7話
「あれ、キース。来てたの」
「……あぁ、公爵に用があって」
翌朝。
少し遅めの朝食を食べ終わり屋敷の図書室へ行こうと廊下を歩いていると、お父様の執務室からキースが出てきた。
もう用事は終わったようでガーランド邸に帰るらしいキースと並んで廊下を歩く。
「……昨日のお見合い……どうだったんだ?」
隣で静かに歩いていたキースが、やけにそわそわした様子で尋ねてくる。
私は少し考えた後口を開いた。
「んー……良い人だったわよ。ただ結婚するって言われると全然想像できないなぁ」
「そうか……」
私の返答にキースはそれだけ言ってまた黙り込んでしまう。
元からおしゃべりなタイプではないキースだが今日はより一層無口だ。
屋敷の廊下の一方の壁には均等の距離感で窓がついていて、そこから覗く景色はエルヴァレイン邸の庭園である。その庭園の景色を眺めながら歩いていると再びキースが口を開いた。
「そういえば昨日言っていた仮面舞踏会の件だが……」
「あ、ヴァーヴァル伯爵家のやつ? それならもう大丈夫よ」
キースの言葉を遮るようにそう告げると、彼は小さく「は?」と声を出した。
やっぱりキースは私に甘い。なんだかんだ一緒に行ってくれようとしていたのだろう。
キースって優しいよなぁと思い、笑いながら私は口を開く。
「偶然昨日のお見合い相手に誘われて、一緒に行くことになったの」
だから心配しなくて大丈夫、ありがとね。と言いながら私は歩き続けるが、先程まで一緒に歩いていたキースはその場に立ち止まっている。どうかしたのだろうか。
「キース? どうしたの?」
「結_す_のか?」
「え?」
呆然とした表情のキースの口元からこぼれ出た言葉は、小さすぎてよく聞こえず思わず聞き返す。
私の言葉に小さく肩を揺らしたキースはハッとしたような表情をする。しかしそれも束の間。すぐにいつもの無愛想な顔つきに戻った。
「結婚……するつもりなのか? そいつと」
「別にそんなのじゃないわよ。あっちも私も舞踏会に行きたいけどパートナーがいなかったから一緒に行くことになっただけ」
キースの言葉にそう返すと、何故か彼はギュッと眉を寄せた。
厳しい表情のまま、キースが私のすぐ側まで近寄ってきたので、自然と私は背の高い彼に見下される構図になった。
何故かわからないけれど確実に怒っているキースに見下ろされ、少々気圧されるがここで負けるわけにはいかない。生まれつきの負けず嫌いを発揮した私は__何を勝負しているのかは全く見当がつかないが__キースを下から思いっきり睨みつける。
「……急になに?」
「お前には俺がいたろ」
「は? なんのこと?」
「パートナーのことだよ。なんでそんなよく知りもしない奴に頼むんだ?」
本当に意味がわからないから聞き返したのだが、とぼけていると思ったのか、キースは珍しく苛立つ感情をそのまま声音にのせる。
「俺がいたって……昨日断ったでしょ」
「断ったとしてもだろ」
「意味わかんない。行きたくない人と行くより、行きたがっている人と行くほうがいいに決まってるじゃない」
「その行きたがっている人とさして親しいわけでもないのに? 危機管理能力低すぎじゃないのか?」
「何が言いたいの? 別に私の勝手でしょ」
「勝手って……今まで何度も俺を巻き込んでおいてよく言えるな」
「だったらもう二度と誘わないわよ!」
「そういうことじゃないだろ!」
「あぁもう! うるっさいわよ、さっさと帰って!」
ああ言えばこう言う状態のキースに段々とこちらも腹が立ち始めて、終いには玄関へと向かう廊下の先を指さしながら大きな声で叫んでいた。
私の大きな声に息を呑んだキースをその場に置いて、私は歩いてきた廊下を引き返す。
「……っルアナ!」
背後でキースが慌てたように私を呼ぶ声が聞こえるが、ここで引き返してすぐに仲直りできるほど私は大人ではない。
そのまま廊下を突き進み、自分の部屋の中に入り扉をバンッ! と大きな音を立てて閉める。
「ほんっとなんなのあいつ!」
私の部屋の中で掃除をしていたマーサがその言葉を聞いて「はぁ」とため息をついた。
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