第五十九話慣れてると思った頃に事故るもんだよ
ロミとルミは馬車を挟んで湖を背にして追い詰められている。
どうやら傭兵達は大きな盾でジワジワと包囲網を縮めているようだ、連発式の銃を警戒しているのか大きな盾の後ろから身体が出ないようにしている。
レミはそこから離れた場所で、鎖にグルグル巻きにされている。
その鎖の先には4頭の馬と十数人の男達が絞め付けようと引いている……が、レミの奴は絞め殺されるどころか馬と男達を引き摺りながらちょっとずつ馬車の方へ前進している。
バケモンやんけ……
どう攻撃するかを決めて購入画面を開く。
レミの方は自由になれば自分で何とかするだろう。
ロミとルミは包囲網を外側から崩してこちらへ注意を向け、2人と馬車を脱出させなくてはならない。
必要なのは2種類の銃、精密に射撃してレミを縛っている馬や人を撃ち倒す狙撃銃とロミとルミを取り囲んでいる奴等を蹴散らす機関銃。
選んだのはドラグノフ狙撃銃SVDとRPK軽機関銃。
ドラグノフ狙撃銃、SVD――7.62×54mmRを使用する旧ソ連が開発した狙撃銃、セミオート且つAK系統の操作性と似ている為、AKの派生型と思われる事もあるが作動方式がショートストロークピストンであり互換性のあるパーツは無い。狙撃銃らしくPSO-1光学スコープが標準搭載されている。
RPK軽機関銃――こちらも旧ソ連が開発した分隊支援火器にカテゴライズされる銃、ドラグノフ狙撃銃と違いこちらは銃身をヘビーバレル化したAK-47と言って過言ではない。
更に追加でレンジファインダーを取り出す。
「アルファさん、私にも何か手伝えることありますか?」
黙々と準備をしていると隣のネリーがコソコソと話しかけてくる。
手伝えることって……
「手伝うって……これから人を殺すんだぞ、意味わかってんのか?」
しかし彼女はいつものようにニコニコ顔を崩さない。
「わかってますとも、それでもロミさんのお役に立ちたいんです」
……アイツ、いつか痴情のもつれで刺されるだろ。
だが助かるのも事実だ、俺1人では機銃手はできても装填や銃身の冷却時間の問題を解決できない。
更にRPK軽機関銃を2丁取り出す。
「じゃあこれからマガジンの交換方法を教えるから、この3丁の銃を順繰りに装填して渡してくれ」
銃身の熱はかなり危険な問題だった、熱によって銃身が反ったり変形したり銃身からの陽炎で狙いが定まらなかったり……と、ロミとルミに当てないように撃つのが難しくなる所だったがこれで解決だ。
「……アルファさん、当然の権利のように発光したと思ったら光が武器に変わってますけど、それどんな魔法なんです?」
ネリーがニコニコ顔……恐らくこれが彼女のポーカーフェイスだ。
主観では突然現れて手に持ってたり、出したい所に落ちたりしてるだけなのだが、そんな幻想的な感じなの?
「詳しい話は後でな、装填方法は――」
適当に話を流して装填方法を教える、AK系統な上に75連ドラムマガジンなのでしっかり手順を教える。
間違っても引き金やチャージングレバーに触れないように何度も念を押す。
俺が彼女に渡す時は必ずセーフティを掛けるのも忘れずに行わなければ、コレは基本の基本なのでちゃんと意識しなくてはいけない。
空のマガジンを入れ替えてくれるだけで一気に隙が無くなり、有利に戦えるだろう。
装填方法を教えた後に、レンジファインダーで距離を測る。
1番遠い所で約320m、ドラグノフ狙撃銃を構える。
はっきり言って本職の狙撃手やマークスマンならあくびをしながらでも当たる距離だ。
まず、狙うのはレミを縛っている馬と男達。
レミに引き摺られているせいで、ゆっくりとしか動いていないし、鎖を離して逃げればレミが自由になる。
えーと……SVDなどのマークスマンライフル系統のスコープはA3W内のデフォルトでは300mに設定されている。
直線距離では300m程度だが、現在の位置は丘の上から見下ろす形なので傾斜を計算に入れる。
上から撃ち下ろす場合は弾が照準より上へ逸れる、その為スコープの目盛りで下目を狙う。
風速と温度に関しては、ほぼ無風かつ暑くも寒くも無いのでそれ程気を使わなくてもいいだろう。
スピンドリフト……弾丸は高速回転しているので、回転方向に螺旋を描きながら飛翔する……今回狙うのは300m先の小さくても人間大なので問題にはならないだろう。
信号機を発見してから5分程経っていたが、まだ膠着状態は続いているようだ。
とは言え、包囲網は最早ロミとルミをもうすぐ捕らえようとしている。
レミの鎖を引いている馬の内1頭を狙う、すぐに次を撃てるように両目は開けたまま右目で照準する。
人間に使われてるだけの馬には申し訳ないが……
ドンッ――
放たれた弾丸は馬の胴体へ吸い込まれる。
ヒヒーン!と離れたこちらまで聞こえてくる大きな嘶きを発して馬が倒れ、上に乗っていた者が振り落とされる。
即座にその馬から最も遠い位置にいるもう1頭を狙って撃つ。
鎖を引いている者達が攻撃されていることに気が付くが……既に馬2頭分の力が失われたので、少しでも鎖から力を抜けば即座にレミがすっ飛んで行くだろう。
更に馬を1頭撃つ、その時点でロミとルミを包囲している集団の最後尾からレミの方へ移動する者達が出る。
だが、その連中が合流する前に最後の1頭を撃つ。
それが決定的だった、ほんの少し鎖が緩んだ瞬間。
「キエエエエエッ――!」
凄まじい声量の喊声が上がった。
レミが自身を縛っていた鎖を引き千切り、自身から離れる鎖を即座に掴む。
「イヤアアアアッ――!」
レミを中心にしてグルリと1回転する。
鎖を掴んだままの者達はその遠心力で何十メートルと吹き飛び、鎖を離した者達は1周して戻ってきた凄まじい速度の鎖に依ってバラバラになる。
……怖っ。
流石に馬を振り回す事は出来ないのか、馬の繋がった鎖は回転途中で離したようだ。
「アルファさん!お口開いてますよ!ほら馬車の方を助けないと!」
……っは!余りにもバケモノじみた所業に一瞬呆けてしまった。
「ネリー!機関銃頼む!」
「はい!どーぞ!」
SVDをネリーへ渡して、代わりにRPK軽機関銃を受け取る。
バイポットを地面に立て、すぐにロミとルミを包囲している奴等へ弾丸の雨を降らせる。
訓練されているが故に完璧な密集陣形を取っており、そこへ発砲すればバタバタと倒れていく。
レミの方へ攻撃した時点でどこから攻撃されているのか探しているが、なんだか全然見当違いの所を探している気がする。
「すごいですね……150ヴィエンティは離れてますよ」
ネリーの言葉に、奴等の行動に得心がいった。
そうか……200メートルも離れた所から伏せて攻撃すると言う発想自体が無いのか。
マスケット、弓矢、魔法、どの攻撃も基本的に立って使う物なのだ。
これはチャンスとフルオートで1分間に600発の弾丸を連射する。
なるべく射撃位置を悟られないように、標的を変えながら撃つ。
バタバタと倒れていく中、75発のドラムマガジンを撃ち切った所で俺を発見したのかこちらを指差している者が出始める。
「ネリー、頼む」
「了解であります!」
ネリーへマガジンの空になったRPKを渡し、別のRPKを受け取る。
こちらを指差して何事か叫んでいる者を優先して撃つ。
やはり手練れ集団、この状況で冷静に陣形を組み替えてこちらへ向かってくる。
その陣形組み替えを指示しているっぽい奴へ弾丸を撃ち込む。
更にこちらへ向かってくる者の中でも弓矢を持つ者、指揮官と思しき者、なんか目立ってる者を優先して撃ち、最前面の大盾を構えた者達を無視する。
2つ目のRPKを撃ち終わった時には、50人ほどいた敵の半分以上は倒れていた。




