技能教習開始
翌日は土曜日ということもあり、優太は朝から教習所に行った。初めての技能教習だ。
教習カードを受付の端末に通すと、番号の記された紙が出てきた。10番だった。この番号と教習車の号車が一致している。教習開始のチャイムが鳴り、優太は10号車に向かった。
最初は助手席に乗る。10号車の教官が近づいてきた。ティアドロップのサングラスに角刈り、紺の三つ揃えのスーツという出で立ちだ。
「『東部警察署』の南大門刑事みたいだ…」
先日見ていた刑事ドラマで、ショットガンを犯人車に向けて撃った主役そっくりだった。
「自分は渡田だ、宜しく」
「よ、よろしくお願いします!」
優太が乗り込み、シートベルトを締める。渡田教官がクラッチペダルを踏み込み、1速にシフトレバーを入れる。
優太は渡田教官の一挙手一投足を、真剣に見ていた。自ずと優太も手と足を動かしていた。
「車の運転は、全て自己責任だ。だからこそ、各項目をクリアできれば良いという考えには、自分は反対だ」
運転を交代し、いよいよ優太が運転席に座る。シート位置やミラーを調整し、シフトがニュートラルにあるのを確認して、エンジンをかける。
「今の、この緊張感を忘れないことだ」
渡田教官の声が聞こえる。
クラッチペダルを踏み込み、シフトを1速に入れた。クラッチペダルの戻しが早かった。
ガクッ
エンストした。恐る恐る渡田教官の表情を見たが、顔色一つ変えていない。
「どうした?ニュートラルにしてもう一度」
今度は発進できた。2速に変速する。シフト操作に気を取られると、ハンドル操作が遅れがちになる。初回は悪戦苦闘の連続だった。
教習時間はあっという間に終わり、車を止めた。
「ぎこちなさは問題ではない。運転操作そのものは、慣れの問題だ。1回目なのだから、慣れていたらおかしい」
渡田教官はサングラスを外して優太を見た。
「免許を持つということは、責任を持つという事だ」
そう言って、優太の教習簿に印を押した。
渡田教官が降り、優太も降りた。
「ありがとうございました」
「自分で蒔いた種は自分で刈り取る。運転における、自分の信念だ」
教習を終え、教習所を出たところで絵里から連絡があり、駅近くのカフェで会うことになった。
「おつかれさま!初日の技能どうだった?」
「運転するってすごいね。なんか価値観が変わりそう」
絵里は嬉しそうに優太の話を聞いている。普段あまり冗舌でない優太の口数が、今日は多かった。緊張感から解放された事と、絵里への安心感からだった。
「私も二輪の時、同じ教習所に通ってたんだよ」
「そうなんだ!なんかさ、個性的な教官多くない?」
「アハハ、私もそうだったよ」
「絵里ちゃんも!?じゃあ、まだまだ個性派がいるんだな」
絵里と優太は笑い合った。




