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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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43/イレギュラー

 稲村米子の様態の特徴に気がついた豊平の同期の医師は資料を集め、上司を説得した。

 そして今、豊平の同期の医師とその上司がPUCSプロジェクトの会議室で資料を広げながらプロジェクトメンバー達と交渉している。

 交渉の内容は、PUCSの年齢帯からは外れているが、特例イレギュラーとしてPUCSで診て欲しいというものだった。

 稲村米子の資料を見ながら、PUCSプロジェクトのメンバーたちは一様に考え込んでいた。

 おそらく豊平が一番意見を述べたいところだろうが、岩見は私情を挟むなとあらかじめ豊平に釘を指していた。そのため、豊平はひどくもどかしい思いをしていた。


 一連の資料の説明を終えた後、豊平の同期の上司がプロジェクトメンバーの消化器外科・内科・神経内科・精神科のそれぞれの部長に意見を求めた。

 PUCSのプロジェクトメンバー達は一様に


 「病床数に問題はないが、ひとりのために患者の家族全員にどう説明するのか。」


 という意見だった。

 しかしただ1人だけ違う意見を述べる者がいた。それは精神科の島松だった。そうはいっても大したことではなく、資料の説明中に器用に居眠りしていたため、意見を求められた時にとっさに


 「そうですね、伊東君はどう思うかね?」


 とイトマキに話題を振って切り抜けて見せた。さすがのたぬき爺ぶりに岩見は呆れ返っていた。

 そして急に話題を振られたイトマキは会議室の全員の注目を浴びることとなる。


 「えっと・・・・。」


 急に島松から話題を振られたことと、会議室の視線にイトマキは動揺していた。だがすぐに目をキリリとさせると、会議室のプロジェクターに映された米子とその他数名のPUCS患者の資料の前に立ち、自身の意見を述べ始めた。


 「稲村さんの脳波を見る限り、一時期は他の患者さんと同じ時間帯に脳波が活発になっていますが、胃ろうの手術後、彼女の脳波は他の患者さんと比べて安定しています。しかし、体力の消耗は通常の昏睡状態の患者さんと比べて激しいところは気になりますね。」


 イトマキのこれまでの自衛隊病院での実績と、この京帝大学病院での働きぶりから、プロジェクトのメンバーたちは自然とイトマキを信用し、イトマキの説に納得していた。


 「ここはPUCSの『特例』ということで、今までどおりの病室に居て頂き、合同で彼女の治療をするというのはどうでしょう?」


 つまりは米子は今まで通りの病室で、豊平の同期とPUCSプロジェクトのメンバーが合同でデータを収集したり治療にあたると言う折衷案だ。


 「しかしそうなると病床数の関係が・・・・。」


 豊平の同期の上司が意見を述べようとしたところを、PUCSプロジェクトリーダーの真駒がにこやかに遮った。


 「そこは『特例』ですし、大学病院側としても『特例』の患者のデータは今後重要になるかもしれませんし、何かの手がかりになるかもしれません。」


 リーダーの真駒の一言に皆が頷く。しかし豊平の同期の上司は納得できていないようだ。

 そこへ、おずおずとイトマキが手を上げた。


 「あの、いいですか?」


 「どうぞ。」


 真駒に発言の許可を貰い、イトマキがまたプロジェクターに映された資料を見ながら話し始めた。


 「実は稲村さんの場合、お母様がいらっしゃると脳波が安定してα波が出てとてもリラックスしています。この点はこの大学病院のPUCSの患者さんの中ではありえないことですよね?」


 以前、イトマキがPUCSの患者達の面会時間が短いことを気にかけて岩見と豊平に尋ねていたことを、岩見と豊平は改めて思い出した。イトマキがいた自衛隊病院ではPUCSの患者たちは親が来るとリラックスする傾向にあり、誰とも同調していないと言っていた。

 そして他のメンバーたちもその言葉に頷いている。



 「つまり、PUCSの病室に稲村さんを移すと、面会時間に制限ができてしまい、今後このデータを採り続けることが難しくなります。また逆に、面会時間に制限を設けなくなると、今度はPUCSの患者さん達全体に負担が掛かる可能性があります。よって、私は今の病室のままで良いかと思います。」


 PUCSのメンバー一同がイトマキの説に納得し、感嘆した。


 「では、稲村さんの件に関しては、今の病室のままでいられるよう私が上に直接交渉します。そして、今後は合同で稲村さんの治療にあたりましょう。」


 プロジェクトリーダーの真駒はにこやかにイトマキの意見をまとめたが、内心は貴重なデータを採る機会をみすみす逃したくないのである。

 今後のデータ次第では何か治療法が見つかる可能性もあるかもしれない。

 そうなればリーダーの真駒の知名度が上がり、更に出世する見込みがあるかもしれないという真駒自身の打算と欲でもある。

 そして、万一失敗しても、自分から意見を述べた伊東真木子に全ての責任を負わせれば良いだけなのだ。

 真駒の目に狡猾な笑みが宿っていた。


 そんなことはつゆ知らず、当のイトマキはPUCSの患者の資料を見ながら、PUCSの患者の中にも1人、特異な脳波の人物が居ることにふと気づくのであった。

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