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番外編1 (キース視点)

番外編です。

キース視点の話と、ルアナの母であるエルヴァレイン公爵夫人視点の話、キースの側近であるヴェン視点の話を1話ずつ書こうと思っていたのですが、キースの話が1話で収まりきらない文量になりそうなので何話かに分けます。

よろしくお願いします!

 初めてルアナに会った日のことはよく覚えている。



 毒でずっと体調不良が続いていたもののなかなか死なない俺に痺れを切らしたのか、俺の毒への許容量を試そうとしたのかはわからないが、その日の前日はいつもにまして毒の量が多く、俺の意識は朦朧としていた。


 いつもは離れに閉じ込められていた俺だが、その日は客人が来るとかで古い物置に閉じ込められた。

 昨日飲まされた毒が抜けないまま、今朝も毒を飲まされた俺は何度か血も吐いており、このままでは死ぬことがありありと想像できてしまった。

 重たく苦しい身体をなんとか引きずってかすかにこぼれる日光を頼りに物置の扉を開けようと試みる。


 しかし物置の扉はなんの栄養も与えられていない俺の細腕には重すぎて、全く動かなかった。今考えてみれば継母が扉が開かないように外側から細工をしていたのかもしれない。

 客人が来ているのならば、もしかすると誰かが気づいてくれるかもしれない。

 そんな一縷の望みをかけて、俺は物置小屋の扉を叩き続けた。


「……誰か、いるの?」

「……っ!」


 そんな俺の無謀な作戦が功を奏したのか、物置の外から確かにこちらに話しかける幼い女の子の声がした。

 どこか訝しむように尋ねる少女に答えなければならないと思うものの、水を何時間も飲んでいない俺の喉からは言葉にならないうめき声がこぼれるだけだった。


 扉の先の女の子はそのうめき声に「ねぇ大丈夫? この扉あかないんだけど……」と不安そうに何度も聞いてきたが、それに答えることもできずしばらく経つと女の子の声が消えた。

 もう去ってしまったのだろう。この後女の子が両親にこの出来事を伝えたとしても狡猾な父親と継母は獣でもいたのだろうときっと誤魔化す。

 俺の千載一遇のチャンスは生かされることなく、過ぎていったのだと実感した。


 そうして物置の扉の前で絶望していたその時。


「一回できるだけ扉から離れて!」


 女の子の声が再び聞こえてきて、俺はパッと顔を上げる。

 重たい身体を引きずって扉から離れると、外にいる彼女はまた口を開いた。


「ちゃんと離れた? 離れたなら手を叩いて!」


 その言葉を聞いて、俺はできる限りの力を込めて手を叩いた。

 パンっと乾いた音が物置に響き渡り、外で女の子が「よし!」という声が聞こえた次の瞬間。


 ガシャーン!!


 大きな音を立てながら、物置小屋の扉が壊れた。

 暗い物置に日光が溢れんばかりに差し込み、俺は思わず目を細める。


 少し経って物置小屋の扉を壊したのが庭師が使っている台車だということがわかった。


「大丈夫っ!?」


 台車をよじ登って物置の中に入ってきた少女は、眩しいほどの光を放つ銀髪を揺らしている。俺の目はまだ光に慣れていなくて、少女の表情はよくわからなかった。

 俺の方に駆け寄った少女からは甘いお菓子のような香りがした。


「貴方血が……! お父様、お母様、こっちに来て!!!」


 俺のひどい姿をハッキリと目にした少女は青ざめながら、物置の外に向かって大きな声で叫んだ。

 しばらくするとこちらに駆け寄る足音がして、小屋を二人の大人が覗き込んだ。


「ルアナ、貴方一体何を…………っ!」


 ひょっこりと顔を出した大人のうち女性の方が少女にそう話しかけるが、話しているうちに俺の存在に気づいたのか大きく息を呑んだ。

 男性の方は静かに小屋に入ってきて、俺の方をじっと見つめる。


「あなた。見つめている場合じゃないです! すぐに治療しないと!」

「あぁ、そうだな。坊や、失礼するよ」


 女性の言葉を受けて、静かに頷いた男性は低い声で俺に声をかけた後俺の方へ腕を回し、俺をぐいっと持ち上げた。

 男性の腕に抱えられて物置小屋を出ると、真っ青な顔をした父親と継母がこちらを見ている。


「公爵様……」

「この坊やを閉じ込めたのは貴殿たちか?」

「いえ、その……」


 公爵と呼ばれた男性の睨みに父親はしどろもどろになる。


「し、使用人の子どもです! いたずらがすぎるようだから、閉じ込めたのだと使用人が言っておりました!」


 黙り込んだ父親を庇うように継母は大きな声でそう述べた。

 公爵はそんな継母をじっと見据えた後、「そうか」とだけ返す。


「えぇ。仕置きをして閉じ込めたとは聞いておりましたが、ここまで酷かったとは……ガーランド家に仕える人間の失態はこちらの失態。私たちが責任を持って治療に努めますわ」


 男前な公爵に見つめられて頬を赤くした継母はオホホと笑いながら、嘘八百を並べ立てる。

 ここで少女の両親が継母の言葉を信じてしまえば俺はこの屋敷に置いていかれ、今度こそ確実に父親と継母に殺されるだろう。

 どうにかして少女の両親に助けを求めなければと俺が口を開くと同時に__


「お父様、私この子がほしいわ」


 少女が公爵に抱きかかえられる俺を指さしてそんな言葉を紡いだ。


「……ルアナ、急にどうした?」

「その子と遊んでみたいの。我が家に連れ帰りましょ?」


 母親と手をつなぎながら少女は父親に訴える。


「エ、エルヴァレイン公爵令嬢? そんなみすぼらしい使用人の子どもではなく、遊び相手であれば我が家の息子のほうが……」


 継母は突然の少女のわがままに困惑しながらも、ちゃっかり自分の息子を推薦する。


「貴族の子じゃだめよ。貴族の子なんてみんな部屋で大人しく遊ぶことしかしないもの。使用人の子どもだったら外での遊び方も知ってるでしょ?」


 そう言って大きな青い瞳をこちらに向けた少女に必死でこくこくと頷く。

 この少女が俺を救うためにこんなわがままを言っているのか、それとも本当に純粋にわがままを言っているのかわからないが、これに乗らない手はなかった。


「お父様、お願い! 今度からちゃんと家庭教師の先生のつまらない授業も受けるわ」


 公爵の服の裾をちょいちょいと引っ張りながら「だから、ね?」とねだる娘に公爵は相好を崩して「わかったわかった」と頷いた。


「すまないが侯爵。彼の両親に会わせてもらえるか? 娘が飽きるまで彼に我が家で過ごしてもらってもいいか、話をしたい」


 公爵のその言葉に父親と継母は二人してサッと青ざめた。

 そりゃそうだ。使用人の両親など存在しないのだから。


「いえ、その。その子の両親はいないんです……病で亡くなっていて」

「なんと。貴殿たちがここまで慈愛の精神に満ちていたとは思わなかった。いたずらを続ける孤児を屋敷に置き続けるなんて……それであれば話は早い。この少年は我が家で育てよう。まだ幼い娘の相手をしてもらうのだから、成人するまで面倒を見るのが筋というものだろう。うちの子どもたちはなにぶん活発なものだから彼もきっとここで過ごすより幾分かましだろう。なぁ?」

「えぇ。おっしゃるとおりですわ、あなた。多分彼がしてきたいたずらだって我が家の子どもがするいたずらと比べれば可愛いものでしょうし」


 苦し紛れに言った言葉のせいで俺の存在もろとも公爵家に引き渡すことになってしまった継母は楽しげに話す公爵夫妻の前でアワアワとしている。


「それでは、今日はここらへんで失礼しよう。この子の治療もあるからな」

「へ? あ、取引のお話は……?」

「あぁ、それについては前向きに考えよう。この子を譲ってもらった礼だ」


 公爵は慌てふためいた父親に朗らかにそう返して、踵を返す。


 しばらくして馬車が停めてある屋敷の入口に着いた。

 御者が恭しく馬車の扉を開け、公爵は俺を抱えたまま馬車に乗り込む。

 馬車の座席は二人分ほどのふかふかな座席が向き合っていて、俺はその一方に寝かされた。


「私の膝枕となってすまないな少年」


 そう言いながら俺の頭を少しだけ持ち上げて公爵が座席に座る。

 座席に座った公爵は持ち上げていた俺の頭をそっと自身の膝の上にのせた。


「安心して眠るといい」

「貴方を脅かすものはここには存在しないわ」


 優しく俺にそう告げてくれた公爵と公爵夫人に泣きそうになりながら俺の意識は遠のいていき、意識が完全に遠のく前にちらりと伺った少女は悩ましげな表情をしていたのだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

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