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部屋の中はテレビの音を消すと、静けさが生まれる。私自らが生み出したもののように、何かの間違いのもとを生み出したように。

私はいまだに自分の部屋を持つことができない。

私は部屋を変えられない。

重く響く音が私の耳に入る。廊下を歩く家族の足音だ。無遠慮に急ぎ足でわたっていく音は、たたたっどすどすっという場合や、ぎっぎっと振動する場合もある。

私は耳を傾ける。支配できない部屋の外で響く足音たちはもっと私から遠く離れていて、現実の形を帯びていない。軒下で雨宿りをして通る車を見ているようなものだ。

出ていくのか、出て行ってないのか。分からない家族たちの気配。扉だけが境界線だった。灰色の虚ろな半円形の世界。薄暗い平らな天蓋の中で、扉だけが存在している。

 もし、扉を開けて何かが待つとすれば、私はそこに何を求めるだろう?

ただいまと扉を開けて、そこに帰る。そう、私はそこに帰らなければならない。

遥かな道のりだ。

白いカラスと四重朗君と二人でいた数分間は、はたして夢だったのか・・・

背中から凍りつく私は、胸の奥の奥の最も大切な部分まで凍ってしまっている。

 見上げる空には万年の氷が張っている。きっと昔どこかの分かれ道で、間逆の道を選んでしまったのだ。

 四重朗君へ行くことが、正しいことかわからない。

ああ、要領不明だな。

私は窓近くにキーホルダーを沢山吊るした。

窓の外の柵に出来るだけ多くつるした。カーテンレースにも吊るした。持っているキーホルダーがなくなると、自分で作った。麻ひもでマスコット、コサージュ、アクセサリを作った。結構良いものが出来上がった。

窓がいっぱいになると、部屋の中にも吊るした。天井にセロテープで張り付け、壁にも吊るした。

にわかに私の部屋が騒々しくなった。

そしてカラスがいつ来てもいいように窓をいつも開けておいた。

ただ、持って帰ってもらっても、持ち主がわからなければ、四重朗君も返す当てがないだろう。

名前を書くかと迷ったが、今のところはまだ持ち帰り自由とする。

かばんの方にも再び猫のキーホルダーを吊るした。もちろん、リリアンの紐で。あの子が食いちぎりやすいように。

あとは野となれ山となれ。

けれど、窓の外を良く見るようになって気付いたのだ。

隣の山田さん家も、私の窓と同じようになっている。テルテル坊主みたいな何かをいっぱい窓辺につるしている。

あや、良く見ると向かい筋の角の広川さんとこも。山腹のマンションの沢尻先輩家も。

みな、考えることは同じである。

さらに、上には上がいる。

学校にはキーホルダーずくしの先輩や、同級生が増えていた。

あれは流行ではなかったのだ。

「イヅミ、下りてきなさい」

 と、お母さんから声がかかった。うちではお母さんが一番偉い。

台所の小さな机にお母さんが座っていた。メガネをかけているのは、オンオフでいう、オンの状態にあるということ。余り良い状態とは言えない。

「日曜なのに、今日は部屋にこもって何をしているかと思えば、あんた、窓や部屋の中に変なもの吊るしていたのね」

 いきなり嫌な部分をついてきた。

「じつはね、昨日おとといだったかな、四重朗さんちの奥様がこの辺りにも回ってらしたの。隣の山田さんちのように、吊るし物を吊るしたら、辞めさせてくださいって、お願いにこられたのよ」

 私は愕然として、母親の話に聞き入っていた。

「四重朗さんの飼っているカラスが光りものを集めているんですって。四重朗君のお母さまは、これ以上被害を増やさないようにと心配されてね。皆の家を回っておられるの。お母様は必至で、あんたみたいな馬鹿な女の子のすることを止めてくれとお願いして回ってるの。少しだけど、謝礼にって、お菓子もくれたわ」

 ドンと、菓子箱が出てきた。

「隣の山田さんちも、角の広川さんとこも、奥様は回られたはずだけど、まだ止めてないわね」

 なにもかも丸裸にされて、拷問を受けるようだった。

この家の人は私のことなど虫けらぐらいにしか思ってないのではないだろうか。

四重朗君のお母様はこのあたりでも有名な長者番付けの奥様だ。

うちのサラリーマンの家庭では、睨まれては立つ瀬がなくなるのだろう。

けれども、突きつけられたお菓子の箱が、私には許しがたいものに見えた。

「あんたって言う子は、何てはしたない、みっともないことをして」

 ああ、大人って、最低。

「部屋を片付けてらっしゃい」


がたがたしております

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