放課後
その日の放課後。
オレは結局ワタルに連れられて校庭に来ていた。
少し肌寒い。がっつりやるつもりは無いから着替えていない。
制服のままでもいいだろう、少しやって帰ろうと思っていた。
殊更勉強するつもりはないが、今日は家で駄弁りたかった。
サッカーゴールの近くに、サッカー部員がもう集まっていた。
部員達はオレたちをみつけると駆け寄ってきた。
「ショウさん!おつかれっす!」
「よう、ショウ。お手柔らかに頼むな」
「おう」
サッカー部員の後輩と同級生に軽く挨拶をする。
因みにオレは帰宅部である。
だから暇なときにはよくワタルに付き合ってサッカー部に顔を出すこともある。
自分で言うのもなんだが、サッカーは結構好きなほうでそれなりに上手いとも思う。
流石に公式試合には出ないが、他校との練習試合にはこっそり出ているときもある。
ワタルには何故サッカー部に入らないのか聞かれているが、オレはどこか部活に入ってがっつりやるのは性に合わない。
やりたいときにやるのが一番できるとオレは思う。
「おおい!部長さまにはなしか!?」
後輩にも同級生にも声をかけられない部長ワタルはオレの少し後ろから喚いた。
その声にサッカー部の面々はにやりと笑みを浮かべながら、
「あ、部長。いたんすか」
「部長はテスト勉強の日じゃなかったっけ?」
「そろそろ危ないって本当ですか?」
「だー!お前らうるせー!!!」
「くくっ…」
「ショウ!笑うな!」
無理だろう。
彼らの言ったことはほぼ当たっているのだから。
そして、笑いに包まれながら今日の部活がスタートした。
気がつけば、空は真っ暗になり始めていた。
軽くやるつもりが、結局がっつりやってしまった。今更着替えればよかった、と思いながらオレは顔を洗いに水道に向かう。
校庭ではワタルが部員を集めて終わりの挨拶をしていた。
ヘロヘロになった部員達はそれでも大きな声でおつかれさまでした!というと、それぞれカバンを持ち、帰り始めた。
そしてワタルがこちらへと歩いてくる。
「よ!おつかれ!」
オレが顔を上げると、白いものが飛んでくる。
咄嗟に掴むと、それはタオルだった。
こんなにサッカーに熱中すると思っていた無かったため、タオルは持っておらず、小さなハンカチしかなかった。
これはありがたい。
「サンキュ」
「じゃ、帰るか?」
「ん…」
と、返事したところではたと気付く。
そういえば、オレ、ノートを教室に忘れたかもしれない。
さっき、顔洗う前にハンカチを探していて―結局小さなハンカチしかなかったわけだが―ノートが無かったのだ。
家にあるという可能性もなくはないが、低いだろう。
ということでおそらく教室に置きっぱなしである可能性が一番高い。
これでも一応テストを控えた高校生である。
赤点取るのは勿論いやだし、その後に待つ補習も絶対にご遠慮願いたい。
故に一応、これでも一応一通りは勉強しているのである。
「あ、ちょっとオレノート教室に忘れたみたいなんだ。だから、取ってくる。先帰ってていいよ」
タオルをショウに返す。
ショウはぶっと吹き出しながら、「まっじめだねー!」
ばしばしオレの背中をたたいてきた。ちょっと痛い。
「…オレが真面目だったら世の中の大半の人間が真面目だよ」
「ははっ。あ、オレは下で待ってるからさっさと行って来いよ」
「ん、わかった」
オレはそういってワタル待たせんのも悪いから走って校舎に戻っていった。
辺りはもう、完全に真っ暗になっていた。