第五十六話別れ話はキッチリしとけ、自然に消滅させると自然の猛威が来るぞ
「アルファ、君との旅はここまでだ」
ロミとレミに合流し、現在は逃げ込んだ本館の客室でこれからどうするか話し合いを始めた開口一番にロミから放たれた。
「……はぁ?」
何でそうなる、突然の言葉に何と返せばいいのか分からない。
「これから先にガイドはいらない、護衛は私達だけで十分だ」
護衛は私達だけで十分……こいつ、本気で言ってんのか?
ついさっき襲撃をルミと協力して切り抜けたばっかりだぞ。
否、これも俺が彼女達を舐めているだけなのだろうか?
「本来ならエルフの里山で別れるべきだった、傭兵団との戦い、今回の襲撃……私達はお前の強さに甘えてしまっていた」
甘えて……って……
「報酬の人探しはどうするんだよ?王都まで行かねぇとダメなんじゃないのか?」
マリーを探すのにはこいつ等の口利きが必要だ。
そんな伝手は俺にないからこそ、彼女等の依頼を受けたのだ。
「安心してくれ、私が一筆書く、それを持って王都の勇教会へ行ってくれれば、報酬の金銭も情報も受け取られるようにしておく」
報酬の心配はするな、ということか。
アシヌスがいれば俺1人でも王都へ行くことができるだろう。
……どうするかなぁ。
「まぁ雇い主のお前等が決めた事なら俺も従うよ、でも……大丈夫なのか?これはお前等を舐めてる訳じゃない、前の野盗と今回の襲撃者、恐らく同じ傭兵団だぞ」
つまり、彼女等の装備や練度はバレている。
かなりの手練れ集団だ、特別棟では組織的に玄関を突破しようとしたし、俺が連発できる飛び道具を持っていると見るや戦線を一気に正面門の塀まで下げていた。
『戦線を下げる』これもまた口で言うのは簡単だが、誰が指揮官か?指示が来ればどのように行動するか?を高いレベルで訓練する必要がある。……数十人規模でそれができるのはとてつもない練度だ。
「大丈夫だ、ルートを変えて見つからないように王都へ向かう」
うーん……見つからないように、ねぇ……
彼女等にも考えがあるのだろうが、相手は確実に彼女等4人――恐らくお姫様――を狙って来ている。
こんな由緒正しそうな宿でも位置がバレている事を考えると、上手く行くとは思えないが……
「いくつか言っておくが相手はレミを知っていた、そして今回の件で俺の事も認知した、次は万全を期してくるぞ」
前回はレミの圧倒的な『強さ』と俺の『銃』というイレギュラーがあったので返り討ちにできた。
今回は恐らくレミの不在を狙って来たのだ、ロミが燃やした死体も知識のある者がよく見れば長剣でバラバラにされたことは判るだろう。
その代わり俺の付けた銃創は判らなかったようで、銃への対策が甘かった。
次はそのどちらにも対策を打ってくると考えた方が良いだろう。
「大丈夫だ、私達にも考えがある」
その言葉は、ひどく頼りなく感じた。
◇◇◇◇
「はぁー、どうするよ、アシヌス」
アシヌスのカッポカッポという足音と共に宿場町を当て所なく歩く。
話し合いを終えた後、彼女等4人は慌ただしく出発し、俺は宿場町にしばらく滞在する事にした。
マジでどうすっかな、王都へ行くのは決まっているのだが……何というか、張り合いがない。
彼女等から報酬金――解約金?――の一部を硬貨で貰ったので金銭的な心配はない。
A3Wのポイントが結構貯まったので物質的な心配もない。
しかし俺の心はまるで燃え尽きた後のような、虚無感が広がっていた。
宿場町の中心部へアシヌスと向かい、どうするか考える。
中心部は外れにあった宿の辺りより、更に人が多く賑わっていた。
ボケーッとしながらアシヌスと人波を見る。
「あれあれあれ〜!?アルファさんじゃないですか〜!」
しばらく考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
そちらを見ればエルフの里山で会った……緑髪の……なんだっけ?
「あら〜!もしかして覚えてないですか!?フェイ新聞社!シャル王都支社の!栄えある新聞記者!ネリー•スーです!」
あぁそうそう、新聞記者さんだ。
しかし、もう追いついて来ていたのか……
「こんな所で奇遇っすね、取材ですか?」
社交辞令を唱えると、ネリーはオーバーなリアクションで驚いた仕草をする。
「わぁ〜!すっごくどうでもよさそうな顔で聞いてきますね!せめて半開きのお口は閉じてくださいよ!」
言われた通りお口をちゃんと閉じる。
俺が口を閉じたのを確認した後、ネリーはキョロキョロと周りを見回す。
「まぁそんな所です、ロミさんが見当たりませんが別行動ですか?」
彼女は首をひねって考える素振りをする。
「アイツ等とはもう関係無いよ、クビになったんでな」
俺の言葉に、今度は演技ではない本当の驚いた顔を見せた。
素の彼女の表情を見ると、やはりあどけなさを感じさせる少女という年頃なことが判る。
「え?クビ……ですか?貴方が?」
その言葉に俺が頷くと、混乱したような様子で何か考えている。
「イヤイヤ……すみません、私、てっきりアルファさんがあのパーティの副リーダーだと思ってたもので……」
「何でそうなった?」
どこからそのような考えになったのだ。
そもそも5人しかいないのに副リーダーが必要か?
「ロミさんから聞きましたけど、魔族を追うのもアルファさんが決めた事で、森の中でもレミさんに指示してましたよね?」
それだけで副リーダーなら指示厨は全員副リーダーだろ……
「俺は雇われてただけの、ただの冒険者だよ」
面倒になってきた、会話を打ち切ってアシヌスと逃げるか?
俺の言葉にネリーが何か思いついたように笑顔で、両の手を合わせてパチンと音を鳴らす。
「なるほど、なにか問題があってクビになっちゃったけれど、それはそれとしてロミさん達が心配で心配で仕方ないと」
……こいつ結構鋭いな。
とはいえ、信号機とお姫様はもう出発しておりそのルートも分からないのだ。
心配しても何も出来ることはない。
結局、彼女達にとって俺は所詮どこの馬の骨とも分からない冒険者だっただけだ。
「ふーむ……アルファさん、今度は私に雇われてみる気はありませんか?」
ネリーが唐突に俺へ手を差し出して提案してきた。
なんで?
「なんで?」
なんでなのか分からず、つい思ったことがそのまま口をついて出た。
「実はアルファさん達のことを王都の編集長……偉い人に使い魔通信で送ったんですけど、いつもなら1ヶ月くらい平気で待たせるのに!なんと!今回は即日返信が来てですね……その内容が皆さんの動向を記録して報告しろとのご指示でして……」
ネリーがニコニコと話を続ける。
しかし動向を報告しろとは、どういうことだ?
もしかして今回の傭兵達について何か知っているのか?
「それどころか各地のフェイ商会支部から旅に必要な物品の無償購入や……それこそ馬ですら無条件に借りていいという手形まで寄越してきたんです」
灰色に輝く四角いカードを見せてくる。
ネリーの名前が彫られており、そこが淡く光っていた。
「そしてその手形にはフェイ新聞社の親会社のフェイ商会会長の直筆サインが入ってるんです!」
ネリーの名前の上に刻まれたそのサインを見ると、ミミズがのたくったようなこの世界の文字で『リッカ・フェイ』と書かれていた。
「そんなん俺に見せていいのかよ……」
「私以外には使えないようバッチリ対策されてる高級品ですから、で、皆さんの様子からスミー・ブロクス・ヘスレにいるのではないかとエルフの里山から馬を飛ばして、ついさっき到着したんです!」
胸を張って誇らしげに語る。
「……が!広い街のどこをどう探すか途方に暮れていた時に!まさに!運命と言っていいでしょう!アルファさんが口を半開きにしてロバさんと一緒にいるじゃあないですか!」
口を半開きにしてるのは別にいいだろ……
ネリーは熱っぽく続ける。
「ロミさん達が心配なアルファさんと!ロミさん達を追いかけたい私!なので!」
彼女は緑の目をこちらにまっすぐ向けて言う。
「私に雇われてみませんか?」




