泥に刻んだ、僕らの夏
ふと足を止めると、風に乗って土の香りが鼻をくすぐった。 視線の先には、高くそびえる防球ネット。かつて私が泥にまみれ、白球を追いかけ続けた母校のグランドだ。 「 我が母校 グランドのもと 汗落とす 」 遠くで響く金属バットの快音、そして、喉が枯れるほどの咆哮。今の球児たちが流す汗は、数十年前の私の記憶と鮮やかに重なる。あの頃の私たちは、この場所が世界のすべてだと信じて疑わなかった。 しかし、夏は残酷だ。どれほどひたむきに夢を追っても、残酷なほど明確に「終わり」はやってくる。 「 白球の 行方を見送る 鳩の群れ 」 最後の打球が外野の頭を越え、勝負が決したあの瞬間。 歓声も、ため息も、すべてが遠のいていくような不思議な静寂があった。ただ、無情にも照りつける太陽と、空を横切る鳩の羽ばたきだけが、止まってしまった私たちの時間を置き去りにして流れていった。 うなだれる肩に、仲間の啜り泣きが届く。勝者に送られる拍手の裏で、僕たちの夏は静かに幕を閉じた。 「 負けてなお 土の香まぶし 夏の果 」 それでも、甲子園という夢に届かなかったこの敗北が、無意味だったとは思わない。 ユニフォームに染み付いた土の匂い、指先に残る砂の感触。それは、誰にも邪魔されることなく命を燃やした、何よりまぶしい証拠なのだ。 季節が巡り、たとえ現役を退いても。 夏の終わりに感じるこの土の香りは、いつまでも私の胸を熱く焦がし続けるだろう。




