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第六十八話こんなこともあろうかと!人生で言ったことないな!

「作戦は聞いていました、様々な事を考えた作戦だと思います、ですがアルファさん……もし、もしも私達の護衛任務が無ければ……貴方はどのように行動しますか?」

 お姫様が問うてくる、その顔は微笑んでいるわけでも無表情なわけでもないいつものポーカーフェイスだ。


 何のしがらみも無ければどのように行動するか……そんなのは決まっている。


「今すぐに追いかけて、クソ野郎の顔面に鉛玉をブチ込む……かな」

 俺の回答にお姫様は珍しく、とても嬉しそうにニコニコ顔になる。


「ではそうしましょう!アルファさんの魔法で補給無しの最短最速でクソ野郎を追い掛けましょう!」

 パンッとお姫様が手を打ち鳴らして決定する。


「お待ちください!罠があることがわかっているのに!危険です!」

 ロミがお姫様の言葉に反対する。


 お姫様はニコニコとしながら、ロミを見つめる。


「だって腹が立つじゃない?死霊術師(ネクロマンサー)のゾンビは力ない人を蹂躙できても、ある程度以上の実力者には無力のクソみたいな魔法のクセに」

 なんだか声色がドンドン怒気をはらんでくる。


 こんなに怒る人なんだ……

 

「私の知る最高の冒険者と騎士達から隠れるしかないゴミカスが、力ない無辜(むこ)の民を虐げる……」

 よく見るとニコニコと笑っているが、目は笑っておらず額には青筋が走っている。


 口悪いな……怖い、滅茶苦茶ブチ切れてる。


「私、嫌いなんですよね、そういうの」

 言わんとする事は解る。


 同じ刺客でも傭兵団『(ヘビ)の目』は警備等を除けば第三者を巻き込むのは避けていたように思う。

 

 俺を狙った放火に関しても、火を放つ前に閉所での至近距離からの暗殺を試している。


 それでも尚失敗したので最終手段として火を放ったのだ。


 ロミ達を襲ったのだって殆ど壊滅状態になるまで刺客としての役目を果たそうとしていた。


 敵ながらあっ晴れ……とまでは言わないが、常日頃からの高度な訓練や彼等なりの倫理感や矜持という物が見えた。


 それに対してこの死霊術師は既に戦闘能力を喪失した遺体を利用して、コソコソ隠れてゾンビを送ってくる。


 しかも使っているのは明らかに兵士などではない非戦闘員だ。


 確かに気に入らない。


「だが、1度自爆によってしてやられてる、リスクが高すぎる」

 捕虜へ自爆されて失った事を思い出す。


 もしまたあの自爆ゾンビが大量に展開されたら、護りきれるか……


「アルファさんとロミ達なら次は防げます……でしょう?」

 ……お姫様って実はかなりパワハラ気質なんじゃないだろうか。


 確かに色々対抗策は考えてある、しかし万難を廃する為に待ち伏せという手段を提案した。

 

 だが――


「……そう言われたら、防げませんなんて言えねぇわな」

 危険な自爆ゾンビは致命的な弱点を発見している。


 ノーマルのゾンビ軍団なら武器を使ってくるわけでもなくただ突っ走ってくるだけ、効果的な武器も考えてある。


「アルファ!お前まで!危険だから避けようという話だったじゃないか!」

 お姫様に賛同した俺に対してロミが狼狽する。


 集落を避けて待ち構える計画だったが、最短で追い掛ける方がメリットもある。


「ちょっと落ち着け、最短で追い掛けた方がいい理由がある……勿論人助けもあるが、その他にも色々ある」

 追い掛けた場合の問題点も同時に考える。


「まず第一に、そもそも死霊術師を追い掛ける事はリスク云々の話じゃなかったって点だ……俺の魔法が無ければ近隣の集落には絶対に寄る必要があったという大前提がある」

 死霊術師は傭兵団『蛇の目』の動きを完全に把握して、自爆ゾンビを準備していた。


 つまり傭兵団に襲われて慌てて逃げ出したこちらの物資の状況も筒抜けだと思っていい。


「だが逆に現在の物資の量から必ず立ち寄らなければならない集落を割り出せば、死霊術師の足取りは簡単に掴める」

 相手の行動を読めるというのは明確なメリットだ。


「しかも死霊術師は俺達の補給を許さないようにして、こっちの動きを知った気になってる」

 フェルセブスミーまではまだ何日も掛かる。


 スミーブロクスヘスレからの街道沿いには、近隣の農村から食料を買い取り旅人へ売る事を生業としている小さな集落が点在している。


「あ!はいはいはーい!私この辺りの地図持ってますよ!フェルセブスミーからエルフの里山までは私の担当地域ですから!毎年更新してる最新版ですよー!」

 ネリーが馬の背に積んだバッグから紙で出来た地図――本当に現代と遜色無い高品質な紙――を取り出す。


 地図を広げて全員で頭を突き合わせる。


 地図の縮尺はめちゃくちゃだったりネリー手書きのメモが書かれていたり――ここは村長さんちのパンが謎に美味い!とか――するが大体の位置関係は十分解る。


 この先、道なりに行けばすぐに別の集落がいくつもあるようだった。


「死霊術師は近くの集落を手当たり次第襲ってる筈、その証拠にさっきの集落は遺体が全く無かったのにゾンビの数が十数体しかいなかった……他の遺体はゾンビの軍勢を作るのに持って行ったんだ」

 持って行った――もしくは連れて行った――のは確実だろう、いくら小さな集落といっても、神教会の礼拝堂まである集落だ、十数人では住民が少なすぎる。


 そしてあの後頭部からうなじにかけての複雑な入れ墨、いくら手慣れていようとも何十体ともなると相応の時間が掛かる。


 俺達を集落のゾンビで足止めしつつ、自身の戦力を増強しようとしているのは目に見えている。


「ネリー、ロミ、現状の物資の状況的に必ず通らなければならない所って分かるか?」

 俺の言葉に、2人はほぼ同時に地図上の同じ場所を指した。


 フェルセブスミーまで折返しという場所の少し大きめの集落、近くに小さな山があり川が近くにあるらしい。


「もしギリギリまで物資を節約したとしても、ココに寄らなければこの先にはもう補給できる所が無いからな」


「私もロミさんと同意見です、水も食糧も全員分手に入るであろう場所はココだけです」

 これで追い掛けるルートは分かった、その場所まで最短の集落を回りながら、様子だけ見て止まることなく進む。


 どれだけフットワークが軽くても、ノンストップの馬車とロバの編隊から逃げ続けることは難しいだろう。


「これで死霊術師が通るであろうルートは把握できた……メリットその1だ、そしてメリットその2は待ち構えるのと比べて確実に死霊術師を特定できる所だ」

 地図から目線を離して話を続ける。


 先程ゾンビの為に遺体を持って行ったか連れて行ったと考えたが、そうなれば当然痕跡が残る。


「流石にフェルセブスミーへ入る時くらいはゾンビ達を偽装するだろう……だからフェイ商会の情報に頼る必要があった、だが追い掛けるなら道の途中で追い付けば一目で死霊術師かどうかなんて分かる、遺体搬送用のクソデカい荷車か、ゾンビの大行進が見られるはずだ」

 ゾンビの大行進は別に見たくは無いが……


「それはそうですわね、それならワタクシの使い魔でゾンビの足跡か、荷車の(わだち)を追跡できますわ」

 ルミが賛同して使い魔による追跡を提案してくれる。


 彼女の使い魔ならドローンのように空からすぐ痕跡を見つけてくれるだろう。


「ルミならすぐに発見できる、待ち構えるより追い掛けた方が不意打ちできる……そして最後のメリットだが」

 チラリとレミへ視線を送る。


 レミが無表情のままこちらを見返して目が合う。


「これはもう単純、フェルセブスミーのような大きな街と違ってレミと俺が本気で戦っても二次被害が出づらい所だ」

 レミは全身を覆う鎧によって負荷をかけ続けている。


 オルグ――樹の魔族――を相手にした時の彼女の攻撃……オルグが作った樹の闘技場(リング)があったのにオルグを切って尚、その後ろの森まで余波が及んだ。


 そんな奴が街中の人混みで本気で動いたら……ゾッとする話だ。


 そして俺も周りに人がいない方が対ゾンビ用の武器が使用しやすくなるのでありがたい。


「……随分期待されているが、アタシが()()かは団長の判断が必要だ」

 レミは無表情ながらロミへ視線を向ける。


 その視線にロミは顎に手を当てて考える。


「追い掛けたほうが確実に死霊術師を仕留められる、と、お嬢様もルミも賛同しているとなったら拒む理由も無い……傭兵団の時は不意打ちで鎖にグルグル巻きにされたせいで外せなかったが、この死霊術師……クソ野郎を発見次第、レミの判断で外せ……だが無理はするな」

 ロミ言葉はレミの強さに対する絶対的な自信に満ちていたが、強さとは別ベクトルの心配があるようだった。


「じゃあ決まりだな、追っかけるぞ!」

 俺の言葉に全員が頷き、準備を始めた。 

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