運転する資格
初デートで、急遽予定変更を提案した絵里。その理由が、優太の心にはずっと引っかかっていた。
優太は真夏の暑さを気にして、短パンにTシャツという格好だった。しかし、ツーリングにおいて、軽装は相応しくない。車にもバイクにも関心がない優太は、そこに気づかなかった。
「もし事故が起きたとき、バイクは身体を守れないから軽装は危険なの」
「万が一の時、優太君を危険に晒すわけにはいかないから…」
優太は運転免許に関心すら持たなかった事を恥じた。せっかく絵里が企画してくれたデートを潰してしまったと思ったのだ。
「嫌な思いさせてごめんね」
絵里が謝った。
「違う、それは違うよ。俺が気づくべきだったし、もっと関心を持つべきだった」
優太の本音だった。
「乗せてもらうから何も考えなくて良いということは、絶対にないよ」
立ち上がって謝った。
横で店員がピザを持って立っている。
「あ…お待たせしました…」
裕太と絵里が店員を見た。
「出直し…ましょうか??」
「あ、受け取ります!ありがとうございます!」
優太と絵里が同時に手を出して、皿を受け取った。
夕方から夜に差し掛かり、次第に空が暗くなり始めていた。電車を待つ二人は、駅のベンチに座っていた。子供がミニカーを持って走っている。
「ブーン、ブーン」
「絵里ちゃん。俺、車もバイクも関心がなかった。運転怖いなって。でも、免許を取らないのと、関心を持たないのは違うんだなって」
「私、優太君は運転に向いていると思う」
「えっ!?」
驚いて優太は絵里の顔を見た。
「運転が怖いって当たり前。だって、すごい力を持ったものを扱うんだもん。気楽に乗ったらダメなんだよ。慎重に、怖さを理解している人だからこそ、乗る資格があると私は思うんだ」
「怖さを理解…」
「この前優太君が、酔っ払いから守ってくれたでしょ。あの時、優太君なら捻じ伏せるのは簡単だったはず。でも、そうはしなかった。自分の力を使うべき場所と相手を、優太君は分かっている人だから」
「あ…いや、そんな立派なものじゃ」
「少しでも関心があったら、車でもバイクでも、挑戦してみたらどうかな。私、応援するよ」
絵里の足元にミニカーが転がってきた。
「はい、どうぞ」
絵里が拾い上げて子供に渡した。
その後、優太は絵里を家の前まで送った。
「今日はありがとう。最初緊張しちゃって、ごめんね。すごい、楽しかった」
優太が照れながら絵里に伝えた。
「こちらこそ。偉そうなこと言ってゴメンね。でも免許は無理は禁物だからね。バイバイ、送ってくれてありがとう」
そう言うと、エリは自宅のドアを空けた。
「絵里ちゃん!」
絵里は優太を振り返った。
「また…会えるかな…」
絵里は笑みを浮かべ、頷いた。
「ヨッシャ!」
優太は拳を握っていた。
翌日学校に行くと、正樹と俊がニヤけて待っていた。
「どうだった?」
「あぁ、水族館に行ったんだ」
優太は件の事情を二人に伝えた。
「そうだったのか…絵里ちゃんて誠実だな」
正樹は感心していた。俊は感動で泣いているフリをして、ハンカチを目に当てる。
「で、その後は?手ぐらい繋いだんだろ?え?もしかして…もしかしたら、もしかしちゃった!?」
俊がいじる。
「何もねぇよ、何考えてんだよ」
優太が呆れ笑いをしていた。
その日の帰り際に、優太は校門で自動車教習所の勧誘を見かけた。
「良かったらどうぞ!キャンペーンも実施中です!」
法被を着た職員が優太にチラシを渡した。
「優太おかえり」
「母さん、俺…免許取りたいと思う」
「え!免許!?あなたどうしたの…?」




