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《☆》愚か者たちの婚約破棄

☆さらっと読めるショートショートです。

「ライラ! 貴様とは今日で婚約破棄だ!」


 王立学園の卒業パーティーにルディ第一王子の声が響き渡った。

 歓談していた卒業生や父兄の動きが止まる。


 皆の視線の先には、ルディとその腕に絡みついているミーナ・フルーレ侯爵令嬢。そして二人と対峙するライラ・フルーレ侯爵令嬢。


 ライラとミーナは、異母とはいえ姉妹でありながら容姿が対照的だった。

 父親に似て茶色の髪と瞳を持ち、地味な色のドレスを好むライラ。 

 ライラの四歳年下で、母親に似て明るい金髪と碧の瞳を持ち、華やかなドレスを好むミーナ。今日も、卒業生でもないのに主役のようなドレスを着ている。


 妹に乗り換えたって事か?!、と周りの緊迫した状態が

「はい、わかりました」

のライラの一言であっさりと終わった。


「……いいのか?」

「はい。国王陛下も侯爵夫妻もいるここで言ったということは、もう皆さん了承済みなのでしょう?」

 ライラは冷静だ。


 三歳で母を亡くした時から、父親は「侯爵」、後妻は「侯爵夫人」となった。二人の愛情は、後から生まれた妹のもの。自分は、侯爵家の血を引いた居候だ、と思っている。虐待はされていないし、不自由は無いが、家族では無い、愛されてはいないのだと。


 ルディが

「貴様のように地味で陰気な娘より、優しく美しいミーナこそ、我が妻に相応しいのだ! 私はこの、ミーナと婚約する!」

と叫んだ。

 ここで観衆が拍手喝采、の予定が無反応で「あれ?」という顔になる。


「優しく美しい……? それなら、ユリエラ・スーン伯爵令嬢やクララ・ミディトス男爵令嬢の方が優しく美しいですわ」

「やだ、ライラったら」

「こんな所で恥ずかしいわ」

「本当の事だよ。君と結婚出来る僕は幸せ者だ」

「他の男に君の魅力を知られたくないな」

 今までライラと歓談していたのだろう、近くにいた女生徒の中の二人の女性とその婚約者のラブラブが始まり、蚊帳(かや)の外のルディとミーナがイラッとする。

 

 「侯爵家の要らない子」という微妙な立場のせいで、逆にライラは身分の高い者とも低い者とも友人になれた。才女でありながら、その育ちのせいで極端に世間知らずなのが皆に受け入れられた。


「そ、それに、ミーナとの婚約は王家とフルーレ侯爵家との結び付きを深めるだろう!」

 ルディが再び声を張り上げる。


「ミーナはフルーレ侯爵家の血を引いてませんよ」

 ライラの爆弾に会場が沈黙した。


「知らなかったんですか? ミーナの父親は馬丁のハンスです」

 空気を読まずにライラが続ける。

「ハンスはミーナと違って髪と瞳の色は茶色なんですが、耳の形と爪の形がミーナとそっくりなんですよ。特に耳垂(じすい)、耳たぶの事ですが、それが……」

 特徴の説明を受けながらルディがミーナを見ると、ミーナは思いっきり首を横に振る。

 だが、視界の先ではフルーレ侯爵は怒りで真っ赤になり、フルーレ侯爵夫人が真っ青になっている。


 ミーナはライラの話を遮って叫んだ。

「違うわ! 私はお父様の子供よ!」


「ええ、ミーナは血を引いていないけど侯爵の娘よ。侯爵だって、私のお母様が存命の頃から侯爵夫人と付き合っていたのですもの、侯爵夫人が侯爵が存命なのにハンスと付き合っても問題無いわ」

 何を当たり前のことを、という顔だ。


「でも、妻や夫や婚約者がいるのに他の人と付き合うって、私には良く分からない制度だわ」

 ライラの表情に、ミーナはずっと不思議だった事が分かった気がした。


 幼い頃から、自分が両親の愛情を独り占めしても、豪華なドレスを買ってもらっても、綺麗なリボンを買ってもらっても、可愛いぬいぐるみを買ってもらっても、この姉は自分もと欲しがる事は無い。

()(わきま)えているのよ」

と、母は言うが、羨ましいという顔さえしない。


 姉は、要らなかったのだ。

 この(いびつ)な家族ごっこも、婚約者ごっこも。

 



「それでは婚約も無くなったので、私はフルーレ侯爵家から出ていきます。もうお会いする事は無いと思いますが、どうぞお幸せに」

 深く礼をして背を向けるライラに、ルディが思わず声を掛けた。

「出て行くって、どこへ!」

 振り返ったライラは、それを聞いてどうする?という顔だ。

「母の実家です。仕事を世話してくれるそうです」

「準備してたのか……」

「はい。卒業して半年後に婚姻の予定でしたのに、未だに何の準備も始まってませんので私では無くミーナと婚姻するのだろう。なのに私に侯爵家を継ぐように言わないのは、ミーナの子供に継がせるという事なのだろう。ならば家を出なければ、と考えまして」

「……そうか」

 予定では、婚約破棄されて傷心のライラをどこかの後妻にするはずだったのに。



 歩き出すライラにユリエラや友人たちが楽しそうに並び、その婚約者や父兄たちもついて行く。

 他の人たちも、そそくさと出口に向かう。

 腐った侯爵家や、馬丁の娘に愛を誓った王子のその後に興味はあるが、巻き込まれたく無い。



 パーティーは終わった。


 あっという間に会場は閑散とし、残されたのは哀れな愚か者だけだった。


「ライラ! 婚約が無くなったのなら私の従兄を紹介したいの!」

「あら、私の二番目の兄も紹介したいわ」

「……その場合、私は片方の方と婚約しつつ、もう片方の方とも付き合わなくてはいけないのでしょうか」

「「 違ーーう! 」」

 世間知らずと言うより、あの家族のせいで「世間」の基準がおかしいライラであった。


* * * * * * * *


2025年7月2日 日間総合ランキング

13位になりました!

ありがとうございます (≧▽≦)


* * * * * * * *


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挿絵(By みてみん)


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