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第六十五話一夜漬けの付け焼き刃はダメだよちゃんと寝ろ

 ドンッドンッと発砲音が鳴り響く、ルミが何度も何度も訓練用の標的へ撃つと穴が空く。


 始めはマスケット銃と比べて部品点数の多さや、複雑に動くレバーアクションを恐る恐る操作していたが、すぐに慣れて堂に入った構えとなる。


 今は約50メートル……30ヴィエンティの位置に人間大の標的だが、ライフルではもう百発百中と言った風情だ。


 ヘッドショットも胸部への射撃も、複数並べた標的に安定して当たる。


 7発の弾を撃ち尽くしたら、すぐにリロードをする。


 そしてまた構えて発砲して当てる。


「まだほんの1〜2時間なのに、手慣れたもんだなぁ」

 双眼鏡でどこに命中したのかを見ながら呟く。


 そういえばこの世界、長さはヴィエンティなのに時間は24時間の60進法だ、地球と同じくらいの直径で自転速度も同じくらいだと必然的にそうなるのだろうか?


 ――閑話休題。


「いいえ……この武器の性能ですわ、こんなに真っ直ぐ弾が飛ぶのなんて初めてですわ」

 俺の声にルミが反応して連射を止め、銃を構えたまま返答する。


 そのまましっかり狙って標的の頭へ7発連射して、全て当たる。


「ライフリングでしたっけ?弾を回転させるとこんなに真っ直ぐ飛ぶんでわねぇ、マスケットでは弾丸をどれだけ真円(しんえん)にして弾の重心を真ん中にするかが真っ直ぐ飛ばすのに最も重要だと考えられていますから、回転させるという発想自体ありませんでしたわ」

 確かに彼女の言う通り、そのような弾は例えばスリングショット――パチンコとも言う――では正しい。


 しかし銃身のある銃であれば回転によるジャイロ効果の方が影響が大きい。


「どうする?もっと遠くにも的を置くか?100メートル……60……59ヴィエンティ?くらい」

 ヴィエンティ換算にも慣れた方がいいな、今後ルミがもっと遠距離での射撃が出来るようになればヴィエンティで話した方が分かりやすいだろう。


「お願いできますこと?30ヴィエンティ(51メートル)60ヴィエンティ(102メートル)と……100ヴィエンティ(170メートル)にお願いいたしますわ」

  ホイホイと返事して、ルミが銃口を下げた事を確認した後にそれぞれの距離へ標的を出す。


 これで全部で3つの標的があるので、後はこの3つを移動させればいいか。


 ルミはレンジファインダー(測距計)を使って距離を測っている。


 シンプルな機能の物だが初めて電子機器を使用した割には、一度の説明でしっかりと使い方を覚えて使っている。


 俺が隣へ戻ると、またルミが射撃を再開する。


 60ヴィエンティ(102メートル)の的へは最初の何発かは外したが、すぐに慣れて当たるようになる。


 この分だと100ヴィエンティ(170メートル)の的も問題なく当てられるだろう。


 尖頭弾ではないラウンドノーズ――丸頭?――弾の.30-30 Win弾を使用するウィンチェスターM1894でも有効射程が200メートル以上と言われているので、100ヴィエンティ(170メートル)より先へも標的が必要かもしれない。


 メキメキと腕を上げる彼女に感心する。


 また7発撃ち切って、小休止する。


「アルファの銃はもっと連射して遠くでも当たってましたわよね?やっぱりもっと高性能な武器の方がいいですかしら……」

 既に100ヴィエンティ(170メートル)の標的にも何発か当てているが、アサルトライフルや軽機関銃によるド派手な土煙等を見ている彼女にはちょっと地味に感じたかもしれない。


「否、いい選択だと思う、護衛任務の特性的に必要なのは遠距離からの狙撃性能より至近距離での確実な無力化だろ?それならボルトアクションよりレバーアクションの方が連射しやすいし、セミオートライフルと比べても十分な制圧効果がある」

 ルミの言葉を否定して今の武器の選択が正しいと伝える。


 確かにチューブラーマガジンは箱型弾倉と比べると射撃毎に重心が変化し、比較的狙撃し辛い。


その代わり数発とはいえ装弾数が多くなるし、そもそも燧石式のマスケット銃と比べれば圧倒的な連射力と長射程を持つのだ。


 更に遠距離を攻撃する事やセミオートでの連射性能を考えるのはもっと連発式の銃という物に慣れてからだ。


「それもそうですわね」

 短く返事して射撃訓練を再開する。


 しばらくルミへ射撃のコツ等を教えていたが、彼女はすぐに適応して銃をつかいこなすので教える事も少なくなり、射撃訓練を眺める。


 ぐーぐーぐー


「アルファ?寝てますの?」

 ルミの声に起こされる、銃声が響く中居眠りしてしまったようだ。


 流石に仮眠を取ったとはいえ、昨日は夜通しアシヌスに(またが)って走り続けたので眠い。


「眠いなら寝ても大丈夫ですわ、ただライフルと拳銃の弾だけは一杯出しておいていただけますこと?」

 その言葉に眠い目を擦りながら弾丸と雷管、火薬を大量購入して取り出す。


 その後またしばらくはルミの訓練を真面目に見守っていたが――


 スヤスヤ……ぐーぐー


◇◇◇◇


「アルファ!起きろ!夕食だぞ!」

 バコンと強い衝撃を身体に受けて強制的に意識が覚醒させられる。


 なんだなんだ!?


「はがぁっ!?」

 飛び起きるとロミが立っていた。


 恐らく寝ていた俺を蹴り起こしたその足は2発目を放つ準備が整っている。


 どうやら2発目が来る前に起きられたようだ。


「起きたか?夕食だぞ」

 気が付くと真上にあった太陽は、随分と西に移動しており、橙色になりつつあった。


 ロミの後ろにはルミが立っており、その先の射撃開始位置付近には真鍮の輝きを放つ薬莢が山となって夕陽を反射している……結構寝てしまったみたいだな。


 欠伸をしながら大きく伸びをして立ち上がり、ロミとルミの後ろへ付いて野営地まで戻った。


 野営地では焚火が焚かれ、ネリーとレミ、珍しくお姫様が馬車から出て車座になっていた。


 適当な場所に腰を下ろす。

  

「途中から寝ちまって悪かった、銃の方はどんな感じだ?」

 ルミへ夕食を食べながら訊ねる。

 

 今日の食事当番であるロミが作ってくれた青い豆を煮た物を食べる……前も食べたが煮るだけでホクホクと美味しくいただける。


「えぇ、ライフルも拳銃も随分慣れてきましたわ、実戦で使えるかはまだ分かりませんけれど」

 食事をしながらルミが応える。


 標的射撃に関しては恐らく問題無いレベルだろう。


 元々マスケット銃で殆ど百発百中だった彼女だが、比較的複雑な操作を要するレバーアクションやリボルバーを実戦で的確に使えるかはまだ何とも言えない。


「へぇー!お嬢様はじゃかいもは潰した方が好きなんですか!私は丸のまま塩茹でしたのをホクホク食べるのが好きなんですよね~!」


「それも食べ応えがあって好きなんですけれど、潰して滑らかになった舌触りが好きです」

 お嬢様とネリーがじゃかいも談義をしている。


 一見楽しそうに見えるが、実際には高度な情報戦が繰り広げられている。

 

「じゃかいもと言えば、高原のポマ領で栽培されるのが一番出回っていますが、その辺りに住んでいらっしゃたりするんですか?」


「ポマ領のじゃかいもはどこにでも出回ってますもの、それにポマ領内部でも他の領の物が相当数混じっていたりするらしいですよ?」

 なんというか、ネリーが情報を引き出そうと話し掛けて、お姫様が楽しそうにのらりくらりと(かわ)す。


 2人ともニコニコ顔で穏やかに話しているのに、スゲー怖い。


「ネリー、余りお嬢様の事を探るようなのは――」

 流石にロミが待ったを掛けようとする。


「ロミ、大丈夫よ、ネリーさんと話すのは楽しいから全然構わないわ」

 しかしお姫様がそれを制止して、ネリーとのお喋りを続行する。


 どこまで本気なのか分かんねぇ……


 お姫様が会話を楽しんでいるのは本当のようで、いつものポーカーフェイスよりちょっとニコニコ度が高めだった。


「アルファ、夕食後に銃についていくつか聞きたい事がありますの、ちょっと付き合っていただけます?」

 ルミの提案に首肯を返す。


 初めて使う武器なのだ、色々疑問点は出てくるだろう。


「あぁ、大丈夫だ、むしろ訓練の成果も見せてくれよ」


 そうして夜は更けていった。 

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