い瞳が徐々にまばゆく光り始める。

 マユはその光景に怯え、目をきつくつぶってメリッサから顔を逸らした。


 メリッサはマユの一歩手前で止まり、その細く華奢な両手で優しくマユの顔を包み込む。メリッサのその手の優しさに飲み込まれそうになったマユは、とっさにメリッサを力強く突き放した。

 メリッサは驚いて後退っさ。


 「これ以上近づかないで!」


 マユは自分の持っている弓を持ち、矢を構えて弦を力いっぱい引いた。緊張しているせいか、肩に力が入って弓を引きすぎてるせいか、マユの腕は小刻みに震えている。


 突き放されたメリッサは一瞬マユをにらみ付けようとしたが、またいつもの穏やかな顔を保った。


 「どうやったらここから出られるの?教えて頂戴。さもないと殺すわよ。」


 マユはその幼い見た目のアバターに似合わないような強い口調でメリッサに問うた。


 「大丈夫、そう慌てないで。ちゃんと出してあげるわ。その前にゆっくりお話しましょう。」


 マユはそのメリッサの優しい声音に騙されないよう一層弦を引く力を込める。マユの額に汗が伝う。

 こんな一見見た目の優しそうなタイプの人間ほど危ないことをマユはいつのころかようやく思い出した。そしておぼろげながら、言葉には出来ないが、ここは自分の居る場所ではないし、居てはいけない場所だと気がついた。ただなぜそうなのか説明ができず、『帰りたい』としか言えない自分にもどかしさを感じていた。

 なぜ記憶が、言葉が制限されているのか。今この思いを言葉にしてもはたして声にできるのかマユは心配だった。


 「ど、どうして、ここはおかしいの?」


 苦しみながらようやく喉の奥からマユは言葉を絞り出した。その瞬間、マユの弓はメリッサが持っていた杖で弾かれる。そして間髪入れず、マユのみぞおちめがけてメリッサが杖を突いた。

 杖の先は見事にマユのみぞおちを捉え、そのまま壁へと押し付けた。潰されたような哀れなカエルのようなうめき声がマユの口から発せられる。マユが痛みで倒れそうになった瞬間、起き上がらせるようにメリッサがマユの首を片手で掴んで立ち上がらせる。

 マユは腹部の痛みでよだれと涙を大量に流している。マユはメリッサの手を離そうと両手で掴んで何度も全力でもがくが、メリッサの片手はびくともしなかった。


 「あはははははははは!無様で愉快ねぇ!」


 メリッサはマユに見せたこともないような狡猾な笑みを浮かべ、マユがもがく様を愉快に笑っている。マユは軽く首を締められているせいか、押しつぶされるような喘ぎ声しかだせなかった。


 「みんな眠らなくていい。みんなお腹が空かない。ログアウトできないことを誰も不思議に思わない。本当におかしいわよね?」


 マユが疑問に思っていたことをメリッサが答える。そして、マユの耳元に顔を近づけ、そっと囁く。


 「だって、ここは『私たちの世界』ですもの。」


 その言葉にマユの背中が総毛立った。体全体が恐怖で震える。

 マユの怯える顔を見ようと、メリッサはまたマユの正面に顔を戻した。


 「だけど、あなたは『偶然』、この世界に来てしまった。そしてこの世界のことにも気がついたんでしょ?」


 小首をかしげてメリッサが微笑みながら優しく言う。

 マユはパニックに陥ってメリッサの手から逃れようと泣きながら激しく暴れるが、メリッサはもう片方の拳を使って渾身の力でマユのみぞおちを殴る。マユは声も出せず、白目を剥いた。気を失い、体から力が抜けて崩れ落ちる前に、メリッサは間髪入れずマユの頬を平手で叩き、軽い回復魔法で正気に戻らせた。そしてマユの首から手を離す。

 マユは崩れおち、四つん這いになって何度も嗚咽をもらしながら激しく呼吸を繰り返した。


 「どうして・・・どうして・・・私はこんな格好でここにいるの・・・?」


 マユは顔を上げる気力もなく、床に向かいながら嗚咽混じりに尋ねた。

 すると、メリッサはしゃがみこみ、マユの髪の毛を無理やり掴みあげ、マユの顔を無理やり上げさせた。マユは痛みで顔を歪ませ、涙とよだれでぐしゃぐしゃになっている。


 「あなたが居る理由なんて教えてあげないわ。ただ、あなたがかわいそうな人だから、穢れのない清らかな『繭』の頃の姿にしてあげたの。」


 メリッサのその言葉に、マユは震えながら目を見開く。


―穢れのない、清らかな・・・


 その言葉にマユは大粒の涙を流した。ひどくマユの心が痛んだ。


 「それとも、穢れた頃の方が良かったかしら?」


 メリッサがそう言って掴んでいたマユの髪を離して立ち上がった。

 マユは床を見る。その床についた腕は懐かしい高校生時代のブレザーを着ている。マユは恐る恐る立ち上がり、自分の顔を撫で、髪を撫で、着ている服を見た。

 紛れもなく、女子高生時代に着ていたものだった。

 そしてマユはあることに気がつく。

 マユの着ているスクールスカートの太ももから血が伝いながら流れ、血と混じった白い粘液が股から床へ滴り落ちる。

 マユはその光景を一瞬理解できなかったが、頭の中に走馬灯のようにその時の記憶が次々と現れる。


―お母さんにこれ以上迷惑かけたくない、内申書、担任の男の先生・・・


 「痛い、痛い、怖い!お願いやめてぇー!」


 マユは悲痛な叫び声を上げ、泣きながらその場に崩れ落ちた。


 「自分の純潔を汚い大人に捧げて、いい大学に推薦で入って、いい会社に就職できたのよね?自分の純潔を汚い大人に売った時の気持ちはどうだった?」


 メリッサのその言葉に、担任の男性教諭に自分の純潔を売った思い出が肉体に宿る。

 個人指導室で男性教諭と取引し、推薦入試と引き換えに男性教諭の体の下で自分の純潔を売った。

 その時の痛み、苦しみ、恐ろしさ、その全てがマユの心をズタズタに切り裂き、まるで身を切り裂かれるような思いに落ち入り、マユは泣きながら10代の頃の艶やかな黒髪を泣きながらかきむしった。

 泣きながら崩れ落ちるマユの前にメリッサはしゃがみ込み、その華奢な両手でマユの頬を優しく包み込む。しかしその優しい手とは裏腹に残酷な記憶ばかりがマユの中に蘇る。


 「それからも大学の教授や取材相手に体を売って、子供まで堕ろしたのね・・・。あなたは本当に最低で最悪な穢れた大人だわ。」


 マユは真剣に語るメリッサを、ただ小鳥のように震えて目を見開きながら見つめていた。全て隠したい事実だった。全て自分が選んだ道だった。

 それが例え間違っていたとしても、マユは自分の行為を否定しなかった。

 しかし、メリッサは穢れを知らない清らかな瞳で、マユが隠して忘れようと努めていた恥部をすべてマユの前でさらけ出して見せた。


 「あ、ああ、ああああ・・・。」


 マユはまるで壊れた音楽プレーヤーのように言葉を失い、絞りだすようなうめき声をあげている。


 「本当はこの世界にあなたのような汚い大人を入れたくなかったんだけど、私にも事情があるの。でもやっぱり私は許せないわ。」


 メリッサの美しく清らかな瞳がマユを捉える。マユはメリッサの瞳から目を逸らすことができなくなった。


 「ここの記憶を消してあげるついでに、あなたの脳みそをいじくって一生穢れなくてもいい体にしてあげようかしら?それとも自分の今までやってきた汚いことを延々喋り続けながら狂っていく姿を、あなたの好きな人に見せてあげようかしら?」


 メリッサは恍惚とした顔で嬉しそうにマユに問いかける。マユは恐怖で血の気が引き、もう何も言えず、抗うことすらできなかった。

 メリッサの修道着の白い目が輝き出す。メリッサの手も呼応して輝きだし、その手をマユの頬から頭へ移そうとしたその時だった。

 

 壁から急にスーツの厳つい腕が現れ、ゴツゴツした手がマユの制服の襟を捕まえてそのまま壁の中へ引きずり込んだ。

 マユもメリッサもあまりにも急な出来事に身動き一つできなかった。

 メリッサはひとり宿の部屋に取り残された。


 マユは壁の奥の真っ暗な世界に引きこまれ、その厳つい手はマユを放り投げる。マユは訳も分からず、自分をこの暗闇に引きずり込んだ主のことを確認する間もなく、いつの間にか光の差す方へ向かっていた。

 

 やがて彼女は静かに目を覚ました。


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