02:体の異変と非日常の始まり
はい、第二話です。ノリとしては THE FIRST の本郷、でしょうか?まあ、あまり深く落ち込みはしませんが。少なくとも、まだ。では、どうぞ。
OP: The Pure and the Tainted
あの出来事から一週間後。特にこれと言った異変は見当たらなかった。知り合いの医者に定期検診に行ったが、異常は見当たらないらしい。だが、ある日、異変が起こった。缶コーヒーを飲んだ後、それを握っているとまるで紙風船の様に拉げた。
「な・・・・?」
そして以前よりも五感が研ぎ澄まされている。それ所か、総合的に膂力が上がっている。試しにバイクを持ち上げようとしたら片手で軽々と持ち上がったのだ。
「おいおい、どうなってんだ、これは?」
「臨刀、どうかしたか?」
「え?あ、いや、何でも無い。ちょっと俺出かけて来る。」
「おう。今日は俺の知り合いが手伝いに来るからな。今日は遠慮無く遊んで来い。ほれ、給料プラス小遣いだ。全部使うなよ?」
「俺はそんなに浪費家じゃないのは分かってるだろ?親父の勿体無いお化けがうつったんだから。今日はもしかしたら少し遠出するかもしれないから。」
臨刀はヘルメットとバイクのキーを取って白いラインの入った群青のヤマハ・テッセラクトに乗った。キーを回してアクセルを捻ると、エンジンが覚醒し、唸り声を上げた。それこそ、正に燃え盛る炎の様に。
「調子良いな、今日は。」
「ああ、昨日の内に少し弄っておいたからな。にしても、こんなにバイクもってどうするつもりなんだ?」
「何と言うか・・・・男が持つ収集癖の性だと思う。それに、俺は自分のマシンを恋人だなんて言う奴じゃないから。バイクは、その時の気分で別の物に乗りたいって時があるから。機械屋の息子で良かった。」
「ふふっ、俺も優秀な助手が手に入ったから良かったよ。良くこんな奴に付き合う気になったな。」
「最初は嫌だったよ。でもこんなクズみたいな俺を拾ってくれた事には感謝してるし、今じゃ、ここが俺の都さ。じゃ、行ってきます。」
「さっさと行け。」
ぶっきらぼうに手を振る養父を尻目に、車道に入っていった。すると、彼の携帯が鳴った。
「深神だ。」
『どうですか、丈一さん?』
「まだ分からん。奴らはいずれ動き出す。俺の息子もアレを手に入れちまったかもしれん。」
『いざという時は、お願いしますよ?』
「分かってる。」
臨刀がバイクで向かったのはある喫茶店だった。そこでは既に動き易いカジュアルな
パンツルックの女性が待っている。自分と視線が合うと、手を大きく振って来る。
水瀬だ。
「もうコーヒー注文しておいたから。」
「ああ、悪いな。」
臨刀は向かいの席に座ると、コーヒーに角砂糖とミルクを入れると掻き混ぜた。
「で、話って何?」
「ああ。実は、最近変な夢を見るんだ。」
「ヤーダ、何?心理カウンセリングごっこでもするの?」
「言いから黙って聞いてくれ。真面目な話なんだ。」
冗談として笑い飛ばしていた水瀬だが、臨刀の目付きで本気だと分かったのか、笑いを納めて神妙な顔付きになった。
「ここ最近俺の体が変なんだ。最近では何もしていないのに聴覚が鋭くなって、視野も比喩表現でなく広がっている。三百六十度とまでは行かないが、今よりかなりの広範囲で見える様になった。視力も今の幾倍か強化されてる。医者に診てもらっても何ら異常は無いそうだし。それに最近同じ夢を見る様になっている。俺が・・・何かに変わる夢に。」
「フランツ・カフカの『変身』みたいに?」
「気色の悪い位デカい虫になった訳じゃないが、何かに変身した事は間違い無い。何なのかは分からないが、二足歩行で、黒い爪に暗い赤色の肌、後はこの髪の毛と同じ体毛が少し。明らかに人間じゃないが、何なのかは分からない。」
「そうなんだ・・・・でも、見た所いつも通りのリンだから心配する必要無いんじゃない?」
「そうかな・・・?実際、膂力も増してる。バイク一台を余裕で片手で持ち上げられるんだ。いつも通りは外見だけだと思うんだがな。どこが心配する必要無いんだ?」
「うっそ!」
「マジだ。指一本で逆立ち出来るんだぞ。後、一回間違って缶コーヒーの空き缶握り潰しちまったし。」
コーヒーを一口飲んで時計に目をやる。まだある程度時間はある。
「水瀬、今日暇か?」
「うん、まあ。何で?」
「少し出かけよう。」
「へー、珍しいわね、貴方からお誘いが来るなんて。いつもなら私が誘わないと仕事の時以外家から一歩も出ない癖に。」
「嫌なら別の奴を誘うが?アテなら幾らでもあるんだぞ、皮肉屋?」
「あーん、待って待って、ごめん!行く、行きます!行かせて下さい!その、唐突だったから、つい・・・・からかいたくなって・・・・」
伝票を持ってその場をさっさと立ち去ろうとした臨刀を水瀬が必死に止めた。
「いい加減それ辞めないと、その内に痛い目見るぞ?二回もあんな事が起こってまだ懲りないのか?」
「それを言わないでよ〜!二回とも助けてもらったのは感謝してるけど・・・・」
「分かった。会計は俺がやっとくから、待ってろ。」
「はーい!」
会計を済ませると、後ろに水瀬を乗せて走り去った。彼女は臨刀の背中に体重を預ける様に腰に腕を回した。
(いい加減名前で呼んでよ。バカ・・・・)
河川敷の辺りで止めると、坂で腰を下ろした。
「ここでどうするの?」
「大した事はしない。ただ、ボーッとするだけだ。それに、ここは色々あった場所だしな。お前は言っても信じないかもしれないが、昔はかなり喧嘩してたんだぞ?何度か
マジで死にそうになった。で、喧嘩の殆どはここでやってた。大抵は俺一人だったがな。」
「へ〜。あんた良く生きてるよねー。」
「まあ、な。」
ハンドルにマウントされたGPSを取って次の行き先を検索し始めた。だが、タッチパネルを操作してる手を見ると、手が焼ける様に熱く、それと同時に冷たくなっていた。
「あ、う・・・・!?(なんだ、これ・・・・?)」
「ちょっと、リン、大丈夫?」
「何か、手が変だ・・・・熱いのに冷たい。」
ドクン!
突然心臓が力強く脈打ち、体温が一気に上がった。一瞬咳き込んだが、川まで歩いて行くと、頭を思いっきり水の中に突っ込んだ。そして心の中で十秒数え、顔を上げた。体温は下がり始めたが、心臓の力強過ぎる程の強い鼓動は止まらない。
「ちょっと、大丈夫?」
「ああ・・・・・バイクの荷台に積んだバッグに熱冷ましのシートがあるから、あれ取って来てくれ・・・・今、体温が半端無いんだ。」
「わ、分かった!」
来ていた上着を脱ぎ、タンクトップだけになると、水で濡らした手で触れた。それが蒸発しているかの様に熱い。
「張ってあげるから待って!」
首筋、肩、額、そして二の腕、合計七枚のシートを貼り付けた。熱が引くと、荷台に積んだバッグからスポーツドリンクが入ったボトルを取り出し、一気に飲み干した。
「大丈夫なの、本当に?」
「今の所は、な・・・・」
「しばらくここら辺にいようか?」
「そうだな。それが良い。少しゆっくりした方が良いかもな。悪いな、水瀬。手間掛けさせて。」
「だから、いい加減名字で呼ぶのやめてよ。潤で良いって言ってるでしょ?」
「いや、でも・・・お前一応年上だろう?」
「一応って・・・・」
「いや、お前年不相応な発言とか行動を起こすからさ。」
隣に座っていた水瀬の肩に寄りかかった。
「でも、こうしていると落ち着く。親父以外で頼れる相談相手なんか水瀬ぐらいしかいない。」
「あら、言うわね、貴方も。」
心地良い風を感じ、川のせせらぎを聞き、臨刀の熱も下がった。
「よしと、そろそろ次の行き先決めないとな。どんな所に行きたい?」
「うーん・・・ダンスクラブ?」
「疑問系なのが気になるが・・・・・ダンスクラブねえ。」
検索して該当する物は一つあった。現在地からそう離れてはいない。
「行ってみるか。」
だが、二人の背後には、彼らを監視するあの初老の男の姿が・・・・・
はい、第二話でした。敵キャラフラグが老人に立ちました。特徴は幾つか上げましたが・・・どうしようか、全体的な外見。まあ、何か考えつく筈ですので。お待ち下さい。
ED: CHOSEN SOLDIER
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