第六話旅立て!異世界ファンタジーと言えば冒険だよね!えっ!?移動手段は徒歩のみ!?タクシーは!?配車お願いします!!
「貴女何言ってるのよ、太陽の輝きはいつも巡礼に来てもらっている熟練の冒険者達よ、アルファさんは確かに手練れみたいだけど……この辺の出身じゃないそうだし1人ではどうしようもないわ」
エマが困惑した顔でマリーの突飛な提案に反論する。
「いいえ!彼が居れば大丈夫よ、例え他の皆が行かなかったとしても私は行くわ……そうじゃなきゃマークス牧師の最後の巡礼は失敗だったと勇教会の記録に残ってしまう!そんなのはダメよ!」
髪を振り乱し必死な声でエマや他の人達に話しかけるが、エマ達は全員明らかにヒいた様子でマリーを見ている。
俺もちょっとヒいている。
「分かってるとは思うが俺達は付いていけない、少なくとも2人が完治するまではな……」
アシムが憔悴した声で言葉を発する。
「そうよ、第一新しくアルファさんを雇う費用なんて無いわよ」
「それは……えっと……巡礼後の達成補助金で……」
エマの言葉にマリーがしどろもどろになりながら発言するが、全く説得力はない。
「冒険者に後払いなんて無理に決まってるでしょう……言うことを聞いて一度開始の教会に戻りましょう?」
最早呆れた色を隠すことなくエマがマリーを諭そうとする。
マリーは反論する言葉が思い浮かばないようで、下を向いて小刻みに震えている。
「もう夜も遅い、色々あったからマリーさんも疲れて正常な判断ができないんだろう……今夜は休もう」
アシムがそう言いながら明らかにふらついた怪しい足取りで救護室の方に向かう……が、あの様子ではレイアとレーンの介抱を朝まで続けるのだろう。
続いてミーンとリルルが付いていく。
「今夜は頭を冷やしなさい、詳しいことは明日決めましょう」
エマの言葉に聖職者達が頷き、各々寝る準備をし始める。
礼拝堂の壁際に寄せてあった背嚢に取り付けてあった布を椅子に敷いて横になる。
俺、寝袋とか何もないよ……というか夜も遅いってまだ21時にもなってないんじゃない?寝られるか?……と、どうしようか考えているとマリーが近づいて来る。
「巡礼を終わらせる訳にはいかない……皆が寝たら隙を見て出発するわ、貴方のことも調べるから一緒に来て、お願い」
コソコソと小声で告げて来る、ついさっきエマに怒られたばっかじゃん……と思いながらこの後の身の振り方を考える。
この世界に来た時、マリーはすぐ傍にいたので十中八九俺の事情について何か知っていることは間違いない。
しかしながらマリーは人に会ってから一貫して異世界から召喚されたという話を全くしていない、そのことをどう捉えるか考える必要がある。
中世の魔女裁判みたく異世界人は問答無用で火あぶり……もしかするとそれはまだいい方で異世界人のキモが珍味で生きたまま新鮮な内臓を取り出して刺身で……なんてこともあり得る。
「わかった、出るときは声をかけてくれ」
すぐに付いていくことを決定する。
流石に何をするにも情報が無さすぎる、マリーから何とか情報を引き出さなければ藪蛇を踏むことになりそうで何もできない。
とりあえず空いている椅子に座って購入画面を開く、All World Weapon's Warでは武器だけではなくあらゆる時代・国の軍用装備が購入できる。
暗いフィールド用のタクティカルライトや体力回復用のファーストエイドキットはもちろん、試合設定によっては空腹度や喉の渇きなどのパラメータのあるルールやゲーム内時間で何日間か生き延びるルールもあるため食品・飲料・寝袋などの生活雑貨が購入可能なのである。
魔物を倒したことでポイントが結構ある、どうも倒した魔物によって得られるポイントに差があるようでフォレスト・ドッグ1匹よりドッグ・タイガー1匹の方がかなり多い。
後で旅立つということだったのでMOLLE対応の大型バックパック……M16A1とM1911A1を装備しているのでハバーサックと悩んだが……を購入する。
自身の装備を改めて確認しながらインベントリとバックパックに整理して仕舞っていく。
インベントリはアイテムの量によって移動速度や疲労度が変わらないが、代わりに容量が少なくアイテムを出すのに必ず停止して視界を塞ぐ画面を出さなければならない。
対してバックパックは容量が大きく複数のフルサイズのライフルを取り付けたり、一部の外側に配置したアイテムを素早く持ち替えたりできるが重くなるほど移動速度が下がったり疲労度が増加して戦闘が不利になるといった違いがある。
今の俺の格好は上下が緑の作業着のような服にMOLLEシステム……正確にはMOLLE規格の1つであるPALS……のついた薄い布地のベスト、ズボンが脱げないようにする物とは別のタクティカルベルトにはホルスターと予備の弾倉2つ、ダンプポーチが付いており、踝を覆うハイカットブーツを履いている。
ダンプポーチに入れていた空のマガジンをショップ画面で売却する。
空のマガジンや弾の無くなった銃は売却できる、大したポイントにならないので地面に捨てたほうが早いためゲーム中では誰も利用しなかった要素だが。
そのままショップで何点かのアイテムを購入し、バックパックに詰める。
タクティカルベルトを外してバックパックに詰め込んで椅子で横になる……この先どうなるのだろう、俺は地球に帰ることができるのだろうか……
◇◇◇◇
「起きて、お願い」
しばらく椅子で微睡んでいたらマリーが小声で声を掛けて来たので、俺は黙って起きて静かにバックパックとM16を取る。
「皆、ごめんなさい……」
教会から出るときにマリーが小声で名残惜しそうに呟いた。
外に出ると大きな満月が燃え尽きた焚火の後を照らしている。
「……月がきれいだな」
ふと思ったことが口を突いて出た。
「そうね、満月でよかったわ……」
マリーは特に気にすることなくズンズン歩いていく。
村を出た先には見たことのない道が延々と続いていた。
いよいよ冒険の開始です。
別に月は1つの世界です。




