01: 日常の崩壊
はい、第一話です。あらすじはどうにか良い感じで書けましたが、その後どうなるかは分かりません。では、どうぞ
OP: The Pure and The Tainted
お聞きになりたい方はこちらへどうぞ。
http://www.youtube.com/watch?v=KW7tg0yqfEY
いつもと何も変わらない朝。臨刀は郵便受けから新聞を取り出した。一面の見出しはいつもと変わらない。『変死体続出』の大文字だ。最近はこう言う物が増えている。喉笛を噛み切られていたり、頭を握り潰されていたり、行方不明になったり、高台が無い場所での飛び降りでの全身打撲、栄養失調。警察もてんてこ舞いだ。どれも全て未解決で終わっている。
「最近多くなったな。こう言うのが・・・・ん?」
新聞を開いた時に落ちたのか、手で持てる卵サイズのケースが入っていた。それなりに目方がある為、ズシリとしている。
「何なんだ、これ・・・?」
朝なので、深く考えずにそれをポケットの中に押し込み、家の中に戻った。既に家ではやかましい機械の音が響いている。自分も作業服に着替えると、下に降りた。
「親父、朝から煙草はやめろって。」
頭にバンダナを巻いた三十代後半の男が口に銜えた煙草を奪い取り、胸ポケットの箱を奪い取った。
「それ一本で寿命縮めてるんだから。」
「分かったよ。代わりに修理手伝え。」
「はいはい。」
臨刀はボンネットを開き、分解して中の部品を取り出し始めた。
「あー、これもうダメだな。点火装置がダメになってる。取り替えるの、これ?」
「ダメになってるのは点火プラグだけだ、装置自体を完全に置換する必要は無い。」
「それもそうか。でも装置自体は購入後からずっとこのままだったから、そろそろ変え時じゃない?」
「うーん・・・・まあ、それは保留にしておこう。今回依頼されたのはこの車だけだからな。残りは俺がやっておくから、パソコンの方を頼む。」
「うーい。殆どが同じ作業だから大した事は無いよ。」
ボンネットを開けたままにして工具を置くと、作業机に置いてある五つのパソコンを開いた。画面の縁に貼り付けてある紙切れには『ウイルス駆除』もしくは『『データ復活が必要』と書いてある。デスクトップの大型PCにケーブルの一つを繋げ、一つ一つデータを復活させて行った。どれも大学生や高校生のノートパソコンなので、入っているデータがどれも多い。ウイルス駆除は臨刀自作のワクチンがあるので五分で解決した。
「さてと、後は待つだけか。親父、パソコンの修理とりあえず終わったよ?」
「液晶が割れた奴があったろ?あれはどうなった?」
「昨日の夜のうちに直しておいた。もう少ししたら電話した方が良いんじゃない?全部終わったし。」
「土曜だぞ?二時間後位にしろ。」
「分かった。朝飯どうする?」
「昨日の残り物があったからあれで済ませた。閉店間際に修理の依頼が色々と来たんでな。今日の出張修理のスケジュールは冷蔵庫に張ってあるから、忘れるなよ?」
「あ、そう。分かった、じゃ、俺食ってくるわ。」
「おう。しっかり食っとけ。今日は忙しいぞ。」
養父は顔も上げずに受け答えし、臨刀は自宅に上がった。冷蔵庫からレタスと細かく刻んだ玉葱を取り出すと、それをボウルに入れ、更に分厚く切ったハムと粉チーズを放り込んだ。最後に黒胡椒とシーザードレッシングをかけてあえると、半リットルの牛乳瓶を取り出して食べ始めた。食べていると、ポケットの携帯が震えた。
「はい?」
野菜を咀嚼しながらも電話に出た。
『あ、リン?』
耳に飛び込んで来たのは、聞き慣れた女の声だ。
「どうした、水瀬?」
『今日、暇?』
「悪いが出張スケジュールがあるから午前中一杯と午後の一部は潰れる。その後は、まあ少しは暇になるかな。何故?」
『実は・・・』
「またやられたな、お前?」
臨刀はうんざりした様子で牛乳の残りを飲み干した。
『えへへへ・・・』
「笑ってる場合か。こっちの都合も考えろ。今ようやく朝飯食ってる所なんだぞ?」
『何よ、大食らいの癖に。』
「俺はエネルギーの消費量が半端無いんだよ。今だって肉入りの大盛りシーザーサラダと牛乳で体力カバーしてるんだから。最近コンビニの飯が高くなって来てるから、コスト削減の為にも仕方無いんだ。」
『で、来れる?』
「分かったよ。とりあえず午後まで待て、俺が連絡する。」
『ほーい。』
電話を切ると、朝食を手早く済ませて使った食器を洗った。自称『仕事服』に着替えると、壁にかかっている数多い鍵の一つを取り、ガレージに止めてあるバイクのうちの一つである蛍光グリーンの細い回路型ラインのペイントが施された黒いカワサキ・ニンジャに跨がった。
「親父、バッグ。」
「ほらよ。」
車の修理を終えた彼は、お茶を飲んで一息入れていた。足元のバッグを拾い上げ、臨刀はそれを受け取ってガレージから出て行った。ハンドルにマウントされたGPSで次々と目的地での仕事を終えては報酬を受け取っている。
(店は親父、外は俺、か。スタッフ応募すれば良いのに・・・・って無理か。三十五に差し掛かる所でまだ大らかでいられる年頃なのに頑固だしな・・・お、ここか。やっと、
これでラスト。十二件も回ったから疲れちまったじゃねえか・・・・しかもデカいな、ここの家。)
バイクを止めるとインターホンを鳴らした。すると、使用人らしき身なりの整った初老の男が彼を家に案内した。洋館の中はやはり豪勢な作りであり、所々に絵画やタペストリーが壁にかかっている。通されたのは、書斎の中だ。
「で、問題とは?」
「はい、数日前にお嬢様のパソコンが問題を起こしまして。こう、何と言いますかな、画面が固まったまま動かなくなると、電源が落ちて、それ以来電源が入らなくなったのです。」
「失礼ですが、その方は今いらっしゃいますか?これを直すのに幾つか質問したい事があります。また同じ事が起きない様に。」
「残念ながら、お嬢様は奥様との用事で留守にしております。」
「(やれやれ、金持ちは気楽で良いね。)わかりました・・・・・大方の理由は、パソコンの電源をオンにしたまま長時間放置したのが原因かと思います。機械の最大の弱点の一つは熱ですから。熱が籠り過ぎると、中の回路が異常を来しますから、問題が起こるのも自明の理です。使い終わったら毎回電源を切る様に伝えて下さい。」
「はい。」
目の前に於いてあるパソコンを分解して問題になっている部分を見つけると、中の回路に詰まった埃も取り除き、電源を入れると、液晶に明かりが灯った。
「これで直りました。念の為にデータが破損していないか見ておきますね。」
一通り問題は無さそうなのでパソコンの電源を落とすと、自分の道具も片付け始めた。
すると、その拍子にポケットに入っていたあの卵型のケースが落ちた。
「おっとっと。」
それを拾い上げてポケットにしまった。だが、その時その使用人が息を飲むのを聞いて思わず振り向く。
「どうかしましたか?」
「いえ、失礼しました。持病があります物で・・・」
「そうですか。ではこれで終わりましたので。」
とりあえず報酬金を受け取ると、バイクに乗って戻って行った。使用人のケースを見たあの反応の事が脳裏で引っ掛かりながらも・・・・
「ただいま。」
「おう。どうだった?」
「楽勝。いつも通りだ。にしても、こんなにたくさん以来受けるなよ、実際修理やるの俺なんだから。」
「馬鹿野郎、それ位当然だ。」
「言うだろうと思ったよ。」
「昼飯は出来てるから先に食ってろ。」
「分かった。」
臨刀は報酬が入っている箱を置いてバイクを地下ガレージの駐車場に停めた。そして再び二階に上がると、そこにはラップの掛かった簡単な料理が幾つか並んでいた。バッグを下ろすと、席に着いてその料理を食べ始めた。その最中、ポケットから取り出してカウンターの上に置いたあのケースが細かく震え始めた。そしてやがて静かになると、シューッっと気が抜ける様な音がしてその中には錠剤が二つ入っていた。一つは薄い緑色、もう一つは白と蒼の半々だ。だが、突然携帯の着信が鳴って驚いた拍子にその錠剤二つを飲んでいた麦茶のグラスに落としてしまった。錠剤はあっという間に溶けてしまう。
「あ、糞・・・はい?」
『仕事終わった?』
「午前中の分はな。後は午後のノルマを終わらせて終了だ。てか水瀬、人が飯食ってる最中に電話するなよ。」
『ごめんごめん。私どうしても弱くてさ。』
「だったら尚更だ、出来ないと分かっているなら何もするな。余計に問題が増えて出費も増えるのはお前だぞ?」
『ほーい。ウチまで来てね〜♪』
「分かった。じゃあな。家を出る前に連絡する。」
それだけ言うと電話を切り、食事を続けた。だが、最後に残った麦茶を見た。あの錠剤が溶け込んでしまった麦茶を。捨てるのは勿体ない。だが、薬に何の効果があるのか分からないまま飲んで翌朝死んでいた、なんて事は冗談でも避けたい。
「あー、もう知るか。」
覚悟を決めると、それを一気に飲み干した。味は大して変わらなかったが、極力気にしない様に努力して全て飲み干した。だが、突如体中の力が麻酔に掛かったかの様に抜け、意識が闇に飲まれて行く。そして意識がプッツリ切れた。
(やべー・・・・飲むべきじゃなかったな。でも、何だこの感覚・・・・・スゲー気持ち良い。何も考えられない・・・・)
だがその至福の時間も長くは続かなかった。しばらくすると、体が激痛に襲われた。未だかつて経験した事の無い程の気が狂う様な痛みが体中を電流の様に駆け抜ける。だが、体の力が入らない所為で声を出す事も出来ない。すると、何かが変わった。体の力が抜ける中、無理矢理手を顔の前に持って行った。
「何だこれ・・・・?!」
だが、手は見慣れた人間の手では無かった。その手は、真っ直ぐ伸びた黒い爪が生えていて、肌の色も暗い赤色となり、体毛が生えていた。生まれ付きこの色だった頭髪と同じ色の体毛が。
「何なんだ・・・?!」
両手を頭にやるが、頭の形も変わっており、頭髪は無くなっている。
(嘘だ・・・・嘘ダ・・・・・ユメダ・・・・コレは絶対夢だ!!!・・・・・覚めろ、覚めろ!!!)
何度目を開け閉じしても変わらなかった。
(落ち着け、落ち着くんだ・・・夢じゃない事は分かったが、どうやって元に戻る?)
再び目を閉じて自分の姿を思い浮かべた。自分がそれに変わって行く事を想像した。
(戻れ、戻れ・・・・元の俺に戻れ・・・!!!)
そしてしばらくしてからもう一度恐る恐る目を開けると、人間の、元の見慣れた姿に戻っていた。
「戻った・・・・けど・・・・(俺は一体どうなっちまったんだよ・・・・?)」
かくして、日常が崩れ去った。
はい、と言う訳で、第一話でした。余談ですが、書いているもう一つの作品、Heads or Tailsが自分の中ではちょっと微妙です。アクセス解析数も低い方ですし。まあ、こちらでも頑張りますので、よろしくお願いいたします。
質問、コメント、お待ちしております。