第五十五話勇気と無謀、たまに無茶
ドンドン玄関扉が叩かれ、蝶番ごと外れそうになる。
「オイ!出入口はここしかないのか!?」
とにかくこのまま留まるのはヤバい、最低でもお姫様とルミには逃げてもらわないといけない。
「裏に厩舎へ繋がっている扉がありますが、厩舎の門は鉄製です!そちらから来ることは無いです!」
普通この規模のお屋敷なら勝手口などがあるものだが、どうやらここは特別棟、出入りは簡単じゃないらしい。
じゃあとりあえず、この玄関をこじ開けようとしている奴らを追い払わなくては。
ルミの使い魔である針金製の鳥へ話しかける。
「ルミ!お姫様を頼む!玄関から通さないよう敵を制圧するから、部屋で籠城してレミが戻ってくるのを待ってくれ!」
俺1人なら何とでもなる……と思う!
レミさえ戻ってくれば、俺と2人で一気に殲滅できる……筈!
扉を押さえていた手を放して、P90を構える。
安全装置を外し、フルオートに設定していつでも発砲できるようにする。
「オイ!扉が破られる瞬間に全員、横に逃げろ!俺の攻撃に巻き込まれるぞ!」
ドンドン、ミシミシと玄関扉が悲鳴を上げている。
ズドン!と扉の蝶番が吹っ飛び、大きな丸太と共に何人かが侵入してくる。
「ぐあっ!」「うわあ!」
タタタ!と指切りして即座に侵入者へ3発ずつ撃つ。
前が倒れたのを見て、玄関扉から丸太が後方へ引き抜かれて剣や槍を持った賊が迷わず突進してきた。
すぐさまP90の5.7x28mm弾を撃ち込み、動きを止める。
出入口が1か所なのでこちらの攻撃を避けることができない上、大きい扉と言っても一度に2~3人通るのがやっとの広さなので、入ってこようとした奴等へフルオート射撃を続ける。
50発という大容量のマガジンのお陰で、何とか制圧射撃ができる。
「なんだ!?魔術師か!剣士は聞いてたがこんな攻撃は聞いてないぞ!」
どうやら6人ほどやられたところで、こちらの攻撃の性質に気付いたようで、無謀な突進をする者がいなくなる。
――剣士は聞いていた……?――
こいつ等、もしかして宿を狙った只の無頼ではないのか?
思えば扉を破った時に入ってきた奴等がやられた後に入ってきた者達は、飛び道具の鉄則である『ビビらず走れ』を実践していた。
そしてこちらの攻撃が連射可能と見るや、玄関の柱や壁に隠れて意思疎通を図ってイレギュラーに対応しようとしている。
もしかしてかなり訓練されているのではないか?
「我が火炎は全てを焼き爆ぜる!」
盾を構えた男が玄関入口に飛び出したかと思えば、その後ろに炎の玉を手にした魔術師らしき男が魔法を放とうとしていた。
即座に射撃する。
元々20世紀末~21世紀のボディアーマーを貫通する為に開発された5.7×28mm弾は、盾を容易に貫通した。
そのまま炎の玉を投げるタイミングを窺っていた魔術師にも乱射する。
「うおっ!」
その内の1発が魔術師に当たり、炎の玉を取り落とす。
ボゴォオオオオオ!と凄まじい火の手が上がる。
そんなもん木造建築に投げようとすんなよ!!
「うわあああ」「ひいいい!」
外の賊が炎に巻かれて逃げ惑う。
射線に入った者を容赦なく撃つが、苦痛に狂った者達が屋敷内に侵入して延焼させる。
クソが!カーペットや剥き出しのフローリングがメラメラと炎を上げる。
扉を押さえていた男性達とメイドさん達が火を消そうとするが、その努力も空しく。
消防法どころか建築基準法も無いこの世界の建物は、瞬く間に炎が広がる。
「我が火炎は全てを焼き爆ぜる!」
叫び声に紛れて、またあの魔法の詠唱が聞こえる。
慌てて玄関口から外を見ると、弾丸が当たった右腕をダラんと下げながら左手にまた炎の玉を持った魔術師がいた。
自爆はしないのか!ていうか!この大惨事で更にぶっ放すつもりかよ!
P90を撃ち込み、ソイツを今度は確実に無力化する。
「ブフッ」
ポーン……と左手に持っていた炎の玉は見当違いの方向へ――主に上方向へ逸れて、ボゴォオオオオオ!と屋敷を揺らす。
ガラガラと上階から屋根が崩れている音が聞こえた。
拙い!2階にはお姫様とルミが――
1階も火が回り、黒煙が視界を覆う。
ビュン!ビュン!と黒煙の向こうから風切り音が聞こえ、慌てて屈む。
丁度相撲の蹲踞のような体勢となりながら、P90を撃つ。
当たらなくていい、威嚇射撃だ。
しかし炎が拙い、このままでは屋敷内の方が危険である。
どうする?飛び出すか?外にはあと何人いる?
「アルファ!脱出しますわよ!」
煙の中からルミの声が聞こえる。
無事だったか!
「ワタクシが左をカバーしますわ!アルファは右を!貴方方は厩舎からワタクシたちの馬車を本館へ移動させてくださいまし!」
テキパキと俺や宿の従業員へ指示を出して、俺の後ろに来る。
しかしカバーすると言ってもルミは……
そう思ってルミの方を見ると――
その右肩から顔の右頬まで、深い火傷を負っていた。
「その傷……」
「大丈夫ですわ!お嬢様は無傷です!一気に行きますわよ!」
ルミが左手にマスケットを持ったのを見て、俺も腹を決める。
P90のマガジンを交換して突撃に備える。
玄関から一気に飛び出す、ルミの側にも敵がいたが、ルミは迷うことなくマスケットを撃って仕留める。
俺の方も敵へ発砲して倒していく、警戒した敵が屋敷の塀まで前線を下げて弓矢を使おうとしている。
頭を出した奴に弾丸を放つ。
ヒヒーン!と大きな嘶きが響く。
この鳴き声は!
ドドド!と馬車が俺達の前に停まる。
「お待たせいたしました!さぁ!乗って!」
御者台には男性2人とメイドさん方3人の計5人がギュウギュウに乗っていた。
「お嬢様!こちらへ!」
ルミに導かれてお姫様が馬車へ乗り込む、その姿は少し煤で汚れていたが、確かに無傷だった。
ルミは馬車のサイドにある乗り込み用のステップへ乗ろうとするが、右手で馬車の手摺りを握ろうとして苦痛に顔を歪める。
「ルミ!お前も――」
馬車内に乗れ、と言い掛けた所で。
「白髪の女神よ慈悲の神よ勇気ある者よ、その身を癒したまえ」
シュウウゥと音を立てて火傷が塞がり、デコボコのケロイド状に皮膚が生まれる。
「オイ!そんな無理矢理治癒したら傷跡が――」
「だからどうしましたの?早く乗ってくださいまし!」
その言葉に馬車へ飛び付く。
俺とルミが馬車に掴まったのを確認して、御者台の従業員たちが馬車を発車させる。
ブヒヒヒーン!アシヌスがひと際大きく鳴くと、他の2頭の馬と共にガラガラと走り出す。
何とか屋敷を脱出する。
どうやら馬の類は用意していなかったようで、追っ手はいなかった。
「まず本館へ向かいます!あっちなら十分な人員が配置されています!」
そのまま本館へ向かった。
◇◇◇◇
本館へ到着すると、そこには大勢の屈強な男達が戦いの準備をしており、ロミとレミもいた。
「アルファ!ルミ!無事だったか!」
馬車が停止すると、ロミが駆け寄ってきた。
降りて、手を振る。
「俺は大丈夫だ、でもルミが……」
ルミを見れば、右手から右肩、右頬まで醜い火傷跡ができていた。
しかしそんな彼女は全く気にしていないように、ロミに向かう。
「お嬢様は馬車内ですわ」
ロミもルミの顔を見て一瞬驚いた顔をするが、すぐに冷静な顔になる。
そして口元に手を当てて何かを考えている様子だった。
「申し訳ございません、お客様。この度は我々の不手際でこのような……」
ホテルから身分の高そうな人が土下座でもせんばかりに、俺達に頭を下げた。
「否……我々もまさか特別棟に来るとは思わなかった……特別棟に我々がいることを知っている者を少なくするため、最低限の人員にしていただいたのが裏目に出た」
ロミが悩みながら、その声は本当に今回のことが信じられないという様子だった。
レミも険しい顔をしている。
そしてルミは火傷痕がどうとかではなく、明らかに一皮剥けたような精悍な顔になっていた。
男子3日見ざれば刮目せよというが、女子は1日だな――なんて思った。
結局ロミとレミが正しかった、ルミを舐めていただけ、レミの言う通りに俺は彼女を全然知らなかったのだ。




