第五十四話宅配です、血判ください
豪勢な宿に着いた次の日の朝、なんと今日はレミの喊声が聞こえない。
その代わり耳を澄ますと、ビュンビュンと風を切る音が部屋の外から聞こえてくる。
声を上げずに棒を振り回しているだろう。
というのも昨日の夜、これまた豪勢な夕食が同じ建物内の食堂で提供され、舌鼓を打っているとロミから全員へ宿からの外出を禁止されたのである。
ロミ曰く。
「ここで何日か我々の用事を済ます必要がある、お嬢様にも申し訳ございませんが、その間はこの建物から出ないでいただきます」
とのことだった。
更に説明が続き、ここの位置がバレると――ウンタラカンタラ――言っていた。
その為、レミも今日は室内で棒振りをしている、流石に叫ぶのは自重しているらしい。
廊下でやっているが、めっちゃ埃が立っていそう……
俺は俺で、こんなに広い建物に滞在する事は中々無いのである種類の武器を購入画面で購入する。
P90――最も有名と言っても過言ではない個人防衛火器……PDWに属するマシンガン、拳銃用の弾丸より強力な5.7×28 mm弾を使用する。
何と言っても目を引くのは人体工学に基づいた銃とは思えぬ奇異なデザインだろう。
ブルバップ式に丸みを帯びた独特な本体は全長が短く、特に近距離での戦闘に重きを置いた銃である。
50連発のマガジンを外し、薬室内に弾が無い事を確認して構える。
しっかり安全装置を掛けたまま、トリガーへ指が触れないようにする。
その状態で部屋の中をゆっくりと歩き回る、しばらくそうした後に扉を開けて廊下へ出る。
廊下の突き止まりではレミの棒振りしてる姿が見える。
俺は色々考えながら、P90を構えて建物内を動き回る。
曲がり角を曲がる時に、どのようにクリアリングすれば安全か?
建物内を回り込まれて背後を取られたら、どのように反撃するのがセオリーとなるか?
狭い廊下で前に仲間がいる場合は、どのように行動すればいいか?
当然、A3W内でのセオリーや鉄板という戦術は多くある。
しかし、それは最終的に相手をキルすることが目的の立ち回りだ。
今回はあくまで護衛、または撤退戦を想定する。
建物内での行動は想像以上に死角が多い。
しばらくそうしていると、怪訝な表情をしたメイドさんが恐る恐る朝食のできたことを報せてくれた。
「今日1日外出する。レミは付いてきてくれ、ルミはお嬢様を頼む」
朝食後、ロミがそう言って外出した。
流石に訳ありという感じなので俺が付いて行くのは拙いと思い、部屋でゴロゴロすることにした。
夕食と朝食で思ったのが、食事は豪勢なのだが何故か様々な香辛料をこれでもかと利かせている物が多いのに味が薄いというミスマッチな味がするなぁ、ということ。
地球の中世ヨーロッパでも香辛料は貴重だったということなので、多分『こんなに高価な香辛料をいっぱい使ってますよ!』というアピールなのかもしれない。
昨日の夕食と朝食の料理を1つずつ脳内でレビューしていると、コンコンと隣の部屋へ続く扉からノックオンが聞こえた。
「アルファ!トランプしましょうとお嬢様が誘ってますわ!」
扉へ向かう前にルミの声が届いたので、トランプ片手に持って扉を開ける。
見ると、窓際のテーブルにお姫様が退屈そうに座っていた。
窓際とはいえ、そこには木製のブラインドのような物が嵌め殺しになっており、外の景色は見えない。
そのテーブルに俺とルミも座って、トランプをシャッフルする。
「アルファさん、この前のババ抜き以外のゲームも教えてくださりません?」
お姫様が俺の無駄に凝ったシャッフルの動きを見ながら、目を輝かせて聞いてくる。
うーん、ババ抜きでトランプの数字と記号は分かっただろうし、もう少し実力の絡むゲームがいいか。
テーブルへトランプを置いて、シャーっと横並びにした後、端から華麗に裏返し、また元に戻す――スプレッドとターンオーバーとか言うらしい――テクニックを見てお姫様とルミが『おー!』と歓声を上げる。
ちなみにこの動作に本当に意味は無い、A3Wのモーションの1つである。
「じゃあ大富豪でもするか」
2人へルールを説明して、トランプに興じる。
レミとの言い合いの後、ルミとは色々話しているが人を撃つ事に対する是非については全く話せていない。
どう思っているのだろうか?ここに来た時もルームクリアリングは手慣れた様子で行っていた。
しばらくトランプをしていると――
「ねぇ?ルミは今回の任務、どう思ってるの?」
お姫様が徐に切り出した。
え?何?急にぶっ込んで来るじゃん。
「……どう、とは?どういう事でしょうか」
問いの意味が分からないのか、困惑した表情で返答する。
「私……ルミに人を撃って欲しくないわ」
手札から視線を逸らさずに、お姫様は悲しげな表情をしている。
「……ワタクシは騎士ですわ、お嬢様の為なら……撃ちますわ」
ルミが手札から8を出して、場がリセットされる。
その後、3を出した。
「騎士だから……私の言うことは聞けない?」
お姫様が一気にクイーンを出す。
その目はルミを見てはいない。
俺は黙ったまま、キングを出す。
……?……全く関係の無い室外が、ドタバタと騒がしくなる。
「おい、なんかヘンじゃないか?」
無表情で話していた2人へ、その違和感を伝える。
耳をすませば、1階から叫び声のようなものが聞こえてくる。
オイオイオイ……何が起きてるんだ?
「様子を見て来る、2人はここで待ってくれ」
2人へ告げて椅子から立つ、外へ向かおうとすると。
「待ってくださいまし、これを持って行ってくださいな」
ルミから布で包まれた丸い何かを渡される。
これはなんだ?聞こうとしたところで布がシュルシュルと解かれ、布の翼を持った針金の鳥になって俺の肩へ登る。
「我が左目は空を舞う――使い魔ですわ、各感覚を共有してますから、ワタクシにも見えますわ」
使い魔か――確か森ゴブリンの時に使っていたな、と思い出す。
部屋を出ると、部屋の外――2階は静まり返っており、1階部分から音が聞こえてくる。
P90を構えて1階へ向かう。
階段で降りた先は中2階――1.5階くらい――となっており、1階には大きなロビーがあり、その先に正面玄関があるのだが……屈強な男性2人とメイドさん3人で玄関扉を押さえていた。
扉からは外からドンドンと大きなハンマーで叩かれているのか、こじ開けようとされているのが分かる。
「オイ!どうした!?」
慌ててロビーの階段を下りて抑えるのに加勢する。
「お客様!お部屋にお戻りください!我々が対応いたしますので!」
一番年長と思われる屈強な男性の殆ど叫び声が訴えて来る。
いやいやいやいやいや!明らかに大丈夫じゃないだろ!
「何が起こってるんだ!こんなの戻れって言われて、戻る奴いないだろ!」
扉を押さえながら何が起こっているのか聞こうとしているが――お部屋にお戻りください!と男性達だけではなくメイドさん達も同じことを吠え出す。
いやいやいやいやいや!俺が離れたら今にも破られそうな玄関扉でそんなこと言われたって無理だって!
「部屋にいる仲間も使い魔で見てる!マジで何が起こってるのか教えてくれ!そうすれば逃げるか部屋に引っ込むかするから!」
俺の言葉に苦悶の表情を浮かべた年長者の男性が、少し悩んだ後話し始めた。
「賊の襲撃です、何故ここが狙われたのかは分かりませんが、この特別棟は最低限の人員しか常駐していない為、今本館に応援を要請しています!」
賊ぅ!?こんな明らかにヤバい建物にぃ!?
「もう誰もいないのか?警備の衛兵とか!」
「外に数人いましたが数が多すぎてやられてしまっています!」
クソがっ!お部屋にお戻りになんてなれないだろコレ!




