番外編4 (ヴェン視点)
番外編最後はキースとルアナの結婚式当日のヴェン視点です。
よろしくお願いします。
「主……主、聞いてますか? 主?」
先ほどから何度も何度も声をかけているというのに、俺の主であるキース様はぼーっとしていて返事がない。
ハァーっと大きく息をついた俺は主の耳元でスーッと息を吸い込んだ。
「主!!」
「うわっ!」
俺の大声にビクッと肩を揺らしながら素っ頓狂な声を出した主はようやくこちらに意識を向けた。
「驚かせないでくれないか、ヴェン。危ないだろう」
「驚くもなにも、そんなにぼーっとしているほうが危ないです。これから結婚式だと言うのに新郎がそんなんでどうするのですか」
「…………」
俺の言葉にジトーっと嫌そうな視線を向ける主を無視して、彼の髪を整える。
紺色の髪は下ろしていることが多い主だが、今日は半分ほどかき上げる髪型にセットしてやろうと俺は思っている。
忠誠を誓う主の一生に一度の晴れ舞台だ。こういうときこそ、彼の美貌を前面に押し出すに限る。
さらっさらな彼の髪を整え終え、主をこちらに向かせて前から確認する。
我ながら完璧である。いや、というよりも__
「……今日も引くほどの美貌ですね」
この完璧すぎる美貌ではどんな髪型でも似合うだろう。
美人やらそういった類は3日で慣れると言うが、この美貌はきっとこの先も慣れることはないだろう。何度見ても驚く美貌である。
「はぁ? ルアナが興味ないんじゃ無用の長物だろう」
「…………最近見境なくなってきましたね」
さらりと惚気られたので無表情でそう返す。
長年の片思いを募らせたこの主は、ルアナ様がお見合いすると知って初めて動き出したヘタレであるが最近はなかなか口に出すようになった。
しかし口に出すのはルアナ様に対してだけでいい。俺にまで口に出す必要性は全くない。
(……しかし、ルアナ様は主の顔を気に入っていると思うが……)
ルアナ様は以前から主を見て時々「うわ、イケメン」とか言っていたし、というかこの顔が好きではない人間はそうそういないだろう。
まぁこれ以上主になにか言えばこのあとの結婚式が悲惨なものになりそうだし、俺は黙っておくことにした。
「さ、支度は整いましたよ」
「あぁ、ありがとう。それじゃぁ行ってくる」
「はい」
俺の言葉に軽く頷いた主は新郎準備室として用意されたこの部屋の扉のほうへ歩き、そこで立ち止まった。
「主……?」
「ヴェンも一緒に行こう」
「……はぁ……いい加減俺離れしてくれませんか?」
「失礼な。俺はヴェンがこれまでよく仕えてくれたから__」
「ルアナ様のウエディングドレス姿を見るのが一人では心配だからでしょう」
俺の言葉にうぐっと言葉をつまらせた主は、両手を軽く上げて口を開いた。
「ルアナのウエディングドレス姿を前にしたら倒れる気しかしない」
「…………」
なんとも情けない言葉を、よくもまぁここまで真面目くさった顔で言えるものである。
忠誠を誓う主とはいえ、ジトーっと見つめてしまうのは致し方ないのではないだろうか。
「わかりました、わかりました。一緒に行きますけど、ルアナ様に会うのは一人でお願いしますよ。普通貴族の新婦を赤の他人の男が式の前に見ることなんてないんですから」
「俺は別にヴェンなら良いが」
「そういう問題じゃないんですよ」
きょとんとした顔でそんなことを言ってのける主に思わず顔を覆う。
小さい頃に世間から離されていたせいなのかわからないが、俺の主は少々世間から浮いているところがある。
なぜ貧民街で育った俺のほうが貴族の常識に詳しいのか未だにわからない。
***
「……やっぱり、一緒に入らないか?」
「お一人でどうぞ」
ルアナ様が待機している部屋の前まで来ても、そんなことを言う主にニッコリと微笑んでドアを指し示す。
ルアナ様の支度を担当したメイドたちはもう退出しているらしく、ルアナ様のお母上と兄君は聖堂で待機しているらしいのでこの部屋には今ルアナ様しかいない。
というかそもそも俺がここまでついてきていることがおかしいのだ。
俺の『絶対一緒に入りません』という固い決意を感じ取ったのか、やっと諦めた主は扉をゆっくりとノックする。
「キース?」
「あぁ、俺だ……入っても大丈夫か?」
「えぇ、どうぞ」
扉を隔てた部屋のなかからルアナ様の声がして、主がわかりやすく緊張を背中に走らせた。
緩やかな動きで扉を開ける主を見ながら、俺は音を立てないように気をつけながら数歩部屋から距離を取る。
本当は今すぐにでもここから去りたいが、主が本当に倒れてしまえば対処しなければならない。
わざとこちらを焦らしているのではないかと思うほどゆっくりとした動きで部屋に入った主だが、入室したあとも部屋が静まり返っているのが外からわかる。
(いや……すぐにでもウエディングドレス姿を褒めろよ)
本当に倒れたんじゃなかろうか。いや、その場合物音がするか……
引くほどヘタレな人である。
「……似合ってない?」
痺れを切らしたルアナ様が主にそう問いかける声がする。
「あ、いや! その……よく、似合っている」
ようやくルアナ様を褒めた主に俺はほっと胸を撫で下ろした。子どもを心配する親とはこんな気持なのだろうかと妙なことを考えてしまった。
「本当に?」
「あぁ……」
「ふふっ、良かった」
ルアナ様のご満悦そうな声がしてしばらくしたあと、主が部屋を出てきた。
「……聖堂に向かわれますか?」
「あぁ、ルアナはこのあと公爵とともに来るらしい」
主のその言葉にそういえばルアナ様のお父上である公爵様は他の部屋で待機しているのだと思い出した。
「……ヴェン」
「なんですか?」
「やはり俺一人で入ってよかった」
「はぁ……」
頬を染めながら言う主になんと返せば良いのか全くわからない。そんな俺の困惑をお構い無しに主は言葉を続けた。
「美しすぎて、聖堂には行かずに俺が独り占めしたい気分だ」
「………………」
だからそういう言葉は俺ではなくルアナ様に言えってんだよ。
貧民街で死にそうだった俺を救い出してくれた主には大変感謝しているし、並々ならぬ忠誠心を抱いているつもりだが、できればこれ以上この人の恋愛ごとに関わりたくないと思う今日このごろであった。
ヴェンはキースとルアナが結婚しても二人に振り回され続けます。なんだかんだ一番振り回されている人です。
番外編の方もこのお話で一度完結です。
お読みいただき、ほんとうにありがとうございました。
他の連載作品のほうは更新を続けていますので、お読みいただけると幸いです。




