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43/reboot  作者: 煌洲 桜子
43/reboot
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タルタロス43階

 ようやく俺の体も本調子に戻り、すっかりお腹が空くこともなくなった。

 普通なら、皆1ヶ月ほどはおとなしくしてるところらしいけど、俺は痛みを抑えながらユルい狩場でちまちまと経験値を貯めた。そのおかげで同期の連中達よりかなり差を付けてLvが高くなった。

 ゲームの世界なのに、フツーに痛いし、歯を食いしばって戦わなきゃいけなかった。


―今度は逃げない。今度は逃げない。


 何度かふとそんな言葉が頭をよぎることがあったけれども、どうにも思い当たる節がなかった。


 俺のLvに似合った中級の上くらいのちょっときついが旨い狩場で、俺はリータとペアハントしている。リータの目的は休んだ分のLvを効率よく上げるために、俺の経験値のおこぼれをもらうためだ。

 リータもすっかり体が慣れたらしく、大人の色気のある褐色の肌のアバターには似合わない流行りのアイドルの歌を大声で歌ったり、子供みたいに楽しげに飛び跳ねている。

 確かリータに最初に会った時も、アバターに似合わずオーバーアクションだったり大声で歌うのが好きだったのを思い出した。


 そんな時、メリッサから個人チャットが入ってきた。俺は思わず胸がドキドキしていた。リータに動揺を悟られないようにMOBが来ない場所に移動し、チャットの内容を読んだ。


 『これからペンデュラムとタルタロス43階に行くけど、一緒に行ってみない?』


 それはメリッサからの初めての狩りのお誘いだった。

 俺はパーティーハントとは言え、とうとうメリッサに誘われ認められる男になれたのだと思うと、感極まって泣きそうになった。


 「あれー?顔真っ赤だよーん。メリッサからのラブレターかなー?」


 いつの間にかリータに顔を覗きこまれて思わずあたふたした。


 「ち、ちげーよ、タルタロスでPTパーティーハントしようってチャットが入ったんだよ!」


 俺はメリッサに誘われた嬉しさを隠すので精一杯だったが、どうしても顔のニヤケが止まらない。


 「メリッサがねー、あたしが行ってもOKって言ってくれたよー!」


 俺が必死にニヤけを止めようとしている間に、メリッサにリータが個人チャットをしていたらしい。


 「んふふ〜♪これでまた経験値楽勝でゲット♪」


 さらにリータという邪魔者が入ってしまったが、きっとこいつは見てるだけだろうし、

メリッサに俺の実力を見せるにはいい機会だ!

 俺はご機嫌なリータをよそに倉庫のある町に戻って装備を整えた。リータも慌てて俺に追いついて町へ戻ってきた。


 「戻るなら戻るって言いなさいよ!」


 リータは1人Lvの高い狩場に残されて怒っているようだった。

 俺はリータに謝りつつ、メリッサのお誘いに浮かれて、俺とリータとマユの3人でタルタロスに行こうと言う約束がまだ守れないでいたことを思い出した。

 まだマユは調子が良くないようで、アジトにずっと篭っている。リータにマユの様子を聞いてもそっけない返事しか帰ってこなかった。


 俺達は装備を整え、メリッサたちが待つ町へ向かった。そこにはあの腹痛の時に世話になった死神クラスのペンデュラムと別ギルド長で俺と同じヘラクレスナイトクラスの牙王がおうというやつが居た。

 牙王もメリッサと同じくらい長くここに居るらしい。だからそれなりに超が着くくらいLvが高い。俺はLvが高いことより、俺よりメリッサと居た時間が長いことに思わず嫉妬してしまった。


 「えっと、ジオサイドくんだっけ?評判は聞いてるよ。」


 牙王は気さくな感じで俺に話しかけて、ごつい手を差し出して来た。俺も同じような手を差し出して固い握手をした。


 『ジオ、眉間にすげーシワ寄ってるよ。』


 リータから言われ、ようやく俺は嫉妬が顔に出ているのに気がついた。俺は牙王に対する嫉妬をごまかすように苦笑いした。


 タルタロスにパーティーハントで登る時は、パーティーを組んだ後に鍵を持ってるパーティーリーダーが鍵をクリックすればパティーごと鍵のある階に登って狩りをすることができる。

 ペンデュラムの手に握られた鍵が光りだし、指の間から光が差し込んでいる。やがて俺たちパーティー自体が光に包まれ、タルタロスに到着した。

 とにかくこの場所は暗くじめじめとしている。ところどころにドクロが転がり、その中に雑魚MOBがチョロチョロと動いている。


 「いきなりで43かぁ・・・。」


 俺は思わず固唾を飲んだ。タルタロス43階はかなりのLvや装備が必要になる。メリッサ、牙王は楽勝だが、ペンデュラムにはちょうどいい狩場ではある。しかし、なぜソロハント好みのペンデュラムが今日に限ってパーティーハントをしようとしたのだろうか?

 そう思っていると、ペンデュラムのアバターの動きがカクカクしている。どうやらペンデュラムのラグがひどいらしい。ペンデュラムはそんなことをお首にも出してないようだったが、メリッサと牙王を誘ったということは相当ラグが酷くて心配だったからだろう。


 俺達はところどころ血が飛び散り、鬱蒼とした迷路の中を歩きながら雑魚MOBを倒して行った。リータは最初の勢いはどこへやらで、今はメリッサの後ろに隠れておずおずと付いてきている。


 すると、どこからともなく大きなうめき声が聞こえて来た。俺達は駆け足でうめき声の主を探した。


 「居た!」


 ペンデュラムが指差すその先には、迷路にぎっちり詰まるような巨体に、茶褐色でドロドロの顔がない四つん這いの四肢だけのバケモノがいた。それが43階のボスなのだ。

 その姿にリータの顔は真っ青になり、完全に恐怖でその場にへたり込でいる。


 「大丈夫よ、私の後ろで見てるだけで大丈夫だから。」


 その優しい声音でメリッサはすがりつくリータをなだめる。リータもメリッサの声に頷きながらも涙目になっていた。


 ペンデュラム・牙王・俺を含めた3人の前衛クラスは迷う事なくボスへ向かった。

 牙王はうめき声を上げながら襲ってくるボスの前へ出て、ボスの攻撃をかわしている。牙王が陽動している間に、ペンデュラムはボスの背後に回るとその背中に飛び乗る。そしてペンデュラムは咆哮を上げながら鎌を持ち上げ、渾身の力でボスの背中に鎌をめり込ませた。

 その瞬間、ボスは立ち上がりペンデュラムを振り落とそうと立ち上がる。牙王はボスが立ち上がった時に、運悪くボス前足にぶつかり跳ね飛ばされてしまった。


 「はやく!トドメを!」


 ペンデュラムのその声で、ずっと見学していた俺ははっとしてボスへ向かって行く。

 依然としてボスは激しく動き、ペンデュラムを振り落とそうとする。

 俺はペンデュラムに気をとられているボスの心臓部分へ躊躇なく剣を突き立てた。すると剣が抜けなくなり、俺も剣と一緒にボスに振り回された。

 その時、その剣の隙間から何かが見えた。何かは分からないが、何か懐かしい、そして悲しい気持ちが一瞬過ぎり、心がなぜか痛かった。

 やがてボスはじょじょにその動きを弱め、ついには動きを止めて消滅した。

 俺たち前衛にそれぞれボスからのドロップが入って来る。


 「おお!すげー!ザクロの実だ!」


 俺は自分に来たドロップに驚いた。1日2回しか使えない回復アイテムで、そのルビーのような沢山の小さな実を一つ食べただけでHPもMPも一瞬で全回復し、防御力と回復力が一時的に飛躍的に上がる。とてもレアなアイテムで高値で取引されている。


 「よし、じゃぁこいつを市場で」


 そう言いかけたペンデュラムが突然消えた。パーティーも自動消滅してしまった。俺達は急いで町へ帰還した。

 俺も牙王もメリッサもペンデュラムにチャットするが返事がない。


 「切断かしらね・・・。」

 「そうかもなぁ・・・、最近やけにラグが酷いっていってたからな。」


 牙王とメリッサがペンデュラムのことを深刻そうに話す姿に、今はとても嫉妬する気も起きず、ペンデュラムはいつ帰ってくるのだろうかと心配になっていた。


 「とりあえず・・・、ペンデュラムが戻ってくるまでペンデュラムの分までドロップ配分しましょう。」


 メリッサがそう言い、俺達はドロップしたアイテムを売り、通貨に変えてペンデュラムの分を残して均等に配分した。

 メリッサと牙王がその時悲痛そうな面持ちをしているのが気にはなったが、俺は久しぶりに手応えのある狩りが出来てうれしかった。

 きっとペンデュラムは回線か何かのせいで一時的にログインできなくなっただけだろうと思った。


 しかし、それっきり、ペンデュラムは戻ってこなかった。


 そして狩りからアジトへ戻ると、マユがギルドを抜けて居なくなってしまっていた。


 俺はその日、友達を一度に2人も無くした。

 

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