第五十八話前の車を追ってくれ。1回言ってみたいよね
「なるほどな……」
ネリーからの情報でロミ達が何の為に旅をしているのかは分かった。
もしも他の王女達による刺客だとすれば、尚の事危険だ。
明らかに移動ルートを把握されていた、つまりはこの宿場町を出た後のルートも割れていると考えた方が良い。
「恐らく、リッカ様……フェイ商会会長はロミさん達が王族の白髪の子を匿っていると確信して私へ指令を出したんです」
新聞記者を持っているような組織の長だ、その情報網は俺の想像を超えるだろう。
「傭兵団の動向でロミ達の位置が分かるかもと言っていたが、既に目星は付いているのか?」
俺の質問にネリーは自信満々にサムズアップする。
「大丈夫です!アルファさんに聞きたいんですが、ロミさん達が出発したのはいつ頃ですか?」
「今朝の事だ、昼に近い時間帯だった」
ネリーの言葉に返答すると、彼女は顎に手を当てて考え始める。
「分かりました!複数ルートが考えられますが、フェルセブスミーへ向かうとしたら高位の貴族がお忍び用に使う道があります、ロミさん達なら恐らくそこが1番可能性が高いかと!」
新聞記者にバレてるお忍び用のルートってなんだよ。
「アルファさんのロバと、私がフェイ商会で馬を借りて急げば十分追いつけます!」
ネリーが熱っぽく話していると――
ドカドカと店の入口から3人の男が入って来る。
そのままこちらを見ると3人で距離を空けて、近付いてきた。
その手には――短剣!
ホテルで出したP90はダブルポイントスリングで背中側、今から構えていては間に合わない!
「ネリー!伏せろ!」
腰からM9拳銃を抜いて、セーフティを外し、C.A.Rシステムのハイポジション……両手で拳銃を持ち、胸に押し付けて左肩を一番近い相手に向けて3発撃つ。
更にエクステンデットポジション……両目を開けたまま両手で握った拳銃を目の前に出し、右目を隠すように持ち左目で照準して4回発砲する。
間を広く取ったといっても、所詮屋内なのでそれほど離れていない残りへ2発ずつ命中して倒れる。
コイツ等……刺客か!?
そう思うとほぼ同時に、店の中へ松明が投げ入れられる。
投げられたその松明は、床に落ちるとすぐに木造建築の床や壁へ炎を広げた。
「うわぁ!火事だ!」
建物内にいた人々が正面出入口へ殺到する。
しかし――
「おい!なんだこの板は!動かないぞ!」
外側から出入口を完全に塞ぐように、木の板が立っていた。
コイツ等!他の客と一緒に俺を焼き殺す気か!
「退け!俺が攻撃する!」
出入口に殺到した人々へ怒鳴るが、全員パニックになっており只管板を退かそうと押し合いへし合いしている。
「裏口も塞がれてる!チクショウ!」
カウンターの奥にある部屋から、絶望的な叫び声が聞こえてくる。
――至近距離での暗殺に失敗したら、即座に密室での放火、パニックなった人々による肉の壁、これが俺の『銃』への対策の答えか。
実際かなりヤバイ。
恐らく出入口を塞いでいる板は木製だが、後ろから人間が押さえているのだろう、しかし殺到した人々が邪魔で射線が通らない。
出口が無いなら、造るまでだ――
「ネリー!身を低くして煙を吸わないようにしろよ!すぐ脱出する!」
A3Wの購入画面を開く、焦る気持ちを抑えながら武器を選ぶ。
購入するのはドアブリーチング用の爆弾。
A3W中でも最安価のラインの物、黒色火薬を中心にして一辺以外に水が充填された四角形のケース入り爆弾だ。
これは爆圧を押し込みたい方向以外を水で囲む事により、爆発に指向性を持たせることができる仕組みだ。
まだ火が回っていない木造の壁へ、装着されている両面テープでしっかりと貼り付ける。
爆発に巻き込まれないようにテーブルを盾にする。
「ネリー!こっちだ!テーブルに身を隠せ!」
「へ!?は、はい!」
ネリーが俺の隣へ隠れて身体を縮こませる。
しっかりと隠れて、爆破ボタンを押す。
ボンッと爆発が起こって火事で煙だらけの建物が揺れる。――幸い建物は爆発の衝撃に耐えた。
壁には身を屈める必要はあるが、十分に人が通れる程の大きな穴が空いた。
「行くぞ!アンタ達も!こっちに出口があるぞ!」
ネリーの手を握って穴から外へ出る。
すぐに正面玄関へ走ると男が5人がかりで板を押さえていた。
その男達に向かってP90を乱射すると、瞬く間に2人が倒れる。
2人分の力を失った板は内側からの避難者によって押し開けられ、生きていた者も板の下敷きにされて踏み付けられる。
「ネリー!アシヌス……ロバの出発準備頼む!」
「了解であります!」
敵が行動不能になったのを見て、玄関部分に停めていたアシヌスの準備をネリーに頼む。
そのまま裏口の方へ走ると、裏口にも5人の男が出口を塞いでいた。
即座にP90で3人撃つと、こちらも正面玄関と同じく中からの人によって押し破られる。
……ただし正面玄関と違うのはこちら側は店の従業員が殆どで、全員がフライパンやら包丁やら棍棒やらを持っていることだ。
「アンタ達を閉じ込めたのは足元の板の下敷きになってる奴等だ!」
殺気立ったその人々に睨まれて、慌てて男達を指差して叫ぶ。
その後はもう酷い、殴る蹴る刺すと凄惨な私刑が始まった。
傭兵達も反撃しようとするが、怒りに恐れを忘れた人々に武器を抜く間も無くボコボコにされる。
殺気立ち過ぎてこっちにヘイトが向きそうで怖かったのですぐに正面玄関へ戻る。
玄関は玄関で、閉じ込めようとしていた奴等が私刑にされていた。
明らかに店の中にいなかった野次馬も私刑に参加しており、怖いのでネリーとアシヌスの元へ急ぐ。
「ロバへ乗れ!アシヌス!2人だが踏ん張ってくれよ!」
ブヒヒーン!
俺とネリーが跨ると、アシヌスは高らかに嘶いて走り出す。
「あ!逃げるならフェイ商会へ逃げ込んでください!匿ってくれますしロミさん達を追い掛けるのに必要な物も手配してくれます!」
彼女の案内でフェイ商会までアシヌスを駆けさせる。
フェイ商会へアシヌスごと無理矢理入ると、慌てた様子のダンディな男性が飛び出してきた。
「あぁ!支店長さん!さっきぶりですね!」
ネリーが親しみの籠もった挨拶をする。
「これはネリー記者、どうされましたか?」
どうされましたか?と質問を飛ばしながら既にアシヌスをしっかりと店内へ入れて出入口を閉じている。
「馬を借りたいです、今すぐ」
「旅用ですか?短距離用ですか?」
「旅用でしばらく走れる体力のある子がいいです!」
「承知いたしました、こちらへ」
ネリーとダンディな支店長が会話して、すぐに希望の馬を見繕ってくれる。
店の奥へアシヌスごと通され、店の裏の厩舎まで案内される。
「こちらの馬でしたら気性も大人しくよろしいかと」
支店長さんが馬へ鞍を取り着けて準備してくれる。
「ありがとうございます、さぁアルファさん行きましょう!」
ネリーが馬に跨ったので、俺もアシヌスに跨ってネリーの後ろを付いて行った。
◇◇◇◇
ドタドタとアシヌスとネリーの馬が駆ける。
途中で何度か方向転換した後、すぐに道を見つけてそこを進む。
この道自体は丘陵地帯にある踏み固められた小さな物だったが、小さな丘がいくつもあり、アップダウンの多い道だ。
確かにこの高低差なら多少遠回りしても平野を行った方がいいので人は少ないし、逆にお忍び用のルートとしてはそこまで障害物があるわけでもないのでいい道だ。
いくつかの丘を越えた所で、四方を丘に囲まれた小さな湖が遠くに見え、そこには見覚えのある信号機が居た。
「ネリー!止まれ!追い付いた!」
「えぇ見えました!でも既に取り囲まれてますよ!?早く助けに行かないと!」
ネリーの焦った声が聞こえるが、アシヌスを止めて丘の頂上部で伏せる。
それを見たネリーも俺の真似をして、馬を止めて伏せた。
「ど……どうするんです?すごい数ですよ?」
遠くから見ただけでも判る、少なくとも50人はいそうな大群だ。
その軍勢によって、レミとロミ・ルミが完全に分断されていた。
「ここから攻撃を仕掛ける」




