友人
「うーん…」
オレは寝ていた。
確か…四時間目。
おなかは当然減っている。しかし、もう冬の一歩手前という秋なのか冬なのかはっきりしない時期だが暖房が既に付いているこの教室は、窓から入ってくる太陽の光とあいまってまるで温室のように気持ちが良かった。
晴天。
まさにお昼寝日和だ。
一応、テスト期間ではあるが、この誘惑に勝てなんて無謀すぎ―…
「こら!起きなさい!」
「あいて!」
突如、後頭部に痛みを感じる。
渋々顔を上げるとまだ若い眼鏡をかけた…桑原満子先生が立っていた。
腰に手を当て、反対の手は教科書を丸めて持っている。
アレで叩かれたらしい。角じゃなくて良かったです。
痛い…とオレが頭を摩りながら言えば、少し申し訳無さそうに一瞬目を伏せるものの、直ぐにまたオレをしっかりと見て注意した。
「また授業中に寝て!」
「…だってせんせー…英語は眠くなります…」
「私の教え方が問題!?…ではなくて、眠くても眠くなくてもきちんと授業を受けなさいね!」
そう言うと返事も聞かずに桑原先生は供託に戻り、授業を再開した。
そして、オレはその後何とか眠らずに授業を終えた。
ようやく寝れる、と、食事さえ後回しにしようと机に突っ伏した頃を見計らったかのように再び後頭部に違和感を感じる。
今度はなんだ。何かが乗った。
身体を起そうとするとそのものはどいた。
「よう!ショウ!」
ショウこと高城宵、つまりオレを呼んだのは友人の水樹亘だ。
日焼けしているこげ茶のぴょんぴょん跳ねた元気な髪に、これまた元気な丸くて大きめの黒目。
肌は程よく日焼けして、黙っていれば女の子達が黙っていないだろうという容姿をしている。
黙っていれば、だ。
話せば女の子よりもスポーツ。スポーツよりめし…そしてスポーツ。のワタルなど残念でしかない。
しかも鈍感でデリカシーに欠ける。
いくら小顔で身長も手足もモデル並だとしても、だ。
比べるのが虚しいが、オレことショウは普通の男子学生だ。
容姿も普通。身長も普通。頭もスポーツも普通。
ワタルは頭が残念だがあの容姿と運動能力は誇れるだろう。
しかし頭が残念だ。オレは負けていない。
その残念なワタルはオレの頭に載せたらしいでかい弁当箱をオレの机に載せ、近くからイスを持ってきてどっかと座った。
おい、ここで食べることを許していない。なぜならオレが寝れないだろう。
というかいつもいつも思うが、その量なんだ。おせち料理でもないくせに重箱である。
いつもより心なしか多いなと思ったら、いつもより一段多い。五段だ。
オレのそんなじと目を気にせず、いや気付かずにワタルはにこにこと笑いながら包みから弁当箱を取り出している。
「つかさっきまで寝てたくせにまだ寝ようとするなんて。はらへってねえの?」
うるさいな。
オレは小食なんだ。今は寝かせてくれ。次は地獄のマラソンなんだから。
誰が好き好んで寒い時期に外に出たがる?
そんなオレの言いたいことを読み取ったのかワタルはにんまりと笑い、「オレはマラソンも好きだもん!」
「そーですか…」
そういうしかない。
「んでさ!ショウ今日にとまいねええ?」
突然何語かを言い出した。
食べながら話しているせいだろう、全く何を言っているのかわからなくなった。
オレはペットボトルを取り出し、蓋を開けてワタルに手渡す。
因みにただの水だ。
「わりーわりー、今日空いてねえ?」
「空いてない」
「ちょっと部活付き合えよ。どうせ暇だろ?」
「オレは家でだらだらするという使命がある」
「ただの練習だから軽く部活内でチーム作って試合するだけだからさ」
「テスト期間中に何やっている?」
「そのテスト期間中の授業で思いっきり寝ていたお前には言われたくないな」
「これには答えるんだ…」
オレは思わず笑う。
「じゃあ!そろそろお前もめしくって…いやもう時間がないか、着替えた方がいいぞ!」
そういってワタルは手早く弁当箱を片付けて自分の席に戻った。
この短時間で食べたのか。あの量を。いつもより一段多いのに。
そう思ったらなんだか少し感じていた空腹がどこか飛んでいってしまった。
次はマラソンだ。早めに着替えて早めに出よう。
次の体育の先生はとても厳しく、一分遅れるごとにトラック一周ずつ増やしていくのである。
しかも個人にではない。全体に、だ。
一人でも遅れたら連帯責任で走らされた後にマラソンが待っている。とてもハードだ。
テスト期間なら、マラソンはやめて欲しいのに。
部活もちゃんとやめさせればいいのに。
この学校、何かおかしいと思う。
この学校、星信学園は一週間後に期末テストを控えている、私立校である。
通常一週間前ともなれば部活動は停止するが、表向きであって本当にやるかやめるかは生徒の判断に任されている。
そして、学校行事、イベント等も生徒に任されている。
よく言って自由な高校。悪く言ってまる投げな学校だ。
本当にまる投げているわけではないけれど。