登校
風呂に入ってパジャマに着替えると、オレはそのままベッドにダイブした。
ぼふん!
音を立てながらベッドがオレを受け止める。
何か色々あったから疲れていた。いつもは何も感じないベッドの弾力が今はとても気持ちいい。
うつ伏せになりながら首だけを動かして机の方を見る。
机に置かれている時計は十二時を示している。
思いのほか勉強に時間を割いてしまった。
今日は疲れているからもっと早く寝ちゃえと思ったのだが。
机はカーペットがしいてあるだけの床を挟んで向こう側にある。
その下にカバンを置いていた。
オレは徐に起き上がり、カバンを手にとってベッドに座る。
カバンから学校で拾った不思議な楽譜を取り出した。
学校で見たときはあまりよく見ていなかったが、それでもわかるほどに綺麗な字で書かれていた。
今見てもやはり整った綺麗な字だ。
所々乱雑にぐしゃぐしゃと直されているのが勿体無い。
オレには音楽の才能は無い。
学校で聞いたピアノの音。それとこの楽譜は無関係だろうか?
もしかしたらこの楽譜の曲があのピアノのメロディーなのだろうか?
自分自身では確かめようがない。
「しかたねーな…」
オレは一つのつてを思い出す。
一人、音楽に詳しくて腕も確かなやつを知っている。
しかし。
とてもとても嫌だ。物凄く嫌だ。どれくらい嫌かというと真冬の海に真っ裸で飛び込むくらいに嫌だが、仕方ない。
どうしても気になるのだ。
オレは一つ息をつきながら、楽譜をカバンにしまってそのまま眠りに付いた。
次の日は快晴だった。
朝の優しい太陽の光がカーテンから零れてオレを照らす。
眩しくて布団に顔をうずめる。もう少し寝ていたい。そう思ったところで階下のリビングから母親の御飯よ、という声が聞こえた。
「………」
オレは仕方なく起き上がる。また寝たら絶対に遅刻するだろう。
顔を洗うのも面倒臭い。朝食も面倒臭い。着替えるのも、順二をするのも面倒臭い。しいて言えばおきるのも。
それもこれも、あいつの所為だと思って無理やりに準備を済ませ、家を出た。
「よう!お前も今からガッコーか!」
「…ああ、おはよう。ワタル」
ワタルとは家が隣同士とまでは行かないが家がとても近い。ついでに言えばオレたちは自転車で行けるほど学校にも近い。
必然、ワタルと一緒に登校する事が多い。
ワタルといえば今日も爽やかに元気だった。
昨日少し久しぶりにがっつりとサッカーをした所為で帰宅部のオレの筋肉は悲鳴を上げている。
しかしワタルは毎日鍛えているためそんなことは万に一つも無い。
「なんだよテンションひっくー。ちゃんとメシ食ってるか?」
「お前よりは余程バランスいい食事をな」
「は?なんだよーショウのくせにー」
スポーツするにはバランスのいい食事は必須なんだぜー?とワタルはオレに抗議してくる。
…しかしオレは知っている。
こいつは食べる量が半端ない。スポーツしているからエネルギーをたくさん消費するのだろう。
ついでに好き嫌いもない。だから、なんでも兎に角食べる。
よって、結果的にバランスがよくなっている。量以外は。
「にしても…今日はまたいいサッカー日和だな!」
自転車を立って軽快にこぎながらワタルは空を見上げた。
きらきらと眩しい爽やかな笑顔。
あんなのオレには無理だ。
そして釘を刺しておくのも忘れない。
「………付き合わないぞ」
「…そっか…残念っ」
思いのほかあっさりとワタルは引き下がった。
筋肉痛、見抜かれただろうか。
「テスト終わったらまた付き合ってやるから」
「ほんとか!約束だぞ!」
わかりやすいな、そう思いながら学校に着いた。