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終幕

 街が近ずくにつれタヌキの様子がおかしくなっていった。森に入る時よりも明らかにおびえている。きっと長老たちから人間のおそろしさについて叩き込まれているのだろう。

「絶対に尻尾を出すなよ」

おびえるタヌキに、さらにとどめを刺してから私たちは街にはいった。


 そこは港町で潮の香りがただよい、少しべたつく風が吹いていた。田舎の港町にしてはそこそこにぎわっている方だった。

 タヌキは私の服の裾ではなく、私の腕にしがみついてきた。じっとりとしたタヌキの体温と微妙な震えはあまり気分のいいものではない。とはいえ、振りほどくのもかわいそうなのでそのままにしておいた。

 薬問屋はすぐにわかった。さらにおびえ、足元もおぼつかない状態のタヌキを引きずりながら店に入った。

 店の中は薄暗く、瓢箪のような青白い顔をしているがギラギラした目つきの男が出迎えた。私が目的の薬を指名すると男は奥へ入って行った。奥からヒソヒソとまるで密談をするかのような話し声が聞こえてきた。しばらくすると男は目的の薬をもって戻ってきた。

 私はその金額を聞いて驚いた。神官からきいていた金額のの3倍以上する。私の感覚でも高すぎる金額だった。私がそのことを伝えると、男はここのところの気候がどうのこうのと言い出した。値下げ交渉をするが、のらりくらりとはじまった。

 いつもの私ならこのくらいでは引き下がらないのだが、今はタヌキを連れている。タヌキの状態も限界に近づいている。私は仕方なく、男の言い値で薬を購入することにした。

 タヌキは震える手でお金を渡し、受け取った薬を大切そうに袋にしまった。用がすんだら、ここに長居は無用だった。私たちは狸の里へ戻るべく、店を後にした。

 タヌキが小走りで先をいそぐ。一刻も早く恋人(狸)に薬を届けたいというよりは一刻も早く街から離れたいようなだった。

 それにしても、あの店の態度はしゃくに障った。必要な薬の量の半分も手に入れることができなかったのだ。あとでどうにかしなければならない。

 森が近付くころには、タヌキは尻尾も耳も出していた。森の中にいるのは獣と妖魔ぐらいだし、薬さえ手に入れば人間に用はない。私たちはそのまま森へ入って行った。

 森の中は行きよりも薄暗く、怪しい気配が漂っていた。静まり返った森の中を、私たち駆け抜けていく。

 あと少しで森を抜ける。そう思った途端、辺りの暗さが増してきた。

「お待ちかねだったみたいだな」

予想通り、妖魔たちが襲いかかってきた。私はタヌキをかばいながらも妖魔を追い払う。

 きりがない。ある程度始末したところでタヌキを促し森を駆けぬけることにした。

 永遠に続くとも思われる暗闇に光が差してきた。森の出口はすぐそこだ。

「一気に駆け抜けろ」

と、背後にただならぬ気配を感じた。どうやらヌシの登場のようだった。

「私がくい止める。おまえは早く薬を届けろ」

私は森を抜けるタヌキの姿を確認してから、森の奥に目を凝らす。

 闇がさらに濃くなっていた。久しぶりのこの感覚。全身の血が、筋肉が沸き立つ。私は雄たけびをあげたくなる衝動を抑え身構えた。


 妖魔は弱すぎた。

たったの一撃で首が飛んだ。そして、ボスが殺られたとたんに雑魚たちの気配も消えてしまった。私は拍子抜けしながら、ボス妖魔の醜い首を眺めていた。

 これは使えるのではないか。ふと思った。妖魔の首、全身に返り血を浴びた自分自身。この姿を見たら普通の人間なら恐れおののくだろう。

 私は妖魔の首をつかむと街へ向かった。もちろん行先はあの胸くそ悪い店だ。


 そこからはとても愉快だった。無造作に妖魔の首をカウンターに置いたときの男の顔は別人のようだった。目的の薬どころか、懸賞金もしっかりいただいた。これで当分は金に困ることはないただろう。



 数日後。私とタヌキは里の畑を耕していた。

 神殿が用意してくれたお金は、とりあえずは私の懸賞金から返した。しかし、タヌキは自分自身の力で返したいと申し出たのだ。神殿はタヌキのために里に口をきいてくれた。タヌキは人里の畑仕事を手伝い日当をもらうことになった。タヌキ一人(匹)ではまだ少し不安があるようなので、私もまたタヌキを手伝うことにした。

 ふと、山の方をみると、小さな人影が見える。あれは元気を取り戻したタヌキの恋人が昼飯をもってきてくれたのだろう。

 私は農具を置くと大きく伸びをした。見事な青空だった

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