4話
「ちょっと待て。え? お見合い?」
「そう、お見合い」
「誰が?」
「私が」
「いやなんで?」
帰ろうとする私を引き止めるようにいろいろな質問を投げかけてくるキースは本当に動揺しているようだった。幼少期はいざ知らず、最近では何が起こっても冷静に振る舞うキースがここまで狼狽えるのは珍しい。
「なんでって。私だって公爵令嬢なのよ? 後継者にはお兄様もいるし、私は外に嫁ぐのがセオリーでしょ?」
「政略結婚ってことか?」
「そこまでお固いものじゃないわ。家柄が合う人とお見合いして、もし相性が良ければ......って感じね。お見合い自体もちょっとした食事会の延長っぽいし」
「……」
私の返答を聞いてなぜか黙り込んだキースを置いて私はさっさと執務室を出た。
普段はとても優しいお母様だが、怒らせると怖いことは幼い頃からよく知っている。
「ルアナ様? もうお帰りに?」
「えぇ、今日はもう帰るわ。この後お見合いなの」
屋敷の玄関へと向かっていると、キースの従者であるヴェンと廊下ですれ違った。
ヴェンの質問に軽く笑いながら答えると、みるみるうちにヴェンの顔色が青白くなっていく。
「ヴェン? 顔が真っ青よ、体調が悪いの?」
「いえ……私はなんとも……どちらかというと主のほうが、心配というか」
「キース? 全然元気だったわよ?」
「……そうですか……お引き止めしてすみません、良い一日を。ルアナ様」
「あなたも良い一日を。またね、ヴェン」
ヴェンにひらひらと手を振り、玄関へと向かう。ちらりと後ろを振り返るとヴェンが少々ふらふらとした足取りで執務室へと歩いている。
なんともないと言っていたが、やはり体調が良くないのではないだろうかと心配になり、思わず足を止めてしまう。
「お嬢様! 10時には玄関まで出てきてくださいと申し上げたのに、なぜ廊下でのんびりしてるんですか!?」
「あら、マーサ」
ぼーっとヴェンの後ろ姿を見守っていると、私付きの侍女であるマーサが黒いスカートを揺らしながら怒り心頭といった表情で走り寄ってきた。
「あら、じゃないです! いつまで経っても出てこないからわざわざ屋敷内に入れてもらったんですよ!」
「ごめんってば」
ぎゅっと私の腕を掴み、私の腕を引きながらずんずんと玄関へと向かって歩くマーサに軽く謝罪をしながら、お母様に怒られなきゃ良いな、と願うのだった。
***
「あなたって子は本当に……やっと見合いを受けたと思ったら、見合い当日に出かけるなんて……私の育て方が悪かったのかしらね?」
「嫌だわお母様。間に合いそうだしいいじゃないの」
「…………はぁ……」
見合いへと向かう馬車の中でお母様が深くため息をつく。
急いでガーランド邸から帰り、屋敷のメイド全員で爆速の着替え、メイクもろもろをすませてもらったので見合いにはなんとか間に合いそうである。だからかお母様もそこまでお怒りじゃないため非常に助かった。
お母様方の親戚からの勧めということもあり、見合いにはお母様も同伴する。
「それにしても急にどうしたの? 今まで全てのお見合いを突っぱねていたのに」
「んー……そろそろいいかなぁと思って」
「あらそう、まぁ積極的になったならいいわ」
そろそろヒロインがデビュタントを終えて一年が経つ。
原作であれば既に私含む6人ほどが殺人事件の犠牲となっている頃だが、私はもちろんここ数年に不審な殺人事件は起こっていない。
つまるところ原作からはもう外れたと考えて良い。今も私とキースの友人関係は良好だと思うし、流石に殺されることはなさそうである。
原作が始まる時期の前から見合いの話は私に持ちかけられていたが、いずれ死ぬかもしれない状態で受け入れるものじゃないと思い、全て断っていた。
だが原作から一年が経った今、そろそろ見合いを受け入れてもいいかと思い、今回の話を受けた次第である。
(見合い相手、どんな人だろ……)
そんなことを考えながら、ぼーっと馬車の窓を流れる街の景色を見ていると見合い会場のレストランに着いた。
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