第五十七話追っかけて、追われて
ネリーに雇われないかと提案を受けて、俺もどうするかゆっくり考えたいので近くのカフェ……というよりバー?食堂?のような店へ移動し、正面玄関にアシヌスを停めて、腰を落ち着ける。
そしてもう1度。
「改めて……私に雇われてみませんか?」
ネリーのその言葉は先程までのオーバーな演技ではない、真剣な色が籠もっていた。
……雇われてみませんか……って言われてもなぁ。
「雇われても、俺はロミ達の居場所なんて分からないぞ」
そう、用済みの俺は彼女等の行き先を知らない。
否、正確にはフェルセブスミーを経由して王都へ向かうということは知っているが、ルートまで把握していない。
この宿場町も港湾都市であるフェルセブスミーも広いため、どのような計画で移動するか分からない中で追いかけても出会える可能性は低い。
「その居場所、調べられると言ったら?雇われてくれます?」
ネリーは不敵に笑って、人差し指を立てる。
……こいつ、ロミ達をどう探すか途方に暮れていたってついさっき言ったばっかだろ。
「実は大規模な傭兵団が不自然に隊を分けて各地に散らばっている、という情報が手形と一緒に会社から送られてきたんです」
大規模な傭兵団……もしかしてアイツらの事か?
丘で包囲してきた野盗とホテルを襲ってきた集団を思い出す。
「フッフッフー!その顔、心あたりがお有りなようですね!今確信しました、その傭兵団の動向を追えばロミさん達に辿り着けます!」
おぉ……すごい、記者っぽい……否、探偵か?
しかしその情報はおかしい、前後が逆な気がする。
「なぁ、情報がネリーまで降りてきたってことは、その傭兵団ってもしかしてかなり前から行動してるのか?」
――つまりロミ達はずっと待ち伏せされていたのか?
じゃあ、ロミ達の旅のルートについてある程度知っている者による刺客達ということか?
「はい、どうやら去年からの迷宮都市がゴタゴタ後から『蛇の目』という傭兵団が何かを探すように動いていたようです」
内通者が彼女等の中にいる……?否、それはあり得ない。
もし彼女等の中に内通者がいるとしたら、ゴブリンを蹴散らし、大鬼を撃ち倒した『銃』の情報を真っ先に刺客へ伝える筈だ。
それならば――あの3人以外の百合騎士団……の誰かということになるのか?
「その蛇の目って傭兵団はどのくらいの人数がいるんだ?」
最初の襲撃で12人、この街のホテルで魔術師を含む5人前後を葬っている。
死者17名、負傷者も入れればそれ以上。
はっきり言ってほんの5人程度の集団を狙うのに損害がデカすぎる。
それでも尚、追ってくるということは余程の報酬か……仲間の仇討ち……もしくは両方か。
「構成員は100〜200人いるという話ですよ、全員が戦闘員では無いと思いますが」
その数なら、すでに人員が1割は亡くなっている。
規模を考えれば戦闘員より後方部隊はかなり多い筈なので、実際に高度な戦闘行動を取れる実行部隊は残り少ないだろう。
だが、それでも尚1つ言えることは……ロミ達だけでどうにか出来る規模ではないということだ。
「わかった雇ってくれ、ロミ達が危ない」
俺が握手をするために手を差し出すと、ネリーが待っていましたとばかりに両手で握る。
「では!契約成立ですね!報酬についてでも話し合いましょうか!」
ブンブンと握手した手を上下に振り回しながら笑顔になる。
彼女に雇われるのはいいが……報酬の前に聞かなければならないことがある。
「ネリー、報酬の前に……お前、ロミ達が何の為に旅をしているか知ってるだろ?」
「ギックーン!!」
図星の音を声で出すな、明らかにフザケている。
しかし彼女はニコニコ顔の仮面を外さずに話し始める。
「やはり、アルファさんも知らされてませんでしたか……まぁ私も推測が多分に含まれているので、知っているかと聞かれますと……」
「それでもいい、教えてくれ」
ニコニコしている顔を真剣に見つめる。
俺は彼女等の事を何も知らない。
知った所でどうだという気持ちもあるが、やはり知りたい。
彼女等が何を……誰を護っているのか。
「……去年の春頃、迷宮都市の事件より前ですね、王宮内で黒死病が大流行したんです」
ネリーが語り始める。
その顔はニコニコと笑っていたが、真剣な色を見せていた。
「その時、現在の王様も黒死病に罹ってしまい本当に後数日の命という状態になったわけです」
そんなことがあったのか、その頃の俺はまだこの世に産まれてないんじゃないだろうか?
「そうなれば当然出てくるのは王位の継承について、現王の子供には男子がいないので誰が王位を継ぐか揉めに揉めた訳です……そんな中、瀕死の王が最期にと、自分には白髪の子どもがいると明かしたんです!」
白髪……?お姫様?
「白髪って、そんなに重要なのか?」
王位継承の話になぜ白髪の子どもの存在が問題になるのだ?
「この世界を創造なされた神である『最初の白髪の女神』様と同じ髪色であることは、神より選ばれた者ということ、特に初代勇者の血を引く者で白髪というのは王位継承について特別な意味があるんです」
なるほど……この世界で信仰されている勇者の血とこの世界を創造した神と同じ特徴。
なんとなく話が見えてきた気がする。
白髪のお姫様、お忍びの騎士たち、それを狙う刺客。
「で、ですね……ここで王がお亡くなりになられれば、王直属の王騎士団が次の王を迎えに行けば良かったのですが……宰相が苦し紛れに招聘したフェイ商会会長お抱えの医師団が後数日の命と言われていた王様を治しちゃったんです」
治しちゃったって……そんなやらかしたみたいな言い方は無いだろう。
というか、黒死病……ペストを治したって?
「すまん、お抱えの医師団が治しちゃったってどうやって治したんだ?他の医者は匙をなげたんだろ?」
「すみません、その内容は私も知らないんです。かなり厳重に箝口令が敷かれたらしくフェイ新聞社はもちろん、親会社のフェイ商会内でも知る者はほぼいないようなんです」
……治療内容の秘匿、まぁ商会ということは商人なんだから企業秘密をおいそれとは漏らさないか。
しかし……もしかして王様を治した医師団が治療に使った物って……
サルファ剤のような抗菌薬、もしかすると抗生物質か?
新聞社を作り、黒死病を治せる医師団を抱える……『リッカ・フェイ』まさかとは思うが一度会った方がいいかもしれない……が、今は別の話だ。
「すまん、続きを聞かせてくれ」
「では、王様は無事回復しましたが、すでに王宮内では各王女達による王位継承争いの派閥が完全に形成されてしまったわけです。そうなるといくら王様といえども宮廷内での直接戦力である王騎士団を王都から離すわけにはいかなくなったんです」
ネリーが頬に指を当てて続きを語り始める。
所謂“大人の事情”のせいで、王宮内はてんやわんやだったと。
「かと言って白髪の隠し子の存在は明かしてしまった、どうにかして王宮へ連れてきて護らなくてはならない、でも王騎士団ですら王女の派閥で割れかかっていた、どの王女の派閥でもない実働部隊が必要……そこで白羽の矢が立ったのが――」
「百合騎士団……ってことか」
ネリーが頷く。
得心がいった、ロミが語っていた殆どお飾りの騎士団。
「そう、団員の殆どが名目だけ所属している貴族女子で構成される彼女達はどこの派閥にも属していない……いえ、どこの派閥も見向きもしていなかった……彼女達は王様が直接指揮権を持つ、実質的には王位継承者へ遣わせられる唯一の実働部隊だったわけです」




