第六十二話プラナリアもそんなに分裂しないらしい
ゾンビに襲われてから月明かりの中を只管進み、空が白み始めた頃に小さな森を見つけ、入ったその中に馬車を停める。
「今日はここで休んで、出発は明日にしよう……」
ロミが疲れた様子で休む事を提案する。
確かに傭兵団の襲撃で宿場を出たと思えば、50人以上いる傭兵団との戦い、捕虜の拘束と尋問、ゾンビの襲撃……全員クタクタだろう。
「私達3人が交代で見張る、アルファとネリーは見張りに参加しなくていいから休んでくれ」
その言葉に待ったをかける。
「待て、見張りには俺も参加するよ、お前等も疲れてるだろ」
彼女等も疲れているのだ、少しでも負担は分散させたい。
ロミがこちらへ視線を向け、一瞬考える。
「わかった、頼むよ」
その顔は嬉しそうに微笑んでいた。
◇◇◇◇
順次仮眠を取り、昼頃には万全ではないが全員疲労は軽減されたようだ。
「これからの事を相談したい」
ロミが音頭を取り、ネリーを含むお姫様以外の全員で車座に座って今後の事を考える。
ネリーが素早く挙手して話し始める。
「はいはいは〜い!なんかイイ感じに元鞘に戻る空気になってますけど!アルファさんは今!私に雇われてるんですよ!?」
……そういえば宿場町でそんな話をしていた。
どうするかなぁ……
「そうなのか?アルファ?そうなると少しややこしくなるか」
ロミが悩んだ声を発する。
「否、ネリーには申し訳ないが、ロミ達に俺を雇う気があるならそちらを優先する」
率直にネリーへ伝える、そもそも契約と言っても書面等でやり取りしたわけではなく、更に報酬や契約内容についての話は何もしていないのだ。
「それはひどくありません!?というか!今!私が1番ヤバい状況なんですからね!?ロミさん達がどなたを護衛しているのか、今何処にいるのか大体知ってる新聞記者なんてカモもいい所でしょう!?」
むむむ……確かにそうだ、彼女は新聞社の情報網でロミ達の任務とその行動を見事に看破している。
そうなれば1人になった途端、他の王女派が情報を引き出そうと狙うのは想像に難くない。
「……ネリー、アルファ、どこまで私達の事を知っている?」
ロミのその言葉にネリーがすかさず口を開く。
「王が黒死病に罹った時、正統な次期王位継承者に白髪の隠し子を指名した事、王の黒死病が治り百合騎士団へ隠し子を王都まで連れて来る命令を出した、という所ですかね」
ネリーが簡潔に俺に話した事を要約して伝える。
その内容にロミの眉間にシワが寄り、どうすればいいのか悩んでいるようだった。
ガチャリ――と馬車の扉が開いた。
「お嬢様!どうかされましたの!?」
ルミが慌てて馬車から降りてくるお姫様の元へ走る。
お姫様はその白い手を挙げ、ルミを制止する。
「ルミ……そしてロミ、レミ、馬車の中から大まかな話は聞こえていました」
ネリーは白髪のお姫様を見るのが初めてなので、かなり驚いた様子を見せる。
「お、お嬢様……?」
お姫様を見たネリーはボソボソと独り言を呟いている。
「ロミ、ネリーさんにも私達に協力して貰いましょう?アルファさんもいたとはいえ、彼女はほぼ完璧に私達の行動を予測しています、それなら逆に引き込んでしまいましょう」
手を合わせて嬉しそうにしながら、眉間にシワを寄せているロミへ告げる。
鶴の一声とでも言うべきか、その一言で信号機はネリーを道連れにすることを決める。
「ネリー……さん、聞いての通りだアルファと共に私達に付いて来てもらう」
ロミがネリーを見ながら同道するよう依頼――強要?――する。
ネリーはその言葉にパッと花が咲いたような、いつものニコニコ顔ではない、本当の笑顔を見せた。
「ロミさん!呼び捨てで結構ですよ!元々貴女方の動向を記録するように会社から指示されてますからね!」
その言葉の後、ネリーがスミー・ブロクス・ヘスレで俺に語った会社からの指示を説明した。
フェイ商会の会長肝いりであること、他の記者やフェイ商会の者へは他言無用であること、記録するだけで記事にするのは王都へ戻り、政治的な問題が解決してからであること。
――なんかいくつかは俺も初耳なんだけど。
「リッカ・フェイ氏はこちらの事情をほぼ把握しているようだな、記事にするのは私達の任務が終わってから……それをネリーに伝えているのは我々と敵対しないというメッセージか」
ロミは顎に手を当てて考える。
その言葉にネリーが反応してパンッと手を打ち合わせる。
「その通り!リッカ会長が狙っているのは既に噂が漏れている王族の話ではなく、王都への帰還までの詳細な独占記事、王族を守る女性騎士達の旅……その物語性を重視したようです」
ニコニコと答えるが、その笑顔はいつも通りのポーカーフェイスな笑顔に戻っていた。
お姫様がハッとしたように両手を手で覆い、目を見開く。
「あらあらあら、じゃあもしかして私達芝居になったりするのかしら?会長のリッカさんにもいつかお会いしたいわ」
……驚いたようなフリをしているが、どこまで本気なのかよくわからない。
彼女はネリーのようニコニコしているわけでも、レミのように無表情なわけでも無いのに何を考えているのかよく分からない。
その為、トランプなどのゲームが鬼強い。
――閑話休題。
「ですので、私もお供させていただきますよー!あ!アルファさんと違って独占取材が報酬ですので旅の経費等は自分で用意しますよ!」
ニコニコとロミの方を見ながら……その笑顔はポーカーフェイスのはずなのに、熱っぽい視線に見えた。
その後一通り俺の契約の話や今後の大まかな行動指針を取り決めたりした。
「よし、話し合っておくべきことはこのくらいか?他に何かある者はいるか?」
音頭を取っていたロミが最後に確認をする。
……昨日のホテルでの襲撃以降ずっと考えていたことがある。
もし今後、蛇の目のような大規模な傭兵団が刺客として送られてきた場合、俺と他の皆が分断される可能性は十分に考えられる。
あのゾンビ集団の事も気になる。
今回は傭兵達の口封じの為だったので助かった――捕虜にした者達を見す見す殺された事に苦い物を感じる――が、もしあの時俺を無視せずに爆発していたなら確実に死んでいた。
そうでなくても痛みも死をも恐れない集団をロミとルミだけで相手にするのは危険だ。
ならば……俺以外の者が、銃を使って戦ってくれたとしたら?
きっと軽機関銃による攻撃も十字砲火ができてより強力な防衛陣地を築けるだろう。
きっと屋内での戦闘時に連発式の拳銃があれば、彼女等自身の身を守るのに役立つだろう。
きっとマスケット銃より長い射程と弾丸の連射力で制圧射撃による援護をしてもらえるだろう。
お姫様の護衛としての視点であれば、悩む必要など無く銃を渡すのが最適解だ。
しかし――死んだ勇者を模倣すればまた武器を出せるんじゃないか?とね。求められたのは勇者ではなく、ソイツが出す武器だけだった訳だ――
ドラキュリオの言葉が脳裏をよぎる。
果たして、彼女達に銃の使い方を教えたとして、俺は必要なのだろうか。
俺が銃を渡さないのは、この世界の物ではないからだとか、銃を持ったことで争いの種とならないか心配だとか――そんな言い訳が思い浮かぶ。
だが、これは向き合わなければならない問題だ。
ルミをチラリと見る。
火傷し、その傷を無理矢理再生したが為に右肩から顔にかけて醜い痕となってしまっている。
……彼女の覚悟を、勇気を想う。
きっと彼女達は、命を懸けてお姫様を護るだろう。
そして傷付き、斃れてしまった時――俺は、銃を渡さなかったことを後悔するだろう。
そこまで考えてやっと決心する。
ルミがロミと更に詳細な質疑応答をしている時に、気合を入れる。
「なぁ、お前等に提案があるんだが……俺の武器を使ってみないか?」




