卒業検定
教習所に到着した。卒業検定は3号車で行なわれる。優太はゆっくりコースに出て、3号車の前に来た。車を手で軽く叩いた。
「よろしくな…」
教官が来た。最初に当たった渡田教官が検定員だ。
「今日は卒業検定です。自分は、何も言いません。これまで習ったことを思い出しながら、落ち着いていきましょう」
運転席に座った。シート位置とミラーを調整する。クラッチペダルを踏み込み、シフトレバーをニュートラルに入れた。
「良ければ始動してください」
クラッチペダルを踏み込み、キーを回しエンジンをかける。3号車はなぜか他の車とは違う、古い日産セドリックだった。セルが回り、エンジンがかかった。
路上に出た。いよいよ検定開始だ。渡田教官はずっと前を見据えている。
狭い路上に、納品のバンが止まっている。優太はゆっくり止まり、対向車をやり過ごした。
「障害物を疑い、推理する…」
右ウインカーを出してゆっくりバンを追い越す。人影はない…左ウインカーで元の通行帯に戻る。今は午前中。商店の軒先には納品車が多い時間帯だ。
その後は順調に進み、教習所へ戻るコースに入った。周りよりも遅く走る前走者がいた。
「追い越した方が良いかな…」
紅葉マークが見えた。
『運転は、慣れた頃が危険です…』
優太は思いとどまった。右車線は法定速度を超過して走っている車が多かった。追い越しをかけたら、優太も法定速度を超過することになっただろう。
「次の交差点を左に入ってください」
渡田教官が指示を出した。このコースは通ったことがない。優太はウインカーを出し、巻き込み確認の後、車を寄せた。
「どういうことだろう…」
これまでは散々教習で走ったコース。優太は慣れていた。しかし、今指示されたコースの情報は何もない。優太にわずかな焦りが見られた。
「平常心平常心…証拠を探すんだ」
優太は四方に目を向けながら車を走らせた。前方にある標識が見えた。
[この先、幼児施設あり]
「幼児施設から推理できること…」
優太は最徐行した。先の横断歩道に人が見えた。赤い帽子を被った保育園の園児達が、先生に連れられて渡っている。皆、小さな手を上げている。
横断歩道の前で静かに停車した優太。先生がお辞儀をして、園児達が手を振っている。
渡田教官が教習簿に何かを書き込んでいるのが、優太の目に入った。
教習所内のコースに戻り、指定の場所で車を停車させた。エンジンを止め、シフトレバーを1速に入れる。
「終わりました」
「お疲れ様でした。先程の紅葉マークの車、追越そうと思いましたね」
図星だった。
「良い判断でした。追越がいけないのではありません。あなたは前走者の素性と、右車線の流れから留まった。状況判断の結果、無理をしなかった」
「それと、先程の園児達。よく標識を見落としませんでしたね。」
「車は力があります。だからこそ、交通弱者への対応を忘れないでください。自分は、全体に良かったと思います」
合格だった。渡田教官と合わせて優太も車を降りた。
「免許を返納するその日まで、今日の気持ちを忘れないことです」
優太が去っていく渡田教官を見送っていると、急に肩を叩かれた。
「おつかれさん!どうやった??」
竹田教官だった。優太は合格を伝えると、満面の笑みで握手をされた。
「ホンマか!ようやったようやった。ええドライバーになってな」
痛いくらいに強く肩を叩かれた。手荒い歓迎が、竹田教官らしかった。
「それに、べっぴんさんの彼女もおるみたいやし。先行き明るいのう、ハッハッハ」
竹田教官の視線の先で、絵里が手を振っていた。優太は絵里のところへ駆け寄った。
「絵里ちゃん、来てくれてたの!?」
優太は合格を伝えた。
「やったね!あとは試験場だけだね!もうここまで来たら大丈夫!」
「うん。最後だからこそ、しっかり気を引き締めていくよ」




