無題
愛する人と別れた後、思い出の残る六畳間で一人静かに過ごす主人公。連絡を拒むようにスマートフォンの通知を切り、相手の温もりや「またね」という言葉の残像に浸りながらも、消えない孤独の中でついに恋の終わりを静かに受け入れます
雨の音だけが響く六畳間、
冷めた紅茶に滲む薄桃色の口紅。
テーブルの上のスマートフォンは、
通知を切ったまま静かに眠っている。
画面を撫でる指先に、君の温もりを探す。
「またね」と言ったあの日の声が、
部屋の隅にほこりのように積もっていく。
鍵をかけた心の奥で、
失くした恋が静かに呼吸を止めた
濡れた傘から滴り落ちる雫が、
フロアマットに小さな染みを作る。
窓ガラスを伝う透明な筋は、
届かなかった言葉の行方のよう。
引き出しの奥に仕舞い込んだ、
お揃いの鍵輪が小さく鳴った。
あんなに温かかった季節も、
今では遠い幻のようで。
思い出すのは笑顔ばかりで、
ずるい人だと溜息をつく。
淹れ直した温かいお茶の湯気が、
ぼやけた視界をゆっくり包む。
止まない雨は記憶を洗い流し、
少しずつ夜の闇を深めていく。
明日の朝には晴れるだろうか。
新しい靴で、歩き出すために。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
冷めきった雨の日に、一つの恋をそっと手放す静かな時間を描きました。
傷が癒えるにはもう少し時間がかかるかもしれませんが、淹れ直したお茶の温もりのように、主人公が少しずつ前を向いて歩き出せるよう願いを込めています




