13話
キースの口から紡がれた言葉は想定外中の想定外だった。というか私が言葉の意味を履き違えている気すらしてくる。
「結婚って……あの結婚?」
「結婚と言えば一つしかないだろう」
「いやでも……なんで……?」
何を当たり前のことをといったふうに言うキースだが、私は全く話の展開についていけていない。こぼれ出た私の疑問を正確に聞き取ったキースが耳を真っ赤にしながら口を開いた。
「俺がルアナを好きだからだ……だから俺と結婚してほしい」
「へぁ……?」
顔がまるで火照っているかのように熱い。キースの瞳には以前までなかったはずの熱がはっきりと浮かんでいる。
「……いつから……」
「ずっと昔からだ」
「う、嘘でしょ……」
「本当だ」
急に投下された二つ目の爆弾ともいうべきキースの告白によって、私の脳はフライパンの上で溶けるバターのような状態に陥る。なにもまともに考えられない。
「ルアナが俺のこと異性として見たことなんて毛ほどもないのは知っている。だけど俺はルアナがいいんだ。ルアナじゃなきゃ嫌だ」
いつもなら羨ましく思うほどの透明感を持った真っ白な肌の顔を真っ赤に染めたキースは、必死な感情を剥き出しにして言葉を重ねる。
情報過多にもほどがある。なんて答えればいいのか皆目見当がつかないし、そもそも考えることすらままならない。
「ガーランド家当主の妻となれば、より一層絵に触れにくくなることだって分かってる。だから、3年だけ待っててくれ」
「3年って……どういうこと?」
「3年もすれば俺は当主を辞める」
「は!? 何言ってるの!?」
のぼせ上がっていた脳にまるで冷水をかけられたかのように、急に思考がはっきりとする。当主を辞めるだなんてキースは一体何を考えているのだろうか。
「キースが当主を辞めちゃったら、ガーランド家はどうなるの?」
「母方のいとこがそろそろ15歳になる。赤ん坊の頃に両親を事故で亡くしている奴だが、親戚の家で育てられていた。そいつを後継者として指名することになってるんだ」
「あぁ……そういう、ことなのね」
キースの発言はとてもわかりやすい。おそらくその15歳のいとこはキースの母親が亡くなったときは幼すぎたことと、両親が亡くなっていたことで後ろ盾がなく、当主候補になれなかったのだろう。
彼の発言は確かにわかりやすかったが、心が追いつかなかった。
だって彼は当主になってガーランド家を取り戻すためだけに、エルヴァレイン家に引き取られた後、何年も必死に動いてきていたのだから。
「ルアナ。3年間だけ、他の男と結婚しないで」
「ねぇキース、ちょっと待って」
「一生のお願いだ。必ず俺と結婚しなくてもいい、でも俺にチャンスをくれ」
「少し待って、キース! その言い方だとまるで私と結婚するためにガーランド家を手放すみたいじゃない!」
「そのとおりだが?」
当然といった表情で返すキースになぜかふつふつと怒りが湧いてくる。
「何考えてるの!? 自分がどれだけ必死になってガーランド家を取り戻したか覚えているでしょ? それを私と結婚するためなんかに__」
「なんかじゃない!」
「っ!」
大声を出して私の声を遮ったキースに思わず肩をビクッと揺らしてしまう。
キースは髪の毛をグシャグシャと手で乱し、大きく息を吐いた後、肺から絞り出したような声で続けた。
「なんかじゃ、ないんだ。俺にとっては……」
苦しげにそう吐き出したキースに、私はかける言葉が見つからなかった。
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