表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
16/86

イレギュラー

 全体チャットをしても個人チャットをしてもマユからの反応はなかった。

 ログイン確認コマンドで確認してみると、確かにマユはログインしてる。だけど、どこのギルドにも所属していなくて、どうやら完全に一人ぼっちのようだ。

 俺はマユが行けそうな場所を探してみるが、それらしきアバターは見当たらない。

 仕方なく今日は捜索を諦めようとギルドのアジトに戻ると、アジトの扉の前で神妙な顔つきで腕を組みながら壁に背中を預けるリータの姿があった。


 「なにしてんだよ?」


 「ジオこそ何してんの?」


 俺はそっけなく答えるリータに、マユを一日中探していたことを告げた。


 「へー・・・Lv上げに人生捧げてると思ったら、今度は女の尻2つも追いかけてるわけ?」


 リータは険のある言い方をしながら俺と目を合わそうとしない。


 「違うよ、俺は純粋にマユが心配なんだよ!同じくらいの低いLvから一緒にLv上げをした仲間同士なんだからさ、相手のこと心配にならないのかよ!」


 俺は思わず肩を怒らせてリータに言った。たぶん昔の俺だったら考えもつかなかっただろう。

 

 「俺はさ、ゲームの中では基本ソロハンでひたすらLvを上げてきた。だからいつも独りでなんとかなる、誰かとつるむのはメンドクセーって思ってた!だけど、ここでは俺はすげーダメで、みんなに助けてもらえないと何にもできないんだよ。それに、みんなで一緒に狩りするのが楽しくてしょうがなくてさ・・・。だから、俺、またいつもみたいに一緒にマユとリータとタルタロスに登りたいんだよ。」


 俺はアイテム袋からタルタロスの鍵を取り出し、手のひらでじっと見つめた。やがてその手のひらに大粒の涙がこぼれ落ちる。


 「あんたは呑気でいいよね・・・。」


 リータは俺から顔をそむけてポツリと呟いた。それからしばらく沈黙が続き、リータがふいに話し始めた。


 「ジオ、あんたはずっとここに居たい?」


 「ああ!当たり前じゃねーか!」


 俺がそう言うと、リータは振り向き、寂しそうな顔で微笑んだ。


 「そうだよね・・・。あたしもずっとここに居たい。ここは自由だし、誰にも邪魔されないし、好きな歌を大きな声で歌えるし、話せるし・・・。」


 どんどんとリータの語尾は小さくなっていき、最後にはあまりよく聞き取れなかった。

 しかしその後、急にリータが眉間にシワを寄せて歯噛みしたあと、語気を強めて言った。


 「それなのに、マユは帰りたいって言ってたの。」


 「帰りたい?」


 こんな楽しいところなのになぜマユは帰りたがったのだろう。何が不満だったんだろう。


 「あのお腹の痛みが楽になった後、マユが塞ぎこんでたから何か悩みがあるのか聞いてみたら、ガキみたいに『帰りたい帰りたい』って言ってばっかだった。だからもうこんな奴の面倒見切れない・・・って思ってアジトに置いてった。」


 リータは怒っているようにも、悔やんでいるようにも見えた。


 「ちゃんと・・・話、聞いてやってたらまだここに居たかな・・・?」


 そう言って、リータは自分の体を一層強く抱いて涙を堪えていた。だけどそれももう限界だったらしく、座り込んで泣きじゃくり始めた。


 「マユ、マユ、マユのバカヤロー!」


 リータはずっと、たぶん一番マユが居なくなったことに責任感や罪悪感を抱いていたんだろう。

 俺はリータが泣き止むまで側に座るしかできなかった。


 ふと、細い影が俺たちを覆った。


 「あら、ふたりともそんな所に座り込んでどうしたの?」


 急に現れたメリッサに、俺は思わず顔を上げて動揺してしまった。


 「えあのそれは」


 しかも隣ではリータが泣いている。何か誤解を招きそうなシチュエーションに俺はどう言っていいのか分からずに口をパクパクさせていた。


 「ふふ、そんなにマユちゃんのこと心配なんだ。」


 そのメリッサの言葉に、今度はリータが顔を上げた。そしてリータは素直に無言で頷いた。


 「大丈夫、これからギルド長の友達集めて、マユちゃん探すの手伝ってもらおうと思ってるの。」


 「ほ、本当ですか!」


 メリッサの優しい微笑みに、リータは思わず勢いよく立ち上がった。


 「もう、目が本当に真っ赤っ赤。」


 そう言って、メリッサはリータに近寄ると、その泣きはらした目を優しく拭いていた。

 俺もいつの間にか立ち上がって、メリッサのその優しさに思わず見とれてしまっていた。


 「さ、今日はふたりともマユちゃんのこと探して疲れたでしょ?アジトに入ってゆっくりしてなさい。」


 メリッサには何もかもお見通しだったようで、俺とリータは顔を見合わせた後、恥ずかしくなって俯いた。

 そんな俺達の姿を見てクスクスと笑うメリッサは、やはり可憐で素敵だった。大人びていて、それでいて時々見せる子供が宝物を密かに隠して笑うような無邪気な笑みが俺の胸を熱くする。俺は心底メリッサに惚れているんだと思った。






 宿屋の一室で、明かりも付けず、幾つもの暗い影達がざわめいていた。


 「なんでそもそもあのイレギュラー(異分子)を受け入れたんだ!」


 大きな影が細い影に詰問する。細い影は静かに微笑む。


 「これはあの方からのご命令です。」


 細い影のその一言に、ざわめいていた影達は一気に鎮まりかえった。


 「・・・じゃあ、なぜ逃した。」


 沈黙を破り、大きな影が問う。


 「それはこちらの不手際です。申し訳ありませんでした。ですが、いずれは逃がすよう、あの方から申し使っております。」


 細い影が謝りつつ、理由を述べた。


 「幸い、イレギュラーはLvが低く、皆様方に悪影響を及ぼすこともないでしょう。」


 その細い影の言葉に、一同が安堵の溜息をついた。


 「しかし、どうしてあの方はあんなイレギュラーをここへ連れてきたのですか?」


 他の影がどこからか尋ねる。


 「それは、『イレギュラーが伝書鳩だから』としか聞いておりません。」


 細い影の答えに一同がまたざわめいた。


 「あの方は何をお考えなのだろう?」

 「しかしあの方のことだ。絶対に理由があってのことだろう。」


 影達はざわめきながら口々に『あの方』のことを話し始めた。

 そのざわめきをかき消すように、大きな影が言った。


 「それで、その伝書鳩の始末、どうつけるつもりだ?」


 細い影は闇の中で冷たく微笑む。


 「その点も私が責任をもって処分いたします。」


 その答えに影たちはやおら歓喜のどよめきを上げた。


 細い影はその歓喜の中で静かに呟く。


 「汚い大人は、早く処分しなくちゃね・・・。」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ